とっておく意味

2021.04.03PHOTOGRAPH and WOLF

OLYMPUS PEN-F / LUMIX G VARIO 100-300mm F4.0-5.6 Ⅱ

何でも捨てずにとっておく。そういうのを貧乏性と言うのだろうか。妻のクローゼットを新調して部屋の整理をすることになり大量のゴミが出た。いったい何でこんな物をとっておいたのか?という物のオンパレードで、何回もゴミ置き場を往復する。捨てるのも忍びない「いいもの」も、数年経っても使わなかった場合「ゴミ」になる。あるいは数年持ち続けたことで気持ちの整理がついて「捨ててもかまわない」という気分になるのかもしれない。それが、時間というものの浄化作用だろう。僕の提案で何冊もあった写真アルバムを捨ててしまうことにした。ダンボール箱2つ分ほどの写真アルバムも、スキャンしてデジタル化してしまえば400MBほどになってしまう。DVDどころかCD1枚で収まるデータ量だ。身の回りの物を整理すると気分が楽になる。整理するためには「捨てる」ことが必須だ。

写真を撮っていて、同じシーンで何枚かシャッターを切ったときに、セレクトに迷うことがある。1発いい感じのカットが撮れたとしても、念のため別の角度からも撮ってみることも多い。いったい何のための「念のため」なのか自分でもよくわからないが、最後の最後に撮った1枚が意外と1番良かったりもするのだ。こっちからはどうだ、こういうのはどうだ、こういうのもアリか、という貪欲さはあまりスマートとは言い難いが、僕がデザインの仕事で共同作業をするカメラマンやイラストレーターに対し「信頼できる」と思える人は大抵そういう人だった。そういう人と仕事を組むと細々としたことを言わなくて済む。近年は自分も歳を食ったし様々なことにドライになったので、自分や他人に必要以上の情熱を要求しなくなったものの、何となく仕事で培ってしまった「しつこさ」が体に染みて残っている。

同じシーンで何枚も写真を撮っても、現像するタイミングでほとんどの写真は削除してしまう。ピントが甘いとか構図がイマイチとか、そういうカットは迷わずバンバン捨ててしまう。ただし、似たようなカットであっても「どちらも捨てがたい」場合、結局どちらも「とっておく」ことになる。

人と違って動物は表情の変化が少ない。それでもちょっとした角度の違いでニュアンスが変わってくるのが面白い。

OLYMPUS PEN-F / LUMIX G VARIO 100-300mm F4.0-5.6 Ⅱ

OLYMPUS PEN-F / LUMIX G VARIO 100-300mm F4.0-5.6 Ⅱ

OLYMPUS PEN-F / LUMIX G VARIO 100-300mm F4.0-5.6 Ⅱ

風景も何をどこまで写真に入れるのかで、同じ場所でも情景が違ってくる。アングル、構図、露出。写真にするための要素をアレコレ悩みすぎると厄介ではあるものの、撮り方の選択肢があることが写真の面白さでもある。

SONY α7S / Voigtlander SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Ⅲ

SONY α7S / Voigtlander SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Ⅲ

とりあえず撮っておいて現像時に選べばいいや、そう思って撮っておくとカット数が膨大になり現像が大変になる。同じものをパシャパシャ撮るタイプではないが、それでも以前はやたらめったら撮りまくって現像が大変だったのを憶えている。500枚ほど撮ったものを20枚程度に精査してrawデータをバックアップしておく。いまはハードディスクという便利なものがあるので、恐ろしく大きいデータも手のひらサイズの箱に簡単に収まってしまう。そして時間が過ぎ、大切にとっておいたデータを改めて見ると「何でこんな写真とっておいたんだ?」となる。やれやれ、である。ミラーレス一眼で熱心に撮り始めたここ数年の写真はまだましだが、15年以上前に妻と旅行したときにコンデジで撮ったものなどほとんどの写真がブレていて驚いた。よくまぁ、こんなひどい写真を大事にとっておいたな、と思ってしまうが、大切な思い出なので捨てるわけにもいかない。

SONY α7S / MINOLTA MD Rokkor 50mm F1.4

SONY α7S / MINOLTA MD Rokkor 50mm F1.4

OLYMPUS PEN-F / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

OLYMPUS PEN-F / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

写真を精査する力は美意識と経験がカバーしてくれると思っている。最近では少しだけ力が備わってきたようで、ファインダーを覗いてもシャッターを切らない場面も増えた。もう少し経てばファインダーを覗かなくても、撮った方がいいか、撮らなくてもいいか、瞬時に判断できるようになるだろう。そういうスマートで潔く優美で頼もしい惚れ惚れするほどの能力を持たざる人間は、今日も女々しく「とっておく」ことになるのだ。とは言え、とっておくことは悪いことばかりじゃない。素晴らしい傑作が撮れたとニタニタして喜んでいた写真が、時間の浄化によって「クソみたいな写真だな」と思えたとしても、それは成長を実感できる貴重な瞬間だ。自分の軌跡が適度に残っていた方が、今の自分を認識しやすい。そして「とっておく」ことよりも、時間が経って「とっておいたものを捨てる」ことに大きな意味がある。だから、数年経って捨てることになったとしても、邪魔にならない限りせっせせっせととっておくのだ。

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