森へ

2020.06.19PHOTOGRAPH and WOLF

MINOLTA M-Rokkorと森の風景01

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8

最近は登山に行っていない。山登りは地味で垢抜けないものだが、山歩きで汗を流すのは気持ちのいい時間だ。しかし、膝がちょっと不安な弱々しいオジサンの場合、気軽に登れる山は限られてくる。しかも、山登りはどうしても写真を撮ることより「運動」がメインになってしまう。僕はスポーツマンではない。運動よりも撮影の方が楽しいので何となく山から遠ざかっていたら、感染症が拡がってますます山に行く機会を失ってしまった。

山頂までの道のりと達成感、そういうスポーツとしての素晴らしさは山登りの醍醐味だが、空気の澄んだ山の中を歩くというのも山登りの素晴らしさの1つだ。歩くのもよし、立ち止まって眺めるもよし、座ってコーヒーでも飲みながら緑を堪能するもよし。人の気配がほとんど感じられない場所を見つけて持参した小さな椅子に腰掛け、ipodに入れておいた静かな音楽を聴きながら煙草を吸う。都市の喫煙所では決して味わえない至福の時間である。静かな森の中で味わう煙。煙草が最も美味しいと思えるシチュエーションだ。一緒に味わう音楽は静かなボーカルものでもしいし、民族音楽も悪くない。もちろん、近くに人がいないことや火の始末を忘れないことが条件になる。

そうだ森に行こう。山なら少し遠くに行かないといけないが、森なら1時間ほど自転車を漕げば辿り着けそうだ。森の中を歩いて深い緑の写真を撮ろう。そう思い立って森へ出かけた。

MINOLTA M-Rokkorと森の風景01

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8

MINOLTA M-Rokkorと森の風景15

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

山ではなく森の場合、もしもの場合に備えた装備はいらない。必要以上のものを持って歩くと、ただ歩いているだけで疲弊してしまい楽しめない。カメラはソニーα7S、レンズはミノルタ M-Rokkorの28mm40mmのいつものコンビ。この3点セットはいつも身も心も軽くしてくれる。フルサイズセンサーの撮影機材でこれ以上ないというくらい軽量なくせに「足らない」ということがない素晴らしいセットだと思う。何かに限定した撮り方を考えていないときには、大抵このセットを持ち歩くことになる。α7Sは2014年のカメラ、M-Rokkorは1981年のレンズで、どちらも「今どき」ではない。

MINOLTA M-Rokkorと森の風景03

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

MINOLTA M-Rokkorと森の風景04

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

MINOLTA M-Rokkorと森の風景05

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8

MINOLTA M-Rokkorと森の風景06

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8

MINOLTA M-Rokkorと森の風景07

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

MINOLTA M-Rokkorと森の風景08

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

春夏の森はグリーンで覆い尽くされている。風が葉を揺らす音や鳥の声を聴いていると、日本の小さな森でも様々な生きものが暮らしていると想像できる。20mを超える木々とその枝の上、大地と土の中に、おそらくすさまじい数の生物が存在している。そういうことを肌で感じると、何だかそこにいること自体申し訳ないような気分になってしまう。森にとって人はよそ者であり、無理言って「お邪魔している」存在なのだ。大変恐縮ではありますが、ちょっとだけ、そうちょっとだけ入らせていただいて、何枚か写真を撮らせていただきますね。そんな心持ちにさせるのが「森」だ。電気と時計に縛られて生きている人類にとって、森は完全なるアウェーなのだ。

MINOLTA M-Rokkorと森の風景09

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

MINOLTA M-Rokkorと森の風景10

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8

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SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8

MINOLTA M-Rokkorと森の風景12

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

MINOLTA M-Rokkorと森の風景13

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

森の中では、正義とか倫理とか、そういう人間的な概念を超えた食物連鎖によって、絶妙な食物連鎖の調和に満ちていると言う。植物も動物も昆虫も、生まれて食べて死ぬプロセスの中で、調和の役割をしっかり果たしている。小さな営みの1つ1つが、地球という大きな生命を循環させている。お恥ずかしながらそのサイクルを乱し、何1つ地球に還元しないのが我々である。世界人口は増加する一方だが、今でも植物や鳥や昆虫の数の方が圧倒的で、総数で比べれば人は決して「主役」ではない。道具をつくれる知能があるために、どうも格上の気分になってはしゃいでいるが、地球を汚さないと生きられない我々は、もう少し謙虚になった方がいいのかもしれない。

MINOLTA M-Rokkorと森の風景14

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8

圧倒的に生き生きした緑の森を去り、薄汚い灰色の居住区に帰る。ダダ漏れタレ流しの環境に優しくない暮らしは続いていく。エコロジストでも何でもないが、少しくらい消費を抑えないと地球の住民として申し訳ない。そう考えると新品ではなく中古品を使い回すのも、経済を回した上でモノを増やさない工夫と言えるだろう。そうだ、オールドレンズだ!我々には、世に出てくすぶっている素敵な中古品がたくさんあるのである。

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