雨モノクロ沈胴ズミクロン

2021.09.23PHOTOGRAPH and WOLF

SONY α7S / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

遠慮なく入ってくるゴースト、ゆらゆらと揺らめくボケ味、破綻する像、それが1956年のレンズ「沈胴式ズミクロン50mm」である。撮った写真をよく見ると、アウトフォーカス部分では花の茎が切断されるほど破綻している。現代の常識ではありえないほどのクオリティの低さとも言えるだろう。2年ほど前に手に入れてからすぐに業者のメンテナンスに出し(65年前の古くないデザイン1stズミクロン)さらに自分でも分解掃除してビカビカにしたレンズなので、この沈胴式ズミクロンはかなり良好な状態にある。つまりこれが沈胴式ズミクロンの実力なのだ。

お世辞にも「キレイ」に撮れるレンズではない。何も考えないで使うと「な〜んだ、こんなものか…」とゴミ箱にポイしたくなる危険性がある。M型ライカと合わせたデザインは抜群だが、古いレンズに共通した魅力と欠落があるだけで、唯一無二と言えるほどの何かがあるとも思えない。フルサイズのカメラではなくマイクロフォーサーズと組み合わせてマクロ撮影用に使うのもいいなと思ったが(花とペンズミ中毒)そういう使い方ならMDロッコール50mmの方が思い描く絵を出してくれた。超レトロな佇まいの沈胴式レンズを1度は使ってみたいという欲望に駆られて使いだしたというのが正直なところで、なかなか「コレだ」という使い道がなくて放置していた。しかし、時間が経って改めてこのレンズで撮ったものを見ると、全部ではないにしろ妖しく魅力を放つ写真が何枚かある。「う〜ん、コレはコレで何かいいね。」というヤツだ。もしかして、わかっているつもりでわかっていないのかもしれない。そこで、この物足りないけど不思議な魅力を持つ沈胴式ズミクロンと、いま一度戯れてみることにした。

SONY α7S / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

全方位的に「何でも撮れる」レンズではない気がする。強い光のコントラストに負けてしまうことも多い。体感としては雨や曇りの日と相性がいい気がする。絞りを開き気味にして周辺を落とし、情緒的なトーンにするととてもいい。手で触れると崩れてしまいそうな、そんな儚げな情緒を描ける。絞りを開けるならフルサイズのカメラを使う方が好みだ。

SONY α7S / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

SONY α7S / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

SONY α7S / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

SONY α7S / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

SONY α7S / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

SONY α7S / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

クローズアップレンズや接写アダプターを使って撮るマクロ。小さいものに寄って撮る場合はマイクロフォーサーズのPEN-Fを使う。ピントの合っていない部分を極端に省略するせいか、写真と絵画の中間にあるような不思議な写真が撮れる。マクロやハーフマクロでは、曇った日よりも強い光が充分にある晴天の日の方が嬉しい。撮ったままだと物足りないことが多いので、RAW現像でのフォローは欠かせない。

OLYMPUS PEN-F / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

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沈胴ズミクロンは1970〜1980年頃のオールドレンズのように、モダンレンズを蹴散らすような「パワフルな描写」というのは持っていなくて、そういうのとはまったく別の種類として考えた方がいい気がする。他のレンズと同じような使い方をすると、良くも悪くも欠点ばかり気になってしまうので、そうならないためにも思い切った「割り切り」が必要だ。フルサイズのカメラではなくマイクロフォーサーズのPEN-Fを使い、絞りをF8、カラーをモノクロに固定して写真を撮る。画角は50mmの倍、100mmになってかなり狭くなるが、せっかく狭めた制限を広げたくないので他のレンズは一切持たない。

OLYMPUS PEN-F / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

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OLYMPUS PEN-F / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

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OLYMPUS PEN-F / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

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他人に課される制限は鬱陶しいが、自分で設けた制限は案外自分自身を開放してくれる。沈胴ズミクロンのような由緒正しきオールドレンズの場合、撮るものや撮る道具に多少制限を設けた方が楽しめる気がした。サービスや商品のセールストークでは昔も今も「誰でも簡単にできます」というクソみたいな文句が溢れている。「誰でも簡単にできます」という誘いの先に、価値あるものなど待っていない。「誰でも簡単にできます」を手に入れてそれで本当に金が稼げるか?女にもてるか?楽しくてたまらないか?ということである。モノクロ写真も、沈胴ズミクロンも、なかなか難しい。1000枚撮ったくらいじゃモノにできないところが、いいところなのかもしれない。

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