ストロボは光の調味料

2025.09.22PHOTOGRAPH and WOLF

Nikon Zf / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

世の中には2種類の男しかいない。俺か、俺以外か。と、言ったのはホストのローランドで、こういう物言いは実に気持ちがいいしわかりやすい。その物言いで話すと、世の中の写真撮りには2種類のストロボ使いしかいない。自然な仕上がりを目指して使う人か、わざとらしく使う人か。僕の場合は、もちろん後者だ。

商業写真の主流は自然な仕上がりを目指してストロボを使う。自然な、と言ったってライトを使うことで実際にはありえない状況を人工的にかつ作為的につくっているので、あくまで「自然に見えると錯覚する範囲」の仕上がりを目指していることになる。被写体に強くて乱暴な光を当てることは少なく、ストロボの光をバウンスさせたりディフューズさせたり光を交差させて打ち消し合ったりと技術が駆使される。スタジオで撮るカメラマンでは、その力量が問われる分野だ。LEDとカメラの性能の向上でストロボを使わないカメラマンが増えたと聞くが、合理性と確実性を考えるとプロの世界ではストロボ撮影が主流なのは間違いない。ストロボを使った形跡が感じられず、被写体を生かして繊細で上品な仕上がりをつくれるカメラマンの方が、そうでないカメラマンに比べてギャラが高い。何だって誰でも簡単にできる仕事はギャラが安いのだ。しかし、趣味で写真をパシャパシャ撮ってる輩は、商業的なライティングを追いかける必要はない。納品物としての品質といった商業的な要件を求められないからだ。職業カメラマンを目指してないのにプロっぽいライティングを追いかけても意味がないのだ。

Nikon Zf / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

Nikon Zf / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

撮った写真を金に変える必要のない写真撮りなら、よく言われるセオリーよりも直感的にストロボを使って遊んだ方が健康的だ。正面から鋭い光をパシャっと当ててもいいし、必要のない場面でも心赴くままに好きなだけ使えばいい。

使うか使わないかわからない場合、ストロボを携帯するならコンパクトで軽いものの方がいい。FlashQ Q20は小さいくせにオフライン発光もできるユニークなストロボで、ミニ三脚で任意の場所に置いたり、片手に持って発光させたりと超便利な代物だ。切り離せる小さなコマンダーはUSBで充電し、本体は乾電池で動く。

ストロボを持ち歩くのは面倒だ、そんなことを言う食事するのも息をするのも考え事するのもパンツはくのも面倒な末期的症状の人はストロボ内蔵コンデジを持ち歩くのも1つの手だ。LUMIX LX3なら内蔵ストロボをシャッと出せば簡単にストロボ撮影ができるので、24mmレンズとストロボを携帯するつもりで軽いコンデジをバックに入れておけばいい。

Panasonic LUMIX LX3

Panasonic LUMIX LX3

Panasonic LUMIX LX3

Panasonic LUMIX LX3

Panasonic LUMIX LX3

人でも物でも植物でも、ストロボを当てれば肉眼とはひと味違った世界が写真に焼き付くことになる。ストロボを使った演出は結構奥が深い。光が硬いとか柔らかいとか、背景を黒落ちさせるとか、逆光での暗部を明るくするとか、そういう初歩的な使い方だけでなく、光に色を入れたりレリーズ中に数回発光させたりと上級な使い方をし始めたら、もうストロボなしでは生きていけなくなるだろう。薄暗い室内や夕方の屋外だけでなく、太陽光が降り注ぐ昼間でもストロボはいい仕事をしてくれる。同じような写真を撮りすぎて撮影がマンネリ化してしまった写真撮りには刺激が必要だ。ストロボを使った撮影をしてこなかった人に、ストロボは結構いい刺激になる。

LEICA M11 / Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

LEICA M11 / Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

SONY α7CII / Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

SONY α7CII / Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

自然なものを自然なままに。写真撮影をそう考える人にとって、ストロボは無用の機材である。僕の中にもそういう考えがないわけじゃない。本当に美味しい野菜は、そのまま食っても充分に美味しいわけだから。とは言え、わかっちゃいるが、ついつい何か手を加えたくなってしまうのである。瑞々しい新鮮なキュウリには、味噌マヨをつけて丸かじりすると最高だ。卵かけご飯は卵白をメレンゲにして食べると3段くらい上質な食べものになる。片栗粉をまぶして焼いた牛肉は柔らかい。少しだけ長く生きてしまうと、何事もちょっと手を加えると格段によくなるという真実を知ってしまうのである。例えば、どんなに美味しいトリュフがあったとしても、トリュフを使った料理の美味しさには勝てない。ストロボは撮影撮りの味付けであり、使い方がよければ絶品料理にできる調味料みたいなものだ。

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