無駄に思えるプロセスは報われる

2020.07.15PHOTOGRAPH and WOLF

SONY α7SとCANON 100mm F3.5 IIの写真作品01

SONY α7S / CANON 100mm F3.5 II

ちょっと前まで、カメラもレンズも価格が高いものの方が優れていると漠然と思い込んでいた。ペンタックスのスーパータクマー(PENTAX Super Takumar 55mm F1.8)をアマゾンで7,000円で買ったのが2年ほど前。店頭で数万円で売っている現行のレンズより、1万円もしないの古びた中古レンズの方が遥かに魅力的だと知り、僕のチープな価値観はかき乱された。それからオートフォーカスのモダンレンズではなく、マニュアルフォーカスのオールドレンズへ気持ちがシフトしていく。1万円、2万円という低予算でもしかしたら魅力的なレンズと出会えるかもしれない、という宝探し感覚もなかなか楽しい。大きくて重いレンズは苦手なので、比較的小ぶりなライカL・Mマウントのオールドレンズを中心にアンテナを立てていく。持ち歩いても邪魔にならない中望遠レンズが欲しいなぁ、そう思って時々お世話になる大貫カメラへ。店に行く度に溢れんばかりの知識とレクチャーを浴びせてくる店員M氏がいつものように接客してくれて、ライカの90mmをいくつか試写して「う〜ん、いい感じだけど急ぐ買いものじゃないしなぁ。」と唸っていた。すると「こんなのもあるよ」とM氏が出してきたのがCANON 100mm F3.5 IIだった。何これ?可愛いじゃないの!しかも安い!というわけでお買い上げ。1958年発売、ライカLマウントのオールドレンズを1.7万円で購入した。

SONY α7SとCANON 100mm F3.5 II

この62歳のキヤノン100mmは、小さくて軽い。重さは184g、フードとLM変換リングを含めても223gしかない。まるで男性器のような細長いシルエットで、カメラにつけた姿はカッコイイとは正直言い難いが、フルサイズで使える中望遠がこの軽さで持ち歩けるなら文句も言えまい。汚れた中古レンズをそのまま使うつもりはないので、すぐに分解掃除してレンズをキレイに磨き上げる。

SONY α7SとCANON 100mm F3.5 IIの写真作品02

SONY α7S / CANON 100mm F3.5 II

SONY α7SとCANON 100mm F3.5 IIの写真作品03

SONY α7S / CANON 100mm F3.5 II

SONY α7SとCANON 100mm F3.5 IIの写真作品04

SONY α7S / CANON 100mm F3.5 II

SONY α7SとCANON 100mm F3.5 IIの写真作品05

SONY α7S / CANON 100mm F3.5 II

近所の朝を撮影する。オールドレンズらしく、絞っても細部の輪郭は柔らかい。フルサイズのカメラを使えば周辺部が柔らかく減光し、いい雰囲気を出してくれる。天気を含む自然光のコンディションがよかったのか、ファインダーを覗いた瞬間からこのレンズを気に入った。他の中望遠と比較してないものの、何枚か撮った後「これはいい買いものをしてしまったな」とニヤつくことになる。しかし、まあ、レンズに何にしろ、買った直後はそれについて満足しているもんだ。それが数ヶ月経つと「何でコレ買ったんだろう…」になってしまう。買いものとはそういうものだ。買って、何回か使ってみなければ良さはわからない。僕の場合どうも頭が悪いのか、数枚撮っただけではわからず、100枚、200枚と撮ってみないとレンズとの相性を実感できない。そういうタイプの人間は、買うものに過剰な期待をせず、落胆が大きくならないように安い買いものを心がけた方がいい。オールドレンズを買いだしてから、この作戦は割とうまくいっている。どっちにしろ、人と自分の撮る写真は違う。美的感覚やスキルや評価も違う。だからインターネットで沢山レビューを見たところで、実際に使ってみないと結局のところ良さはわからない。時は金なり。ビビっときたレンズが1、2万円で売っているなら、それを買わない理由はないのである。

SONY α7SとCANON 100mm F3.5 IIの写真作品06

SONY α7S / CANON 100mm F3.5 II

SONY α7SとCANON 100mm F3.5 IIの写真作品07

SONY α7S / CANON 100mm F3.5 II

SONY α7SとCANON 100mm F3.5 IIの写真作品08

SONY α7S / CANON 100mm F3.5 II

SONY α7SとCANON 100mm F3.5 IIの写真作品09

SONY α7S / CANON 100mm F3.5 II

SONY α7SとCANON 100mm F3.5 IIの写真作品10

SONY α7S / CANON 100mm F3.5 II

SONY α7SとCANON 100mm F3.5 IIの写真作品11

SONY α7S / CANON 100mm F3.5 II

買った機材を何回か使ってみて「う〜ん、どうもなぁ。」と思うこともある。残念ながら合わないと思ったものは、しつこく持っていないでさっさと売り払ってしまう。買ったり売ったりを繰り返し、いったい何をやっているんだろうと思う時もある。オツムが賢くない人間は、そういったプロセスを踏まないと解答にたどり着くことができないのだ。スマートな思考でもジタバタした思考でも、最終的に答えにたどり着ければそれでいい。肝心なのは途中で投げ出さないことだ。少し前に読んだコミック「宇宙兄弟」の中で、いい製品をつくるためには失敗するためのコストを見込む必要があるというエピソードがあった。失敗を経て完成したもの、それが本当にいい製品だという話。いい製品をつくるためには、その過程で生まれる失敗作分の費用も含んだ予算が必要になる。機材選びも、それとどこか似ている気がする。レンズを3本買ってその内2本気に入らなかったとしても、その2本の経験は無駄にはならない。人の撮った写真で知った「う〜ん、どうもなぁ。」と、実際に使ってみて知った「う〜ん、どうもなぁ。」では、情報の質と量がまったく違うのだ。例えばコシナのレンズVoigtlander NOKTON Classicは大のお気に入りレンズで、35mmと40mmのどちらも愛用し沢山写真を撮った。焦点距離か5mmしか違わない2本だが、10,000枚以上撮ると別物だとわかる。結局残したのは35mm1本だった。こういう微妙なニュアンスは、実体験がないとつかめない。

SONY α7SとCANON 100mm F3.5 IIの写真作品12

SONY α7S / CANON 100mm F3.5 II

数回使ってみて、オールドキヤノン100mmは今のところ僕のツボに入ってくる。現代のレンズと比べて恐ろしく安い値段で買ったこのレンズを、10年後も気に入っているかどうかは正直わからない。違う中望遠レンズを見つける前の踏み台になってしまうかもしれない。ポテンシャルを知る上でも、できるだけ持ち歩いて、これでもかと言うほど写真を撮ってやろうと思う。

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