F8のキャパシティ

2019.10.24PHOTOGRAPH and WOLF

オールドレンズF8の写真00

SONY α7S / PENTAX Super Takumar 55mm F1.8

F8という絞り値が好きだ。多少写真に詳しい人ならレンズのF値が8と聞いて思い浮かべるのは、解像度が高い、被写界深度が深い、湾曲や周辺光量落ちが少ない、といったことだろう。計測するとレンズ性能のピークがF8くらいになるようだが、性能のピークとグッとくる写真が必ずしも一致するわけではない。簡単に言うと、ピントが合いやすい反面、ボケが少ないのがF8というF値だ。被写体までの距離やレンズの焦点距離にもよるが、手間から奥までピントが合い、全体的にフラットに写真が撮れる傾向がある。パンフォーカスとまでいかなくても、手前も奥もディテールをしっかり写したい場合に、F8を設定する人は多いのではないだろうか。

オールドレンズF8の写真01

SONY α7S / PENTAX Super Takumar 55mm F1.8

オールドレンズF8の写真02

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

オールドレンズF8の写真03

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

オールドレンズF8の写真04

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

オールドレンズF8の写真05

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

オールドレンズF8の写真06

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

オールドレンズF8の写真07

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

明るいレンズの開放値でほとんどの写真を撮る人にとっては、F8は退屈なF値と言える。何せ「ボケない」ので、面白くないというわけだ。F値を絞っていけば、写真の雰囲気は動から静になる。手前や奥が極端にボケることはないので、表現は大人しくなりがちだ。F8に絞ってなおかつドラマチックな要素が欲しければ、構図や光でつくっていくことになる。これがなかなか難しい。レンズの画角やアングルを工夫しないと、いったい何で俺はこれを撮ったのかな?という手応えのない写真になってしまう。「ピント面に主役がきてボケている部分は引き立て役」というのが開放近くの絞りなら、F8以上に絞って撮るのスタイルでは「画角に写っているすべてのものが主役」くらいの気持ちでいかないと、気の抜けた写真になってしまうのだ。

オールドレンズF8の写真08

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

オールドレンズF8の写真09

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8

フルサイズの撮影素子を持つカメラの場合、マイクロフォーサーズやAPS-Cよりも被写界深度が浅いので、適切に絞らないと写るべきものがピンぼけして肝心なところが写っていない、という間抜けなこともある。フルサイズのカメラでアダプターや接写リンクを使ってマクロ撮影するときは、F値を絞って撮らないとどうも具合が悪い。近くのものを撮るときにはF8でも背景に充分なボケが得られるので、しっかりものを写したいときには躊躇せずF8に絞りリングを回してしまう。

オールドレンズF8の写真10

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

オールドレンズF8の写真11

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

オールドレンズF8の写真12

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

被写界深度を深くして、ポートレートでも風景でも建築でも素晴らしい写真を撮る写真家がたくさんいる。ある意味、自信があるんだな、と思う。いいカメラを使ってるとか、お気に入りのレンズがあるとか、そういうことではなく、躍動感も立体感も情緒も湿度も、自分の感性と力量で表現できるという自信が伝わってくる。F8に絞るということは、言ってみれば制限を設けるということだ。絞ってしまったらいい写真が撮れない。そう考えてしまう人は、F8という制限の中でどれだけ自由に動き回れるのかを知らない人だと思う。何にでも言えることだが、窮屈そうに思える制限の中は、実は意外と広い。

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