NOKTON Classic 35mmとの再会
2020.02.20PHOTOGRAPH and WOLF大好きな35mm、Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4(SC)を昨年の秋に壊してしまった。どんなに丈夫につくられたレンズでも、堅い地面への落下には耐えられなかった。とにかく「役に立つレンズ」なので、いつも手元に置いておきたい。このレンズはコーティングの違いで2つのレンズがある。SC(シングルコート)も好きだったが、MC(マルチコート)もなかなかいい。同じクラシックのEマウントレンズ(MC)使ってMCの良さも知っていたので、昨年リニューアルされた「Ⅱ」の「MC」を買うことにした。シングルコートとマルチコートの違いは僅かな違いだが、シングルコートの方が彩度が低く繊細なトーンを描写する。すべての状況で当てはまるわけでないが、薄く繊細なグラデーションの空を撮りたかったらシングルコートを、濃くどっしりとした空を撮りたかったらマルチコートを、という感じだ。いずれにせよ、現像の差に比べたらその差は決定的な差ではない。リニューアルされた「Ⅱ」と初代の違いも微細な差で、かなり綿密に撮り比べないと違いはわからない。価格の安い初代の方を買っても特に問題はないだろう。
クラシックという名の通り、現行レンズにはない欠落がある。絞りを開けば開くほど周辺落ち、滲み、流れといったオールドレンズに見られるお決まりの特徴があり、F8まで絞るとそのファジーな部分は完全に姿を消し去る。明るい開放値のレンズではあるが開放では中央部分も滲んでしまうので、開いたとしてもF1.7くらいにしておきたい。僅かな差だが1メモリ絞るだけで中央のピント面はしっかりと描写される。近距離のポートレートならF2、ヘリコイド付アダプターでぐぐっと寄るテーブルフォトならF4、建築物をビシッと撮るならF8。逆光もなかなかいい雰囲気を出してくれるし、ライカM Typ240で使ったときにもブライトフレームとの相性もよく、35mmという画角は非常に使いやすかった。
Super Takumar 55mmやM-Rokkor 40mmを使って、オートフォーカスのモダンなレンズよりも欠落のあるオールドレンズの方が僕には合っていると思う。安定した写真が撮れる現行のものよりも40年前、50年前という古いレンズの方がしっくりくるのは何故だろう?アウトフォーカス部分の省略や周辺落ちも魅力的だが、突き詰めて考えてみると「マニュアルレンズ」だということがとても大きい。オートフォーカスレンズでも、マニュアルモードに切り替えて撮ることができるが、どうもニュアンスが違う。ピントをマニュアルで操作する楽しさは、オートフォーカスの手軽さを「もの足りなく」してしまうが決してそれだけじゃない。目測やゾーンフォーカス、パンフォーカスという方法で素速く写真をとることもできるし、デジタルカメラの拡大機能を使えば意図した狙い通りのピント合わせをすることもできる。暗い場所やコントラストが低い被写体でも確実にフォーカスすることができる。ライカMのレンジファインダーだと微細なピントのズレに寛容にならないといけないが、ミラーレスのデジタルカメラなら浅いピント合わせも難なくできる。ファインダーの拡大表示なんて、もちろんフィルム時代にはありえないわけだから、今でこそマニュアルレンズが生きてくる時代だと言える。
オールドレンズ以外で電動ではないマニュアルレンズは多くないが、国産ではコシナのレンズがある。マウントはライカM、ソニー、キャノン、ニコンと選択肢があるが、ライカのようなヘリコイドレバーがついているのはライカMマウントのクラシックシリーズ2本だけだ。このレバーがあることで、大まかなピント合わせを素速くすることができる。僕のような重いものはできるだけ持ちたくないという軟弱かつ怠け者体質の人間の場合、交換レンズが軽くて小さいこともかなり重要だ。ゆるく撮ったりストイックに撮ったりと、表現の幅をフォローしてくれるレンズだと有り難い。そんな条件をすべて満たしてくれるのがNOKTON Classic 35mm F1.4だ。使うレンズを1本に絞るとしたら間違いなくこのレンズになるだろう。
主張と偏見に満ちたこのブログも連日かなりのアクセスがあるようで、コシナさんの売上に少しは貢献しているのではないかと思う。好きなものを応援できるのは嬉しい。ライカの模倣だとか、ライカの安い版だとか、本家のライカにはかなわないだとか、このレンズは色々な言い方をされるかもしれない。しかし、そういったことを前提にしても「品質の高い国産レンズ」としてコシナさんに素直に拍手を送りたい。コシナのオフィシャルサイトをのぞけばマニュアルレンズのオンパレードだ。しかし、残念ながらそれらのレンズにマッチする国産のカメラがないという悲しく切ない現状がある。パテントとだとかタイアップだとか様々な課題はあるかもしれないが、いつの日かコシナさんにはライカMを震え上がらせるようなマニュアルレンズを前提としたデジタルカメラをつくっていただきたい。
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