行ったり来たりの軌跡

2023.01.13PHOTOGRAPH and WOLF

LEICA M11 / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

写真、写真、写真。日々写真や機材のことを考え続けて数年が経つ。朝の空気を撮り、昼の光と影を撮り、夜の静寂を撮る。仕事で撮り、家族を撮り、膨大な数の写真を撮ってきた。しかし、その数年でいったい何を得たのか?と聞かれたら正直即答できない。写真を撮り続けた数年で、僕はいったい何を得てきたのだろう?

2022年は例年と同じく、腹いっぱい写真を撮った気がする。どこかの空ではミサイルと銃弾が飛び交い、近くの国では夜の街で大勢の死人が出たというのに、僕の生活は平和そのもの。妻が1週間ほど入院し、犬が日帰り入院するといったハプニングはあったものの、お陰さまで仕事は順調でストレスは少なく、好きなだけ写真を撮った1年であった。今年は写真集を6冊つくって人様に買っていただき、感想をいただいたりしてそれはもう感無量である。

写真集販売 「PHOTOBOOK WOLF」
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半年近く使ったLeica M11も、だいぶ手に馴染んできて僕の体の一部になりつつある。もともと柔らかい写真よりも硬めでコントラストの高い写真が好きだったが、M型ライカを使いだしてそれがより加速した気がする。Leica M11はシャドー部を引き締める傾向があって、それを現像でさらに強調してやると僕好みなハードでどっしりとした写真が出来上がる。撮影したときの心のざわつきを頭の中で再現しながら現像する。撮るときにある程度完成形をイメージしているので、現像に要する時間は短い。現像が済んで「あぁ、やっぱり俺の美的感覚は素晴らしいなぁ、マジで」と人知れず悦に入れば、いままでの恥ずかしい人生を棚上げして満ち足りた気持ちで眠れるので幸せモノである。

LEICA M11 / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

LEICA M11 / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

LEICA M11 / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

LEICA M11 / MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8

LEICA M11 / MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8

昨年の後半は海へ行ってシャッターを切っていることが多かった。人の少ない海岸に行くとマスクから開放されるし、日照面積が広いから秋冬でも暖かく、人がいなければ煙草も自由に吸える。海で写真を撮るのは気持ちいい。ライカとレンズを2本、水筒に入れたコーヒーをバッグに突っ込んで、音楽をイヤホンで聞きながら写真を撮る。歌詞のないアンビエントな音楽を聴くことも多いが、最近のお気に入りはYONGENのアルバム「GREEN CORONA」だ。10年以上前になるが、このアルバムはジャケットをデザインさせてもらったこともあって思い入れがある。YONGENの亀井さんはルックスが日本人離れしてカッチョイイ人だが、美声がセクシーでたまらないのナンの。特にアルバム最後の曲「Evergreen」は本当に気持ちのいい曲である。最近のお気に入り、と言ってもずっと前からお気に入りで時折思い出したように取り出して聴いている。もう1つ擦り切れるほど聴いた邦楽は来生たかおの「浅い夢」で、こちらは小学生くらいの頃からの付き合いだ。1976年に発表されたこの曲は彼のデビュー曲ということだが、他のたくさんの曲と似ているようでまったく違う何かを感じる。例えば、ビリー・ジョエルのデビューアルバム「Cold Spring Harbor」も以降の作品とまったく違う特別な力を持っているように感じるが、デビュー作というものはそういうものなのだろうか。処女作が一番いいと言うと、アーティストはいい気分にならないと思うが、僕は割と処女作愛好家だ。来生たかおのデビュー曲もビリー・ジョエルのデビューアルバムも「売れなかった」という。

来生たかおさんの曲はノスタルジックと評さる曲が多く、写真を撮りながら聴いていると何となくその雰囲気に流されて写真のトーンも情緒的になってしまう。何ものにも動じないスタンスというのも立派だが、魅力のあるものに流されるのは悪くない。

LEICA M11 / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

LEICA M11 / Nikon Ai Micro-Nikkor 55mm f/2.8S

LEICA M11 / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

同じように写真を撮っていると必ず飽きる。何年も同じことをやっていて飽きないのは特別な才能の持ち主か、ただのバカ。普通の人は大抵「飽きる」のである。じゃあどうすればいいか。そんな時、写真好きのオジサンはフィルムで写真を撮るのである。デジカメで写真を撮るのが日常なので、さぁ今日はフィルムで撮ってみるかと意気込んでみても、なかなかいい感じの写真は撮れない。現像してデジタイズして、さらにPCでraw現像して、うーんどうだ、こんなもんか、意外といいね、とかほざきながら思い通りにならないアナログの世界に格闘するのも刺激になる。フィルムの高騰でアナログ撮影は割と贅沢な趣味になってしまったが、それじゃ1杯だけねと言いながらハシゴして飲みすぎて気持ち悪くなって2万円使っちゃった、という夜の営みに比べれは安いものである。

OLYMPUS PEN-F(Film) / F.Zuiko 38mm F1.8

OLYMPUS PEN-F(Film) / F.Zuiko 38mm F1.8

OLYMPUS PEN-F(Film) / F.Zuiko 38mm F1.8

OLYMPUS PEN-F(Film) / F.Zuiko 38mm F1.8

LEICA M6 / Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

コントラストの高い写真が好きだ、と言いつつも情緒的な写真も撮りたくなる。たくさん写真を撮っていれば自分のテイストが定まってくるものだと思っていたが、右に左にゆらゆらと揺れ動く自分を認めざるを得ない。完成度を高めた渾身の1枚を撮りたい。ゆるい感じだけど何となくいいねという写真も好きだ。2つの異なる方向性が自分の中に混在している。どちらか一方にした方がアレコレ悩まなくていいのはわかっちゃいるが、結局のところどちらも捨てきれないのだ。ビジネスではこういう状態の人は常に嫌われる。僕も「決められない」人とは仕事をしたくない。だが、ここで写真好きのオジサンは言いたいのである。アレもいいしコレもいいし困っちゃう〜という優柔不断さも、誰にも迷惑をかけない写真の世界では歓迎されるべきではないかと。

LEICA M11 / Voigtlander COLOR-SKOPAR Vintage Line 21mm F3.5

LEICA M11 / Voigtlander COLOR-SKOPAR Vintage Line 21mm F3.5

LEICA M11 / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

LEICA M11 / MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8

LEICA M11 / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

LEICA M11 / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

LEICA M11 / LEICA Summicron 50mm F2 Collapsible

LEICA M11 / LEICA Summicron 50mm F2 Collapsible

写真を撮りつづけてきてライフスタイルが多少変わったものの、とてつもなく状況が変わったというわけではない。撮影スキルはそれなりに上がった気でいるが、5年前の写真と比べるとクリアな感じだったものが少々しつこい感じになったくらいで、写真そのものは大して成長していないようにも思える。不思議な話だが自分の写真そのものというより、自分と自分がいる世界の見え方が大きく変わったように思う。小さいものを撮ったり大きいものを撮ったり、海辺を歩いたり街を歩いたり。異なる価値観を行ったり来たりしながら、遠くへ来たつもりでいながら実はどこにもたどり着いていないことを知る。そうか同じ場所にいたのかと、悲観してはいけない。自分の残した足跡がアレもいいねコレもいいねとバカみたいに楽しそうな軌跡を描いていたら、それはそれで満足できるのではないかと今は思えるのである。

写真集販売PHOTOBOOK WOLF