日本人の遺伝子と「茶の道」

2022.06.18PHOTOGRAPH and WOLF

LEICA M11 / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

新型コロナという暴風雨にかき乱され、この2年間で様々なものが浮き彫りになった。ビジネスの脆さ、家族との繋がり、必要なものと不要なもの、人間関係、自分の生き方。それらの問題点は、世界的感染症によって生まれたのではなく、もともとそこにあって露見しただけだ。臭いものにはフタをしろ、という感じで見て見ぬフリをしてきたものもある。あるいは、気づきもしなかったということもあるだろう。いずれにしろ、目の前に具体的な像を描いて現れなければ、僕らはハッキリと認知することはできない。膨大な数の人間を殺し今もなお強制力のある新型コロナによって、いままで明確に感じることのなかった様々なものを知ることになる。感染症の流行で浮き彫りになったものの1つが、世界と日本との違いだ。つまり、我々日本人は世界の人々と明らかに「違う」ということである。

LEICA M11 / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

一時期の日本では、行政が国民の行動を規制していないのに感染者数の増加を抑えることができた。言うまでもなくそれは国民の自主的な自粛が要因となっている。世界では「ミステリーだ」とか「不可思議な現象だ」とかそんな感じで報道され、日本はやっぱり不思議な国だというイメージをより一層強めたことだろう。恨まれてもいいから強い政策を打ち出そう、そういう立派な政治家がいないのは嘆かわしいことだが、自主的に共生できる能力を持っていることは誇らしいことだと思う。最近ハマっている韓国ドラマを観ていると、韓国人と日本人の共通点がちょいちょいあって面白い。韓国の人は否定するかもしれないが、多方面で追い抜かれる前の日本の影響が如実に感じられる。当たり前だが同じアジア人として容姿も似ている。だが、やっぱり明らかな「違い」がある。主にそれは精神構造だ。

例えば、我々日本人には「その辺にゴミを捨てたら他の人に申し訳ない」といったマインドがある。会社や家族の健康が保たれるなら自分は我慢しよう、封を開けるための切り口があると使う人が喜ぶな、とかそういうことは多くの人が持っている精神構造だ。似たようなマインドを持った国がないわけではないが、新型コロナという非常時によって日本という国が世界の国と明らかに違うことを実感できた。何ていうか、完全に「違う」のである。日本は平和な国だから危機感が足りない、という言われ方をするが、もしかして危機に対する考え方は世界の国よりも優れているのかもしれない。細やかなものを捉えられることや共生する能力に長けているといった長所の反面、大局が見れないことや主張が少ない短所を持っている。他国と比較して劣っているように思える部分。そういう負の部分が嫌で仕方がなかったが、歳とったせいか光と影はセットなのだから無理に遺伝子に逆らわずに生まれ持ったアイデンティティを受け入れた方が健全なのかもしれないな、そう思えるようになってきた。「健全なのかも…」とつい口に出てしまうところが、これもまさに日本人の証だ。

LEICA M11 / MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8

LEICA M11 / MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8

写真家久保田光一は日本の聖地と呼ばれる場所を巡って写真を撮る写真家だ。小澤征良さんの詩とコラボレーションした写真集「聖地へ」がその代表作で、作品は全作モノクロ写真で綴られている。久保田氏は商業カメラマンをベースとしていて、僕はデザイナーとしてタレントや商品の写真撮影を何度もお願いしたことがあるし、写真に狂いだしてからは仕事よりもプライベートで面倒をみてもらっている。久保田氏の写真は「重くて柔らかい」写真だ。決して軽くはない。海外の写真家のようなスピード感や派手さはないが、一瞬を切り取った写真であっても、前からそこにあってこれからもずっとそこに居続けるような、しっとりとした魅力を持っている。そして、実に、誠実だ。紹介するのは、久保田氏の新作写真集「茶の道」である。

久保田氏は茶道家もやっていて、写真集「茶の道」は茶会の場面を切り取った作品集だ。カラーとモノクロ写真で編集されたこの写真集を、僕のネットショップ「PHOTOBOOK WOLF」でも販売させてもらうことにした。

場所を整え、ホストがゲストをもてなし、お茶をたてる、お茶の集い。茶会は厳かで経験のない人には敷居の高いものに思えるが、日本人のマインドを体現しているとも言える。だが、この写真集は茶道の解説本ではない。お茶に興味がある人や携わる人のためにつくられた写真集でもない。では、何が作品に写っているのかと言えば、やはりそれは僕が稚拙な形容詞をつけるよりも実際に手にとって各々に感じていただきたい。「そうそう、日本人ってこういうこと。」日本人の遺伝子に響く不思議な写真集である。

ネットショップで購入
PHOTOBOOK WOLF 写真集「茶の道」