朝にしかないもの

少年の頃、眠る前にラジオを聴きながら夜更かしをするのが好きだった。月明かりが入る暗い部屋でラジオから流れる音楽や大人のくだらない雑談を聴いていると、世の中が寝静まった時刻に起きていることで、何だか得をしているような気になった。夜に眠らないことで、少し大人になったような錯覚を楽しんでいたのかもしれない。

30代の中頃まで、どちらかと言えば夜型だった。徹夜して仕事をすることも、徹夜して酒を飲むことも多かった。夜遅くまで何かをしているということで、必然的に朝起きるのが遅くなる。癒えない疲労が蓄積して、昼近くまで眠ることもしばしば。ところがある時から、夜仕事をするということは物凄く愚かなことなんじゃないか…と思い始めて、なるべく夜は仕事をしないようにするように心がけた。例えば翌日の朝イチまでに仕上げなければならないものがあれば、夜やるのではなく早朝にやる。早朝は夜の作業と比べて何でも「はかどる」というマジックがあるので、結果的に労働時間が少なくなる。万が一朝起きれないと大変なことになる、という恐怖心から夜に仕事をしてしまう人は、目覚ましをこれでもかというほどセットすればいい。

早朝に起きて運動やら仕事やら何かしら有意義だと思えることをすると、なぜかとても得した気分になれる。例えば平日。早朝マジックで効率が上がり午前中にその日のタスクをこなしてしまった場合、残りの時間は「おまけ」になる。やるべきことが片付いた後なので、心の余裕ができる。ついでに人にも優しくなれる。休日も同じ。早朝にしっかり楽しい時間をつくっておけば、残りの時間はボーッと過ごしても虚しくはならない。

朝の光で写真を撮るのも楽しい。眩しいけれど優しい太陽の光に照らされて、昼間とは違った世界がそこにある。太陽に向かってカメラを構え逆光で写真を撮ると、その時感じた朝の清々しい空気感を写真に閉じ込めることができる。早朝でもオールドレンズの味を持つVM35mm（VoigtLander NOKTON Classic 35mm F1.4 SC）が、とてもいい仕事をしてくれた。

F値が明るく夜を意味するノクトンという名のついたレンズだか、早朝の撮影も悪くない。オリンパスのm.zuikoレンズと比べて同じF値でもVM35mmの方が明るく、シャッタースピードが稼げる印象だ。開放で撮ると像がすぐに破綻してしまうので、少し絞って撮ると調度いい。

僕がそうだったように、夜更かしして喜んでいるようでは1人前の大人とは呼べない。1日がはじまる瞬間に外へ出て朝日を浴びると、地球から特別なパワーをもらったような気分になる。