言葉にできない写真
2024.05.11PHOTOGRAPH and WOLF世の中で言語化できないものなどない。あらゆる物、場所、出来事は言語に置き換えることができる。乱暴な言い方だが、おそらく真実だろう。小難しい内容の事柄でも言葉に置き換えることで、輪郭を持ったものに定着することができる。あらゆる概念や価値は言葉で表現されることで生まれるから、「世界」は「言葉」だと言い放ってもいいだろう。フワフワしてわかりにくいものがあったとしても、どこかの誰かが名前を付けた瞬間からそれは確かに存在するものとして認識される。それが言葉の力なのだ。人の住む世界では、あらゆるものの中で「言葉」が最上位にある。いいとか悪いとかいう話ではなく、強いとか弱いとかそういう尺度での話である。言葉の力の前では、実際のところ経済も宗教も情熱も勝ち目はない。
写真表現も当然言語化できる。意図や手法といった撮影側の情報も、印象や影響といった鑑賞側の情報も、言語化して整理することができる。目の前のビジュアルについて「えも言われぬ美しさ」とか「言葉にならない魅力」とか、そういう表現をすることもあるがそういう表現も言語化の1つで、うまく言語化できない場合は言葉が足りない、つまり語彙力の問題である。物事を言語化するメリットは「共通認識」を得られることだ。具体的な写真も抽象的な写真もコンテクストやレビューで言語化することで、多くの人が共通した認識を持つことができるわけだ。そこで、ふと湧き上がるのは「写真に言語化は必要か?」という疑問だ。
デザインの仕事をしていると、目で受け取る情緒的情報を抽象的な言葉を使ってプレゼンすることがある。デザインの成り立ちを具体的なロジックを使ってくどくどと説明することもできるが、きちんと理解するには聞き手にある程度のスキルが必要になるし、誰も長い説明など聞きたくない。そこで、喜びを表現したカラーリングとか、品格のあるレイアクトとか、重厚なアプローチとか、そんなフワフワしたことを適当に言って打ち合わせを盛り上げるのである。胡散臭い仕事しやがって!と言われれば確かにその通りだが、抽象的で曖昧な説明が効くのは提案するデザイン自体が魅力的な場合に限る。デザインの伝達速度は速い。魅力のあるデザインなら、多くの場合ウンチクを述べる前に即決させる作用がある。世の中の人のほとんどはデザインに対して素人で、自分がそれについて共感できたとしても、その理由を即座に言語化することはできない。ただし、言語で定義されないと何となく落ち着かないので、目で見て直感的に魅力的に見えたものについての説明を欲するのである。
本当のことを言うとデザインは言語から生まれている。意思から、と言った方がわかりやすいかもしれない。人を誘導する矢印や標識もデザインだが、あっちへ行ってね、これやっちゃダメよ、という意思を直感的にわかるようにした代表的なデザインである。意思や目的がないところにグラフィックデザインは生まれない。意思や目的がない、あるいはそれを中心に組み立てていないと、デザインが散漫になって伝わらない。うるさいだけで結局何が言いたいのかよくわからないテレビCM、目的や意図がよくわからない広告が多いのはそのためだ。意思表示だけでなく表現においても、優れたデザインは印象を具体的な言語に置き換えられるものが多い。赤いねとか、シンプルだねとか、コアラだね、とかそんな単純な印象でもいい。多くの人が同じような印象を抱くものの方が、優れたデザインだと言える。それはデザインが共通認識を促す目的を持っているからだ。
ビジネスで使われる写真も、言語化しやすい写真の方がいい。デザインと同様、見る人にある程度の共通認識を促す必要があるからだ。では、我々趣味の写真撮りの写真はどうか?写真作家の写真はどうか?と言えば、ビジネスで使われる写真とまったく同じとは言い難い。なぜなら、ことらさに共通認識を図る必要がないからだ。見る側に思ってほしいのは「いいねぇ〜」とか「たまらないねぇ〜」とか「最高なんじゃな〜い」くらいの肯定的な印象で、限定的な印象を必要以上に言語化して狭める必要はまったくないと思う。写真を売って暮らす作家の場合はマーケット戦略として言語によるアプローチが必要で、写真の魅力を押し上げる魅力的な言語化があった方がいいが、僕のようにだらしな〜く撮りたいものを好き勝手に撮って、あぁ〜写真撮るのって楽しいね〜という日々を謳歌している輩にとって、自分の撮る写真をコンセプトに沿ってストイックに構成したり、人の撮った写真を過剰に言語化して理解を深める必要などまったくないのだ。ビジネスではそうもいかない。言語化によってある程度はっきりした輪郭を持たせないと何事もうまくいかないのがビジネスである。そもそも、窮屈で不自由な世界なのだ。
趣味の写真撮りでは、ビジネスとは真逆の価値観と時間を目指す。朝撮って、昼撮って、夜撮って。まるでジャンキーのように怠惰に写真を撮ることに溺れていく。いゃ〜、やっぱり生産性のない撮影は楽しいねぇ〜、とか何とか言いながら、だらしなく趣味の世界を泳いでいくのである。しかし、いままで撮ってきた写真たちを冷静に眺めると、ふと気づいてしまうのだ。それは仕事で培ってきた感性や価値観を無意識のうちに「持ち込んでしまっている」という現実である。まぁ、同じ人間だから仕方がないといえばそうだが、そういう現実に気づいてしまうと何だか自分自身にガッカリする。どういう写真にそう感じるのか?それは、言語化しやすい単純な写真である。被写体がわかりやすいということではなく、鑑賞者が同じような印象を持ちそうな写真ということだ。そういう写真はビジネスに向いている。そこを目指してないんだけとなぁ…とボヤく。何だんだ言って徹夜したり変な汗かいたりしながら結構長い時間を費やして真面目に仕事してきたもんだから、そういう体質が染み付いてしまったのかもしれない。単純な言語的フォーマットに収まらないような、深くて、濃くて、硬いようで柔らかい、一瞬の脆さを閉じ込めたような写真を…。そう願うもののの、良識ある大人の作画に収まっていく。それは、言ってみれば「言語化の枠組み」とのジレンマと苦悩のようなものだ。
写真表現というものをどう考えるのか。それはもちろん個人の勝手だが、できれば僕は言語を超えた何かを捉えるものにしたい。結局のところ、どんな写真を撮ったって言語で説明できる。だが、真に魅力のあるものは、言語化して理解しようという気力を奪い去ってしまうほどのスピードがあるはずだ。素晴らしい音楽を言語ではなく涙や汗や心の高ぶりで理解するように、言語化の壁をぶち破るピースはその辺にたくさん転がっていると思う。
このページの撮影機材
LEICA M11
SONY
α7R3(ILCE-7RM3)
Nikon Zf
LEICA
Summicron 50mm F2.0 Collapsible
Voigtlander
ULTRON Vintage Line 35mm F2 Aspherical
Voigtlander
NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC
PENTAX
Super Takumar 55mm F1.8
MINOLTA
M-Rokkor 28mm F2.8
MINOLTA
M-Rokkor 40mm F2
MINOLTA
MD Rokkor 50mm F1.4
-
写真集「BLUE heels」
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写真集「植物美術館」
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lens
- LEICA Summicron 50mm F2 1st Collapsible
- Thypoch Eureka 50mm F2
- MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8
- MINOLTA M-Rokkor 40mm F2
- MINOLTA MD Rokkor 50mm F1.4
- Voigtlander SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Ⅲ
- Voigtlander COLOR-SKOPAR Vintage Line 21mm F3.5
- Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ MC
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 SC
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 E-mount
- Voigtlander NOKTON Classic 40mm F1.4 SC
- Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC
- Voigtlander APO-SKOPAR 90mm F2.8
- PENTAX Super Takumar 50mm F1.4
- PENTAX Super Takumar 55mm F1.8
- PENTAX SMC Takumar 200mm F4
- Nikon Nikkor-H Auto 50mm f2
- Nikon Ai Micro-Nikkor 55mm f/2.8S
- CANON 50mm F1.8 Ⅱ
- CANON 100mm F3.5 Ⅱ
- ZEISS Planar T*2/50 ZM
- GIZMON Wtulens 17mm F16
- OLYMPUS M.ZUIKO 12mm F2.0
- OLYMPUS M.ZUIKO 25mm F1.8
- OLYMPUS M.ZUIKO 40-150mm F4.0-5.6R
- LUMIX G VARIO 100-300mm F4.0-5.6 Ⅱ
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