それをする意味

2023.12.20PHOTOGRAPH and WOLF

Nikon F2 / Nikon Nikkor-H Auto 50mm f2

そんなことしたって意味ないよね、安易にそう断言できる輩は本質を何もわかっていない。わかることができないのは、わかろうとする気持ちがないからだ。意味や価値は、実は幻想だ。そして幻想はいつの時代も人がつくりだしている。何かに意味を持たせるのは、事実そのものでなく事実を咀嚼して栄養にする「人の質」が大きく関係している。

コダックのフィルムを10本買ってNikon F2PEN-Fでアナログな撮影をしてみたら、自分の中で興味深い発見を得られた。僕のように1970年代に生まれ写ルンですのような使い捨てカメラでフィルムをかじり、気がつけばデジタルにどっぷり浸かってしまったアラフィフ世代にとって、いまさらフィルムで写真を撮るなんて「新鮮」以外の何者でもない。仲のいい写真家が8×10のような古めかしいカメラでフィルム撮影しているのを心のどこかでバカにしていたが、いざ自分でアナログな撮影をしてみるとデジカメでは得られないものがあって感慨深い。

フィルムに焼きついたものをそのまま他人にプリントにしてもらっても楽しさは半減する。スキャナーでJPGデータにスキャンするのも同じだ。最終形がプリントでもデジタルデータでも、仕上がりは自分が意図したものにしたいものである。僕の場合、フィルムで撮っても35mmしか使わないので、ニコンのマクロレンズとアタッチメントを使い、現像されたフィルムを今度はデジカメで撮影してデジタルに変換する。フィルムについた埃をブロワーで飛ばし、自作したホルダーにフィルムを差し込み、1枚ずつスライドさせて撮影していく。地味で面倒な作業だが、避けては通れない。

撮影したrawデータは「ネガ」の状態なので、これをトーンカーブを使ってヒストグラムを見ながらRGBごとに反転していく。この工程でネガフィルムのくすんだ不気味な世界が、色を纏った甘美な世界に変わる。この瞬間が結構気持ちいい。

RGBのちょっとしたバランスで写真のニュアンスはかなり違ってくる。ほんの少しの加減でシャドーもハイライトも青みがかったり赤みがかったりと色味が傾く。一般的で中庸なバランスに持っていくのは難しいが、あえて中庸なバランスを目指さない方が面白い写真になる気がしている。少しくらいバランスが崩れている方が魅力的に思えるのは、人も商品も写真も同じである。

Nikon F2 / Nikon Nikkor-H Auto 50mm f2

Nikon F2 / Nikon Nikkor-H Auto 50mm f2

Nikon F2 / Nikon Nikkor-H Auto 50mm f2

Nikon F2 / Nikon Nikkor-H Auto 50mm f2

Nikon F2 / Nikon Nikkor-H Auto 50mm f2

Nikon F2 / Nikon Nikkor-H Auto 50mm f2

Nikon F2 / Nikon Nikkor-H Auto 50mm f2

ネガフィルムを反転して色をつくっていく作業をしていると、普段デジタルカメラで撮ったものを現像するのとは一味違った色味を見ることができる。トーンカーブを調整する途中で「こんなのもいいね」と手を止めることもある。もっと、もっと、と色調整を詰めていくのもいいが、良く思えた一瞬の感性も大切にしたい。写真を撮っているときは、撮るたびにスマホアプリの露出計で露出を測ったり、それも面倒になってEVFをつけたLEICA M11を露出計代わりに使ったりと何かと面倒で、撮影自体が楽しいかと聞かれても何とも言えない。だが、デジタル化の作業はデジカメで撮ったものを現像するのとは違った楽しさと発見がある。今どきな清潔感漂う爽やかな若者が現像するゆるふわ写真と違って、濃く、くどく、しつこいオジサンがデジタル現像すると、写真もはやり、濃く、くどく、しつこい味になる。

Nikon F2よりハーフサイズのPEN-Fで撮った写真の方が粒子が荒く、ディテールが写らなくなる。撮れた写真たちはお世辞にも「いい感じ」とは言い難いものばかりだが、僅か数枚ではあるが色合いやトーンがどこか懐かしいようでずっと追い求めてきたような、何とも言えない風合いを帯びた写真になった。粒子の粗さと露出がオーバーしていることもいくらか関係しているようにも思える。あー、そうそう、この感じだよ、と思わず鼻息が荒くなる。

OLYMPUS PEN-F(Film) / F.Zuiko 38mm F1.8

OLYMPUS PEN-F(Film) / F.Zuiko 38mm F1.8

OLYMPUS PEN-F(Film) / F.Zuiko 38mm F1.8

OLYMPUS PEN-F(Film) / F.Zuiko 38mm F1.8

35mmフィルムの場合、鮮明さがないことも逆に良さになっている気がする。そしてアナログの安定した階調と違って、指で強く押したら崩れてしまいそうな繊細な趣がある。現在進行形の事実ではなく、過去の記憶が焼き付いたようなそんな感じだ。その微妙なニュアンスを忘れないように、LEICA M11で撮った写真にもフィードバックしてみる。

LEICA M11 / Voigtlander COLOR-SKOPAR Vintage Line 21mm F3.5

LEICA M11 / Voigtlander APO-SKOPAR 90mm F2.8

LEICA M11 / Voigtlander COLOR-SKOPAR Vintage Line 21mm F3.5

LEICA M11 / Voigtlander APO-SKOPAR 90mm F2.8

性格なのか、ついついどっしりと安定感のある写真を撮ってしまうが、フィルムに焼き付く写真のように「どこか儚げで触れると崩れてしまいそうな写真」というのも悪くないと思った。描写うんぬんというより、印象が問われる写真だ。フィルム時代の写真に「かっこいい」とか「何だかいい」と感じたことのある人は、フィルムを何本か撮ってみるのもいいだろう。想像して理解するのと、経験して知るのとでは、情報の質がまったく違うのだ。

OLYMPUS PEN-F(Film) / F.Zuiko 38mm F1.8

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