遠くへ

2020.12.24PHOTOGRAPH and WOLF

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8

数年使って互換の悪くなったipadを買い替えたらApple TV+の無料体験がついてきて、せっかくなのでユアン・マクレガーの「Long Way Up」を観た。親友と2人で世界をバイクで横断するドキュメンタリーだ。2004年、2007年、2019年と3つのシリーズがあって、最新のを観てとてもよかったので、他のシリーズも続けて観ているところだ。最初の旅ではモンゴルの湿地帯でバイクが思うように進まず泥と悪戦苦闘する。転倒を繰り返し、心くじかれ、旅の中断に追いやられそうになるものの、ユアン・マクレガーはバイクでの旅を続けていくことを決意する。「転倒しないよう前輪の1.5m先しか見ていなかった。遠くを見たほうがいい。近くを見てるとかえって転ぶ。」悪条件に疲れ果て、ボロボロになった彼が語った言葉が意味深い。

今年は新型コロナのおかげで、好きなときに好きな場所に行くことができなかった。元々混雑した場所に行くのが好きじゃなくて、人気のない海とかカメラ持ってパシャパシャやってる人が来ないようなニッチな場所でひっそりと写真を撮ることが好きなそれはそれは暗〜い暗〜い人間なので、写真を撮り歩くとき人との接触は少ない。とは言え長距離移動は控えてきたので、もっぱら家の近くで写真を撮っていた。東京にはほとんど行かない1年になったが、僕が暮らしている場所は思いっきり観光地なのでそれなりに気を配る必要がある。感染者の100人に1人が死んでいて、無症状者が広めていることが前々から指摘されているのに、汗だくジョガー、小さい子供、外国人はマスクをしなくてもいいという意味不明な価値観が世の中にあるようで、近所を歩いていても気を遣わないといけない。マスクなしの外出は罰金10万円とか、毎週水曜日は完全ステイホームとか、マスク着用できないスポーツは中止とか、そういうわかりやすい対策を長期的に実施しないと、この国に明るい未来はやってこないだろう。巨額を投じた意味不明な対策は、頭のいい大人が考えたものとは到底思えない。

突然やってきて生活を変えてしまう感染症の他にも、思わぬトラブルはそこら中に転がっている。このブログを下書きしている間に、どういうわけかWEBシステムがダウンしてしまい復旧することができなかった。オフィシャルでもないので長い時間を費やして悪戦苦闘するのもバカらしいので、思い切って新ドメイン(photograph.g-egg.net)をつくって移行することにした。この写真ブログをブックマークしてくれている奇特な方には申し訳ないが、URLがいままでの「photo」より今回の「photograph」の方がしっくりくるので、マイナーチェンジと考えれば悪くない。いつ起きてもおかしくないWEBトラブルの演習にもなった。トラブルとかパプニングとかそういう歓迎できない出来事も、思い切って食ってしまえば栄養になる。

SONY α7S / CANON 100mm F3.5 Ⅱ

新型コロナのおかげで今年はマクロ撮影にハマった。新鮮味のない見慣れたロケーションでも、ミクロの世界では見たことのない魅力的な情景が広がっている。ちょっとした花壇でも路地裏でも、絵になりそうな植物があれば撮ってみる。余計なものを排除して、浅いピントに神経を集中する。マクロ撮影は楽しくて中毒性が高い。

OLYMPUS PEN-F / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

OLYMPUS PEN-F / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

OLYMPUS PEN-F / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

人の少ない時間帯での撮影も楽しかった。深夜や早朝には独特の空気感があって、深い夜や夜が朝に変わる瞬間に写真を撮るのは格別だ。静かな時間に静かな場所で静かに写真を撮る。ファインダーから見える昼間とは違う絶妙な色合いに、心だけがザワザワと音を立てる。

SONY α7S / CANON 100mm F3.5 Ⅱ

SONY α7S / CANON 100mm F3.5 Ⅱ

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8

SONY α7S / Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ MC

行ったことのない場所へ行って、そのロケーションを撮影する。そういうことも今年はあまりできなかった。だから撮るものを探し歩くのではなく、撮るものを持ち歩くということもやってみた。妻が使わなくなった青いヒールの靴をバッグに突っ込み、自分の中で思い描いたシーンをつくって撮影する。植物や風景を撮るのと違った脳が刺激されて面白い。この「青い靴シリーズ」は、また気が向いたときに再開したい。

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

最近撮り始めたモノクロ写真も、撮ってみるとなかなか面白い。情報量の少ないモノクロ写真を「いいね」と思う人はかなり少数派だろうと思う。その数少ない人の大部分が「レトロ感」に反応していて、懐古ではなくモノクロ写真を表現として心から好む人は、かなり少ない気がする。

SONY α7S / Voigtlander SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Ⅲ

SONY α7S / Voigtlander SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Ⅲ

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

OLYMPUS PEN-F / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

モノクロ写真の欠点は色がないために情報量が少ないことで、それは同時にモノクロ写真の最も優れたところだ。情報が少ないが故に、写真の情景を理解するために見る人の想像が介入することになる。映像よりも小説の方が面白い、というのと同じで、モノクロ写真も鑑賞者の想像が介入することで作品が完成する。もちろん「そういうのは面倒くさい」という人の方が圧倒的に多い。だからモノクロよりもカラー、写真よりも映像が好まれる。ただ人間というのは厄介な生きもので、世の中の何もかもが便利になってしまうと、逆に不便で面倒な体験を求めるものである。まぁ、何にせよ、モノクロだろうがカラーだろうが、いいものはいいし、ウンコはウンコだ。しかし「いいもの」にはきっと理由がある。

SONY α7S / Voigtlander SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Ⅲ

どうも人には遠くへ行きたいという欲求があるようだ。見たことのないものを見たい。食べたことのないものを食べたい。それらの欲求が人を新しい体験へと導いている。しかし、自分を変えてくれる何かが遠くへ行けばきっとあるだろうという思いは、往々にして幻想だ。東京に行けばチャンスが待っているとか、海外で暮せば成長できるとか、田舎に行けば美味しいものが食べられるとか、そういうのは間違ってはいないが100%正解ではない。少年から大人に育ち、様々なことを経験して「思えば遠くへ来たもんだ」と思うこともある。しかし、よくよく身辺を確認してみると劇的に変わったことと大して変わっていないことが混在し、10年、20年経っても同じような場所をウロウロしていただけだったことに気づく。欲求が体験を生み出し、新しい価値観を得ることで少しくらいは成長しているだろう。ただそれは同じ場所を旋回し、螺旋のような弧を描いて同じ場所を回っているに過ぎない。ただし「遠く」を見ることは、動きを安定させてくれる。大きな目標、将来のビジョン。そういうものを思うことで、目の前の障害を簡単に乗り越えることができるのだ。もしかしらた来年どころか数年間はウィルスによる制限があるかもしれない。この逆風の中、我々が安定した飛行を続けるためには、より「遠く」をイメージする必要がある。

今年は新型コロナという制約がある中でも、写真を撮ることを結構楽しんだ。こういう写真を撮ってみたいというリストがまだまだ沢山あって、きっと来年も写真を撮ることに忙しい。

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

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