写真の構図

2022.05.16PHOTOGRAPH and WOLF

写真の構図01

SONY α7S / Voigtlander COLOR-SKOPAR Vintage Line 21mm F3.5

構図という言葉がある。平面上に何をどう構成するかということだが、僕にとって構図はとても大切なポイントだ。何を写したのか、それが最も写真の良し悪しを決定するのは間違いない。美人なのか、汚い街なのか、美しい自然なのか、衝撃的な現象なのか、ありふれた日常なのか。写すものを何にしたのかは撮り手の有り様や感性がもれなく反映される。そして構図は「どう撮ったか」のひとつで、それは被写体の選択とおなじように撮り手の美意識や力加減が如実に現れる部分だと思う。

構図、フレーミング、トリミング。言い方は色々あるがレイアウトと言い換えてもいい。少々デザイナーらしい言い回しになるが、何をどこにどんな割合で配置するのかが写真の「構図」なら、それはまさしく「レイアウト」だ。ポスターやパンフレット、WEBといった平面の販促活動、つまりグラフィックデザインでは、同じ写真、同じコピー、同じ色が使われたデザインでも「レイアウト」でクオリティがまったく別物になってしまう。見た目がいいとか悪いとかそういう優劣ならまだいいが、レイアウトが悪いと企画や主旨まで違うものになってしまうこともある。例えば、今までにないスゴイ商品が発売されたよというパンフレットをつくるとき、役所の書類のような事務的なレイアウトをすることはあり得ない。大人向けな内容なのにレイアウトが稚拙だ、ということもあり得ない。デザイナーがまともならば主旨に相応しいレイアウトが採用される。写真も同じで主旨があるならそれに合った構図が必要だ。写真の教科書的な2分割がいいとか3分割がいいとか、そういうのはあまり意味がないと思う。世の中の善悪と同じく、写真の中のいいとか悪いとかは画一的な理屈で成り立つほど単純ではない。空はこのくらいの割合で被写体はこの位置で、といった理屈はほとんど意味がないが、だからと言って構図なんかどーでもいいという考え方は間違っている。例えば一輪の花を中央に配置するのか端に配置するのかで印象が違ったものになるのは明らかで、それは構図の重要さを示している。

写真の構図02

OLYMPUS PEN-F / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

写真の構図03

SONY α7S / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

映像は変化する前後の状態を見せることができる。写真は切り取った一瞬を長く見ることができる。映像と写真には特性の違いがあって面白いが、どちらにも共通するのが「フレーミング」だ。現実世界の一部分を取り出すことで、不要なものを排除してもうひとつの世界をつくりだすことができる。超広角レンズを使って撮ったとしても、映像や写真で切り取った世界は実際の世界よりも限定される。見えている世界をどう切り取るか、世界をどう編集するのか、それは写真表現の醍醐味と言ってもいい。

写真の構図04

OLYMPUS PEN-F / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

写真の構図05

SONY α7S / Voigtlander COLOR-SKOPAR Vintage Line 21mm F3.5

写真の構図06

SONY α7S / Voigtlander COLOR-SKOPAR Vintage Line 21mm F3.5

写真の構図07

SONY α7S / Voigtlander COLOR-SKOPAR Vintage Line 21mm F3.5

写真の構図08

SONY α7S / Voigtlander COLOR-SKOPAR Vintage Line 21mm F3.5

写真の構図09

SONY α7S / Voigtlander COLOR-SKOPAR Vintage Line 21mm F3.5

写真の構図10

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

写真の構図11

OLYMPUS PEN-F / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

よく言われる「日の丸構図」というヤツがあって、割と好みの構図だ。真ん中にドンと配置するなんて一見芸がなさそうと思いがちだが、技やセンスが感じられるかどうか?ではなく、写真として強いか弱いか?という天秤で計るなら、芸があるとかないとかはどうでもいい話なのだ。中央に被写体を配置する構図には力が宿る。情景ではなく造形の存在感を浮き彫りにするには、小細工をせずにドーンと画角の真ん中で捉えた方がいい。逆に繊細な写真にしたいときには余白をつくって写真を構成する。意図的に意味深なものにしたい場合も同様で、ファインダーを覗きながら画面の中を意図に従って構成していく。写真の四隅も気になるところだ。せっかくいいものが撮れたとしても、写真の端に余計なものが写っていると興醒めする。バシッと決めたスタイルの男の袖がケチャップで汚れていたら気になるのと同じで、写真の隅の状態が1枚の写真に与える影響は大きい。写真もデザインと同様「ビジュアル」なわけだから、「いい写真」に見えるのはそれなりに理論的で現実的な理由があるからだ。ただ、そういった理屈は延々と考え続けていくものではなく、自分の中である程度モノにした後は直感的な感性のゆらめきを影で支える存在になっていく方が健全だ。スポーツでも音楽でもビジネスでも、基本スキルと言われるものは必ず必要だが、それだけでどうにかなるものではない。自分が納得する、あるいは他人の心がブルブルっと震えるためには、理論を踏まえた上でもう1段上の力を持っていなけれならない。

写真の構図12

SONY α7S / Voigtlander COLOR-SKOPAR Vintage Line 21mm F3.5

写真の構図13

SONY α7S / CANON 100mm F3.5 Ⅱ

写真の構図14

SONY α7S / CANON 100mm F3.5 Ⅱ

肉眼で見たときには大した感動もなかった世界が、カメラでフレーミングされて写真になったとき、味わい深いものに変わるのがフレーミングと構図のマジックだ。悲観的で意地悪な言い方をすれば、この世界はゾッとするほどクソったれで見たくないもののオンパレードだが、写真撮りはそのいい部分だけを切り出して、魅力的になるよう世界に魔法をかけているのだ。

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