変化の先にあるもの

2025.04.14PHOTOGRAPH and WOLF

SONY α7CII / Thypoch Eureka 50mm F2

良質な変化は、テンションとモチベーションを上げてくれる。いつも煩わしかったこと、何かにつけ足を引っ張っていたものが変化によって解決されれば、そりゃあ最高だ。今まで想像すらしなかったことができるようになったり、新しい価値観を手に入れることができたり、そういう嬉しい未来の入口には、必ず「変化」がある。

SONY α7CII / Thypoch Eureka 50mm F2

地味で進歩のないカメラ業界に、素晴らしく革新的なデザインのカメラが登場した。シグマの「BF」である。実物に触れたことはないが、明らかにヤル気満々の美しいデザインをしている。FPもかなり革新的なデザインだったが、ややオモチャっぽいチープさが漂っていた。BFはディテールも進化していて、なかなか筋の通ったデザインをしている。残念ながらファインダーがなく、グローバルシャッターでもメカシャッターでもないので、ストロボを使うプロや上級者には向いていないカメラだが、今の時代に合ったデザインがようやく出てきたといった感じだ。フジフイルムのラージフォーマットカメラ「GFX100RF」もなかなか興味深いところだ。頼むからフルサイズのカメラを出してくれ!というユーザーの切望は相変わらず叶わないが、レンズを含め735gという軽量ボディはそそられるところだ。今年はM型ライカのEVFバージョンが発売されるかも、という噂が出回っていて、こちらも歓迎すべき動向だ。ライカはレンジファインダーの動作しない最短撮影距離70cm以下のレンズを売っておきながら、調子の安定しない外付けファインダーと背面液晶でマニュアルフォーカスしろなんてそりゃあないでしょー、と思っていたが、噂通りにQ3のようなファインダーで、シャッターレスポンスがよければメインカメラにしてもいいと思う。EVF内蔵のレンズ交換式M型ライカは、僕のような写真撮りには「待望のカメラ」と言えるだろう。

LEICA M11 / Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

LEICA M11 / Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

LEICA M11 / Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

LEICA M11 / Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

LEICA M11 / Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

僕らのように写真を撮ることが大好きなジジイ連中は少々麻痺していて、日常的に触れているカメラについて客観性を失っているが、デザインがいいとか美しいカメラなんて皆無だ。このカメラってカッコイイよねぇ、なんて言っている人は客観性と美意識を完全に失った人と言える。カメラは大体、じっくり見て考えても、どうしてこのデザインに定着しているのか理解できないような気持ちの悪い形状をしているものである。ライカTLとかシグマdpとか、製作者の意図が感じられるデザインのカメラも少しはあるが、ファインダーがなかったりして実用性を伴わなかったのは残念なところだ。見た目はいいけど使いにくい。そういうのを優れたデザインと言わない。

「変わらない」ことは、それはそれでとても素晴らしいことだ。一方で「変わる」ことは現在よりもはるかに良くなる可能性を秘めている。思えば2007年に登場したiPhoneは画期的だった。それまで限られたボタンに縛られていた携帯電話から、全画面ボタンとして使える小さなパソコンになってしまったのだから、その変化度合いは計り知れない。iPhoneの登場は世界を動かしたが、個人的な小さな変化も我々を快適にしてくれる。リモートワークができる環境にして本当に良かったねとか、棚をDIYしたら部屋が片付いたねとか、靴をスニーカーにしたら歩きやすくなったねとか、世界からみたら砂粒のような小さな個人的な変化が、我々を大いに幸せにしてくれるのだ。

SONY α7CII / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

SONY α7CII / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

SONY α7CII / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

10年以上前から髪を坊主にしている。これはなかなか画期的な選択で、坊主にすることで想像以上の快適な日々が待っていた。週に1回、バリカンを使って風呂で刈り上げるだけ。3分もかからないメンテナンスだけで、髪型と整髪料とヘアサロンから自由になれた。おまけに人からよく見られたいという自我も減少。この先白髪になったりハゲ散らかしたりしても今と大して印象は変わらないだろう。あー、あの坊主でピアスして色黒の人ね、というイメージはおそらくずっと同じだ。

先日パソコンを買った。しかも4年前のMacBook Proである。昨年買ったMacBook Airはスペックの選択がよくなかったようで、写真現像のスピードが遅かった。AirはProと違ってSDカードのスロットがなく、外付けのリーダーを都度抜き差しするのが煩わしかった。やはりProに戻そう。しかもスペックの高いものにしよう。そう考えて4年前のM1 Maxを中古で買うことにした。パソコンを中古で買うのは初めてだが、2年も使えばパフォーマンスが落ちるので中古で充分だと思った。今回買ったMacBook Proは17万円。スペックを考えれば、かなりお得に思える。写真を現像するのも、かなり快適になった。なーんだ、もっと早くやっときゃよかった。そういう合理的かつ気分爽快な選択のピントは、変わらない日常の中にひっそりと息を潜めて隠れているのである。

今年から使っているソニーのミラーレスカメラ「α7CII」の使い心地はとてもいい。決してデザインがいいとかモチベーション爆上げといったカメラではないが、ファインダーが左端に配置されているためカメラに鼻を押し付ける必要もなく、軽くて小さいカメラなので気分まで軽く撮影を楽しめる。Nikon Zfを使うことで長らくお世話になったソニーに別れを告げたわけだが、結局またソニーに戻ってきた。Nikon Zfはいいカメラではあるが、やはり「重さ」が僕には合わなかった。デメリットを受け入れつつ、しがみついてしつこく食らいつくのもいいが、時には潔くサヨナラすることも大切だ。

SONY α7CII / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

SONY α7CII / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

SONY α7CII / Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

SONY α7CII / Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

SONY α7CII / Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

しかし、何と言っても僕の心をざわつかせているのは、新しく迎え入れた犬の存在である。1年以上ブリーダーのサイトやブログ、SNSを毎日見続け、妻は少々ノイローゼぎみになっていた。ああでもない、こうでもないと、迷っている時間が長すぎると人は疲弊するのである。このまま新しい犬を探す日々が延々と続くと妻の健康によくないと思い「買っちゃえ買っちゃえ」と悪魔の誘惑のように耳元で囁いて、ようやく我が家に子犬がやって来た。異様に小さく、異様にかわいい子犬に新しい名前をつけ、とんでもない幸福感に包まれる。そうか、幸せって案外簡単に手に入るんだね、そう妻に話す。見てるだけで幸せだよね、と言いつつやっぱり写真や動画は撮るわけで、家族になったその日から写真を撮りまくり、現像、現像、また現像、そしてたまった動画を編集という過酷な日々が続き、50歳のオジサンはいつもヘトヘトになって眠りについた。瞳フォーカスクソくらえ精神でマニュアルレンズしか持っていないが、ぴょんぴょん動く赤ちゃん犬をマニュアルレンズで都度捉えるのはさすがに骨が折れるので、ソニーの40mmを慌てて買った。ソニーα7CIIとライカM11の2台体制で子犬の写真を撮りまくる。

SONY α7CII / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

SONY α7CII / SONY FE 40mm F2.5 G

外的要因でも内的要因でも、変化は我々に刺激をくれる。変化によって視界が開けたり、思いもよらぬ喜びに出会ったり。もちろん、変化によって打ちのめされることもあるだろう。変化を選んだ自分を呪う日が来るかもしれない。成功か失敗か。称賛か罵倒か。いずれにせよ、成功も失敗もしない物語ほど、退屈なものはない。明るい未来は「変化」の先に広がっているのだ。

写真集販売PHOTOBOOK WOLF