フィルム撮影の刺激

2021.12.31PHOTOGRAPH and WOLF

LEICA M6で撮影した写真01

LEICA M6 / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

若い人とじぃじぃを中心にフィルムカメラで写真を撮るのが密かなブームらしい。大判ではなく35mmのフィルムで撮ると、デジタルカメラやスマホで撮るのと違ってディテールが鮮明に写らない。ファインダーで実像が確認できないから、撮影時と現像後のタイムラグがあって現像を待つのが楽しい。シャープではなく階調の狭いフィルムのトーンが気持ちいい。フィルム撮影が好きな人の心理は、おそらくそんなところだろう。デジタル撮影と違ってアナログ撮影は圧倒的に不便でどうしようもなく扱いにくい。それでも1度でも体験すると、その世界に魅了されてしまうところが面白い。

LEICA M6で撮影した写真02

LEICA M6 / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

フィルムを使って写真を撮る、というのを何となく避けてきた。意図的に画質を落とすなら他に方法があるし、フィルムのようなトーンはデジタル現像で再現できるからだ。フィルムじゃないと、という特別な何かがあるとも思えない。世代としてカメラにフィルムをセットしたことがないわけじゃないが、すでに遥か遠くの記憶の中だ。そんなわけでフィルム撮影への欲望がほとんどない僕だが、仲のいい写真家が「使ってないから貸してあげるよ」とLEICA M6を貸してくれて、そうか、そうか、ライカなら撮ってみるか、とそういうわけでフィルムを買って写真を撮ることに。大して興味もないくせに、ライカならハッセルならと、まぁ、そういうことである。お借りしたライカは露出計が機能しないので、スマホのアプリで露出を測ってシャッタースピードを決める。パシャ。あれ?撮れたのかな?写ってんのかな?そんな感じである。アナログとデジタルではまるで勝手が違う。写ってんのかな?じゃなくていい感じに写ってることを「信じる」のだ。信じる、と言うとなんだか宗教がかって聞こえるが、そう言えばスマホ・パソコン以前の世の中ではそういう場面が沢山あった。どこかに行くには友人が描いたヘタクソな地図を頼りに出かけたし、当たらない天気予報を信じて行動し、ポストに投函した手紙は必ず相手に届くと信じるしかなかった。もちろん現代だって信じて進まないと何もはじまらないものだが、アナログの世界ではこうなるだろうというイメージとそれに身を委ねることで成立しているのだ。瞬時に結果を知ることができるデジタル世界とは勝手が違う。しかし、まぁ、M型ライカというヤツは最近のデジタルでも40年前のアナログでも、持った感触がとてもいい。もう少し軽くてもいいのに、そう考えることもあるが、極端に軽量化してしまったらM型ライカならではの良さを失ってしまうのかも知れない。あらゆるモノが変わってしまう世の中でほとんど変わらないカメラ、それがM型ライカというカメラなのだろう。

LEICA M6で撮影した写真03

LEICA M6 / Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ MC

LEICA M6で撮影した写真04

LEICA M6 / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

LEICA M6で撮影した写真05

LEICA M6 / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

LEICA M6で撮影した写真06

LEICA M6 / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

LEICA M6で撮影した写真07

LEICA M6 / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

LEICA M6で撮影した写真08

LEICA M6 / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

EICA M6で撮影した写真09

LEICA M6 / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

撮った写真をどうするか、そこが問題だ。フィルムで撮ってもやはりデジタル化はしておきたい。現像と同時にデジタル化してくれるサービスもあるが、自分好みの写真にならないし、保存形式がJPGというのもよろしくない。そこで最近入手したNikon Ai Micro-Nikkor 55mm f/2.8Sを使ってネガフィルムを撮影してデジタル化することにした。レンズの先端にはスライドコピーアダプターES-1、レンズのカメラ側にはオート接写リングPK-13、ニコン→ライカM→ソニーマウントの2つのアダプターを介してα7Sで撮影する。フィルムを照らすLEDにブルーのセロファンを被せたり露光時間を変えたりと試行錯誤しながら、ようやくまともな色にデジタルデュープすることができるようになった。調子に乗ってハーフカメラのPEN-F(フィルムカメラ)を入手して、ライカとは勝手の違うフィルム撮影も楽しむ。こちらはレンジファインダーではなく、小さいながらに一眼レフだ。PEN-Fの場合はシャッタースピードが1/500までしかないので、太陽が高い時間帯ではNDフィルターを使った方がいいのかもしれない。

フィルムカメラPEN-Fで撮影した写真01

OLYMPUS PEN-F(Film) / F.Zuiko 38mm F1.8

フィルムカメラPEN-Fで撮影した写真02

OLYMPUS PEN-F(Film) / F.Zuiko 38mm F1.8

フィルム3本ほど撮ってみて、やはりデジタルの方が自分には向いていると思った。アナログはやっぱりコントロールしにくい。じゃあ、フィルム撮影は無意味か?と言えば僕にとってはその逆で、階調の狭さや色の出方がデジタル撮影とは違う刺激をくれて大変よかった。そして、デジタルほどディテールが再現されないことで「何を撮ったか」ということが浮き彫りになる。デジタルでは現像で引っ張ることで何を撮ってもいい感じになることをイメージできたが、アナログではそれが難しいようで「撮るもの」の選択がより重要になる気がする。いわゆる写真の内容というやつだ。フィルムには撮影枚数の限界があって1枚撮るのも本当に撮るべきか少々考えるし、デジタル化もプリセットではなく1枚1枚調整しないといけないので、良くも悪くも写真1枚に対する思い入れが違ってくる。あぁ、これがフィルム撮影というやつなんだなぁ…。デジタル小僧がアナログじぃじぃに知恵を授かるがごとく、新鮮さと共にいい刺激になった。フィルムもいつかは世の中から消えてしまうだろう。写真好きでもプロカメラマンでも、やれるうちにやっておいた方がいい。フィルム撮影は消えゆく財産だ。

フィルムカメラPEN-Fで撮影した写真03

OLYMPUS PEN-F(Film) / F.Zuiko 38mm F1.8

写真集販売PHOTOBOOK WOLF