アナログを求める心理
2026.06.02PHOTOGRAPH and WOLF先月開催された大阪の本町での写真展示では、このサイトを見てくれている人たちが写真を見に来てくれて嬉しかった。その中には外国の人もいて、たまたま仕事で来日したタイミングで来てくれたらしい。写真好きに国境なし。非言語表現である写真の魅力を再確認した。写真を買ってくれた人の中にモノクロフィルムで写真を撮って自身で現像しているという人がいて、こりゃまた強者が現れたなと感心する。フィルム撮影で使っているというOLYMPUS 35 SPという何とも愛らしいデザインのフィルムカメラを見せてもらい「俺も欲しい!」と思わずヨダレを垂らしたのは言うまでもない。デジタルではないカメラ、フィルムで撮影された写真には今もなお見逃せない魅力がある。なぜ人はアナログの質感を求めるのだろうか。
もうずいぶん昔の話になるが、デザインの仕事にパソコンを使うのがすっかり当たり前になった時代に、アナログの味をデジタル原稿の中に取り込むことに夢中になっていた時期があった。手書きの文字やイラストをスキャンしてベクトルデータに変換したり、紙のテクスチャを写真に撮ってデザインの素材として使ったり。とにかく少しでもアナログ的な要素を入れ込むことで、広告のクオリティが上がると思っていた。ある意味それは短絡的とも言える考え方だが、実際にパソコンだけで組み立てたデザインよりもアナログの要素を加えるだけでデザインは魅力的になった。多くのトップデザイナー達がポスターやCMにアナログの要素を入れ込んで、魅力的なデザインを展開していた。そういう傾向というか趣向は、今でも残っていると思う。
写真に限らず、アナログの魅力はそこら中にある。例えば音楽のレコード盤。CDやmp3の音源と比べて、レコードで聴く音楽は音の粒がしっかりしていて臨場感がある。大きなボリュームで聴けば、まるで同じ部屋にプレイヤーがいて演奏しているかのような再現性がある。残念ながらそういう環境で音楽を聴く経験はほとんどないが、20代の頃、会社の先輩の狭い部屋で聴いたレコードとアンプとスピーカーが吐き出す肉厚なサウンドが今でも耳に残っている。カーティス・メイフィールドとかファットバックとか、ゴリゴリのブラック・ミュージックだ。
写真の現像で、心のどこかで常にアナログの雰囲気を求めている気がする。デジタルカメラで撮影した写真を、階調を狭くしたり色を編集したり彩度を低くしたりノイズを入れたりと、アレやコレやと試行錯誤を重ねている。夢中になってモニターの前の写真と格闘していると、どこを目指していたのか何がゴールなのかわけがわからなくなってしまうので注意が必要だ。客観性が欠如していると迷子になる。しかし、主観的かつ直感的の方が楽しい。その辺のバランスを保てるかどうかで、デジタル現像という行為を楽しめるかどうかが決まる。
写真はよくも悪くもその時の自分が反映されている。心持ちもそうだし、写真に対する考えも少しずつ変わっていく。現像のトーンもそうだ。そりゃあ、長く撮ってれば変わってくるよね。変わらない方がおかしいよね。お前、ずいぶん変わったよなって悲しそうな顔して言わないでね。それが人生というものである。そして、どう変わってきたのかを時折振り返ってみるのも大切だ。
久しぶりに自分の撮ってきた写真を見返してみる。あれ?あんまり変わってないねとか、結構よくなってきたねとか、逆に退化してんじゃ…とか、そういうのが混沌としてそこにあるのが過去というものである。興味深いのは、フィルムで撮った写真のトーンが自分の中では「理想形に近い」と思えたことだ。デジタル現像で試行錯誤を重ねて苦労してるだけに、安直に「やっぱそうだよね」とは言えないのが本音だ。えー?やっぱりフィルムなの?いやいやデジタルの方が遥かに撮りやすいでしょ?と2人の天使が頭の周りを旋回し始める。正直、他人にはわからない微妙な差なのかもしれないが、Nikon F2やOLYMPUS PEN-Fで一時期少しだけ撮った写真が「こっちの方がよくない?」と語りかけてくるのだ。
「フィルムで撮った写真」のイメージは、おそらく人によって異なる。再現性の高さと写真の汎用性が求められる職業カメラマンがスタジオでライティングして商品撮影をした場合、フィルムとデジタルの違いはそこまでない。趣味人が撮る写真の場合は、露出やピントが甘くても街の写真屋さんの機械で強引に補正されてプリントで出てくるアレがフィルムで撮った写真のイメージだろう。粒子が荒かったり、色が転んでいたり、そういうものを多くの人がイメージしているに違いない。作家が作品として仕上げる写真の場合、「フィルムで」ということよりもプリントでどう仕上げるかに重点が置かれていたに違いない。作風は作家によって三者三様なので、当たり前だが「フィルムで撮った写真」のイメージは1つに限定されない。だから「フィルムで撮った写真はやっぱりいいねぇ」と誰かが言ったところで、すべての人が同じイメージを持ってそう言っているわけではないのだ。
フィルムをスキャンしても、プリントをスキャンしても、僕のようにフィルムを再度撮影してデジタル現像しても、結局デジタル化するなら意味がないように思えるが、どう処理してもどこかしらアナログの風味が残る。それは光がフィルムに焼き付いて、写真が物質化していることに起因している気がする。それならデジタルカメラで撮った写真でも一旦プリントしてからもう一度撮影してみたらどうだ?ということをついつい考えてしまうが、確かに試してみる価値はありそうだ。ただ単に風合いを求めるなら、やり方は色々あるはずだ。
昔へのノスタルジーとか、ないものねだりとか、アナログの風合いを求める心理について色々な見方があると思うが、それだけではないような気がしている。欠点がある方が魅力的に見えるとか、スマホで撮った写真みたいなのはつまらないとか、そういうのもあるだろう。色合いとか描写のクセとかバランスとか、細かく分析していけば近い状態を再現することは可能だが、100%一致は難しい。そこが面白いところでもあり歯がゆいところでもある。デジタル化していままで空間を占領していた数々の「物」が不要になり、合理的かつ快適な世の中になった今でも、相変わらず物質が放つ魅力から解放されない我々人間である。
このページの撮影機材

FUJIFILM
X-E4

SONY
α7CII(ILCE-7CM2)

Nikon F2

LEICA
Summicron 50mm F2.0 Collapsible

Voigtlander
NOKTON Classic 35mm F1.4 SC

MINOLTA
M-Rokkor 28mm F2.8

MINOLTA
M-Rokkor 40mm F2

TTArtisan
23mm F1.4 C
-

写真集「花美 5」
¥1,100 -

写真集「花美 4」
¥1,100 -

写真集「花美 3」
¥1,100 -

写真集「BLUE heels」
¥1,100 -

写真集「Nostalgia」
¥1,100 -

写真集「植物美術館」
¥1,100
column
- 2026.06.02アナログを求める心理
- 2026.04.15写真展示販売 in OSAKA
- 2026.04.06本当に欲しい情報をAIは持っていない
- 2026.03.18奴隷としての幸福と希望
- 2026.02.10消えたCCD GX200とD3000
- 2026.01.19敵はいつもそこにいる
- 2025.12.08みんな夢の中
- 2025.11.05合うもの 合わないもの
- 2025.09.22ストロボは光の調味料
- 2025.08.26色彩のない世界とエウレカタクマー
- 2025.07.21真面目で退屈な日本人の写真
- 2025.06.11新しい道を探したら 過去に通った道だった
- 2025.04.14変化の先にあるもの
- 2025.02.17老いの向こうに
- 2025.01.15光に反応するマインド
- 2024.10.30レンジファインダーとの和解
- 2024.10.10黒潰れと白飛びの世界
- 2024.09.06モノクロ写真の追求
- 2024.07.23身軽なハンター Eureka 50mm
- 2024.06.28記録の写真
- 2024.06.01「P」「S」「A」モードの疑問
- 2024.05.11言葉にできない写真
- 2024.03.28強い者たちの正義
- 2024.02.25少数派に優しい Nikon Zf
- 2024.02.0135mm 凡庸者の可能性
- 2023.12.20それをする意味
- 2023.12.15テクノロジーと人の関係
- 2023.11.06Super Takumar 50mm F1.4
- 2023.09.03クソ野郎が撮る写真
- 2023.06.22花を撮る理由
- 2023.05.10写楽の日々
- 2023.03.21楽しい中望遠 APO-SKOPAR 90mm
- 2023.02.09太陽を撮る快楽
- 2023.01.13行ったり来たりの軌跡
- 2022.11.22タスクの向こうに幸福はない
- 2022.11.03LEICA M11の馬鹿ヤロウ
- 2022.09.20狙い通りに的を射る
- 2022.08.13LEICA M11と10本のレンズ
- 2022.07.08人知れず開催される「植物美術館」
- 2022.06.18日本人の遺伝子と「茶の道」
- 2022.06.07LEICA M11
- 2022.05.16写真の構図
- 2022.04.13NOKTON F1.5と50mmを巡る旅
- 2022.03.17脳とモラルのアップデート
- 2022.03.08海へ
- 2022.02.28世界の大きさと写真の世界
- 2022.01.29写真集をつくる
- 2021.12.31フィルム撮影の刺激
- 2021.11.29絞って撮るNokton Classic 35mm
- 2021.10.27時代遅れのロックンロール
- 2021.09.23雨モノクロ沈胴ズミクロン
- 2021.09.13拒絶する男
- 2021.08.22過去からのコンタクト
- 2021.07.26スポーツと音楽と写真
- 2021.07.19マイクロフォーサーズの魅力 2021
- 2021.06.24小さきもの
- 2021.05.26現実と絵画の間に
- 2021.05.11脳と体で撮る写真
- 2021.04.26理解不能なメッセージ
- 2021.04.03とっておく意味
- 2021.03.11モノクロで自由になる感性
- 2021.03.04もう恋なんてしない
- 2021.02.19ギリキリでスレスレへの挑戦
- 2021.02.09人間は動物よりも優れた生きものか?
- 2021.01.18写真の中のハーモニー
- 2020.12.24遠くへ
- 2020.12.11モノクロの世界と15mm
- 2020.11.06現像の愉しみ
- 2020.10.15ずっと使えそうなカメラ SONY α7S
- 2020.09.21写スンです GIZMON 17mm
- 2020.09.01矛盾ハンター
- 2020.07.29朽ちていくもの
- 2020.07.23花とペンズミ中毒
- 2020.07.15無駄に思えるプロセスは報われる
- 2020.06.24ズミタクマクロ
- 2020.06.19森へ
- 2020.05.25大人の夜の快楽
- 2020.05.04見直しと修正の日々
- 2020.04.13AM5:00の光と濃厚接触
- 2020.03.24何だってよくない人のPEN-F
- 2020.03.05濃紺への憧れ
- 2020.02.20NOKTON Classic 35mmとの再会
- 2020.02.15写真に写るのは事実か虚構か
- 2020.01.22流すか止めるか
- 2020.01.17ローコントラストの心情
- 2019.12.19後悔と懺悔の生きもの
- 2019.12.10飽きないものはない
- 2019.11.15小さな巨人 X100F
- 2019.10.24F8のキャパシティ
- 2019.10.05愛せる欠点とM-Rokkor40mm
- 2019.09.23植物採集の日々
- 2019.09.0263歳のキヤノン50mm
- 2019.08.22それは いい写真か悪い写真か
- 2019.08.14近くから遠くへ
- 2019.07.29雨を愛せる人になりたい
- 2019.07.081度しか味わえないその時間
- 2019.06.2465年前の古くないデザイン 1stズミクロン
- 2019.06.12街のデザインとスナップ写真
- 2019.05.15空の青 思い描く青空
- 2019.05.03近くに寄りたい欲求
- 2019.04.24変わらないフォーマット
- 2019.04.13常識と非常識の選択
- 2019.04.03ノーファインダーの快楽
- 2019.03.21ライカのデザイン
- 2019.02.26飽きないものの価値
- 2019.01.30NOKTON Classic 35mm
- 2019.01.17光と影のロジック
- 2019.01.01終わりに思う 始まりに思う
- 2018.12.17Takumarという名の友人
- 2018.12.06普通コンプレックス
- 2018.11.30季節を愛でる暮らし
- 2018.11.27失敗しない安全な道
- 2018.11.09終わりのない旅
- 2018.11.01M-Rokkor 28mmの底力
- 2018.10.19M-Rokkor 28mmの逆襲
- 2018.10.05焦点と非焦点
- 2018.09.26夜の撮影 α7R2 vs PEN-F
- 2018.09.18いま住んでいる場所が終の棲家になる
- 2018.09.10強烈な陽射しと夏のハラスメント
- 2018.08.30現役とリタイアの分岐点
- 2018.08.21過去との距離感
- 2018.07.10本来の姿とそこから見える景色
- 2018.06.16花の誘惑 無口な美人
- 2018.05.15欲望の建築とジェラシー
- 2018.04.14朝にしかないもの
- 2018.03.28過去の自分を裏切って何が悪い
- 2018.03.18夫婦とか家族とか
- 2018.03.01固定概念から自由になるための礎
- 2018.02.15ディテールを殺した写真
- 2018.02.07劣化することは悪いことだろうか?
- 2018.02.03マイクロフォーサーズの魅力
- 2017.12.27日本人は写真が好きな人種だと思う
lens
- LEICA Summicron 50mm F2 1st Collapsible
- Thypoch Eureka 50mm F2
- MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8
- MINOLTA M-Rokkor 40mm F2
- MINOLTA MD Rokkor 50mm F1.4
- Voigtlander SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Ⅲ
- Voigtlander COLOR-SKOPAR Vintage Line 21mm F3.5
- Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ MC
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 SC
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 E-mount
- Voigtlander NOKTON Classic 40mm F1.4 SC
- Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC
- Voigtlander APO-SKOPAR 90mm F2.8
- PENTAX Super Takumar 28mm F3.5
- PENTAX Super Takumar 50mm F1.4
- PENTAX Super Takumar 55mm F1.8
- PENTAX SMC Takumar 200mm F4
- Nikon AF-S DX Zoom-Nikkor 18-55mm f/3.5-5.6G ED II
- Nikon Nikkor-H Auto 50mm f2
- Nikon Ai Micro-Nikkor 55mm f/2.8S
- TTArtisan 23mm F1.4 C
- Nikon Ai Nikkor 200mm F4
- CANON 50mm F1.8 Ⅱ
- CANON 100mm F3.5 Ⅱ
- ZEISS Planar T*2/50 ZM
- GIZMON Wtulens 17mm F16
- OLYMPUS M.ZUIKO 12mm F2.0
- OLYMPUS M.ZUIKO 25mm F1.8
- OLYMPUS M.ZUIKO 40-150mm F4.0-5.6R
- LUMIX G VARIO 100-300mm F4.0-5.6 Ⅱ
- All Photograph














