現実と絵画の間に

2021.05.26PHOTOGRAPH and WOLF

OLYMPUS PEN-F / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

絵になる風景というものがある。ハンサムな人を形容して「絵になる」と表現するように、「絵になる」は賞賛の意味で使われる言葉だ。ずいぶん昔、広告の仕事で女優吉永小百合さんの撮影に参加したことがあったが、ちょっとした合間のちょっとした仕草も実に「絵になる」方だった。絵になる…、は大抵美しい人か美しい風景に使われる。言葉の由来はわからないが、きっと絵として残して飾っておきたくなるような、という意図から生まれた表現なのだろう。

ふらふらと歩いて写真を撮っているとき、自分が「絵になる」と思ったものにカメラを向けてシャッターを切る。カメラを向けたものが壮大なものでも、ありふれたものでも、自分の目が「いい絵だな」と感じたものに反応していく。決して劇的ではない日常的な場面でも、露出やアングルでなかなか味のある1枚になってしまうところが写真の面白いところだ。レンズを通して世界を覗くと、肉眼で見るのとは違う世界を見ることができる。開放近くのF値、広角、望遠というのがまさにそれで、現実世界を少し違った角度から捉えることが面白い。

LEICA M Typ240 / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8

OLYMPUS PEN-F / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

写真を熱心に撮り始める前から「生っぽい写真」があまり好きじゃない。報道写真なら生々しくてもいいだろう。それ以外なら広告でもファッションでも趣味でも「ありのまま」が焼き付いた写真ほどつまらないものはない。写真らしい写真、だから何だ?という感じである。本当に生々しさを表現したいなら、露出やアングルや現像に生々しく見えるための工夫が必要で、そうでないと生々しいというより生ぬるいだけの写真になってしまう。日本にはハイスペックなカメラがそこら中で売っているが、どんなに高い機材を使ってもrawデータそのままというのは見るに耐えない。シンプルすぎる料理の代名詞でもある寿司でも、魚を切って酢飯と合わせるだけでなく、美味しい寿司なら必ず「職人の細やかな仕事」が施されているものである。ディテールを省略してしまうオールドレンズは、僕が嫌いな生っぽさが緩和してくれるので有り難い。アウトフォーカス部分のうるさいザワツキも大歓迎だ。ただし、デフォルトのままの写真はお世辞にもいいとは言い難い。カメラが現像するJPGなら悪くない場合もあるが、rawは非調整のデータなのでホワイトバランス、コントラスト、色のバランスを調整してやらないと、オールドレンズのクオリティの低さばかりが目立った写真になってしまう。せっかく撮ったのだから、もやっとして、不鮮明で、暗いだけの写真にはしたくない。

OLYMPUS PEN-F / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

OLYMPUS PEN-F / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

OLYMPUS PEN-F / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

OLYMPUS PEN-F / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

写真は絵画とは異なる。しかし撮るものや撮るコンディションによって、まるでイラストや絵画のような写真になることがある。コントラストが強く、色の階調が滑らかでないときがそうだ。絵のように見える写真の是非については賛否両論あって、そういう写真を邪道だとか外道だとか論外だとか言って毛嫌いする写真家は多いと思う。しかし、写真も絵画も、言ってみれば同じ美術表現なのだから、写真らしいとか絵画らしいとかそういうのはどうでもいいと思ってしまう。写真でも絵画でも、グッとくるビジュアルを求める思いは同じだからだ。

SONY α7S / MINOLTA MD Rokkor 50mm F1.4

個人的な「絵のような写真が好き」という趣向を別にしても、写真は現実と絵画の中間にある存在のような気がしている。現実というのは目の前に実際にある現象や事実で、絵画は写生にしろ抽象にしろイマジネーションから人が創り出す創造物だ。写真はその間にあって、現実でもなく創造物でもない不思議なものが1枚の写真に焼きつくことになる。これは実に興味深いテーマだ。昔も今も、写真みたいに見える精密に描かれた絵が評価の対象になっているが、絵のように見える写真だって同じように評価されてほしい。

SONY α7S / Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ MC

SONY α7S / Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ MC

幼い頃、絵を描くのが好きだった。絵を観るのも好きだったが、決して芸術的感性があったからではない。ただ単に目が良くて手先が器用な少年が、絵を描くのが人よりも上手だっただけだ。テストで100点をとったことでもなく、親に英才教育を与えられたことでもなく、クラスで1番カワイイ女の子に「絵がうまいんだねウフフ」と言われその素敵な微笑みが原体験となってグラフィックデザイナーという職業に就いた。カワイイ女の子の「ウフフ」には、そうですか、そうですよね、そういうことならいいでしょうと思わせるほどの圧倒的な引力があるのだ。絵が好きだった少年が大人になり、やがて自分で絵を描くことはほとんどなくなってしまった。仕事を始めてからは、絵が必要になると金を払ってイラストレーターに発注するという便利な仕組みにすんなりと移行してしまったからだ。ビジネスというものはそういうものだ。人にお願いするのも自分でやるのも同じくコストがかかり、自分よりも上手な人にお金を払ってやってもらった方が効率的なのだ。じゃあ今はどうか?と言えば、鉛筆や絵の具の代わりに写真という仕組みを使って、世界の片隅で自分らしい絵を描き続けている。

OLYMPUS PEN-F / MINOLTA MD Rokkor 50mm F1.4