色彩のない世界とエウレカタクマー

2025.08.26PHOTOGRAPH and WOLF

SONY α7CII / Thypoch Eureka 50mm F2

悲しい出来事があったとき、世界は色を失って見える。そういう表現を聞いたことがあるが、実際には我々が見る世界は色で溢れている。色盲と呼ばれる人の目も、動物の目も、人とは違った色彩を捉えるだけで、見ている世界は「白黒」ではないらしい。つまり我々の世界は基本的に「カラー」なのだ。その世界を撮影してモノクロにしてしまうなんて、考えてみたら、かなりひねくれた行為である。モノクロ写真が好きだという人が結構存在するようだが、カラー写真が存在しなかった時代ではなく、デジタル現像で比較的自由に色をコントロールできる現代で、あえてモノクロ写真を撮る意味とはいったい何だろうか。

Super Takumar 50mm F1.4で撮影した写真01

LEICA M11 / PENTAX Super Takumar 50mm F1.4

今日はモノクロでいきますか、そう思う日は心の中をリセットしたい時だ。アレもコレもと目移りするのではなく、色と共に雑念を消し去って陰影や造形に集中するのにモノクロ写真撮影は向いている。モノクロはカラーと比べて情報量が少ない。だからこそ、何を撮りたいのか、どう撮りたいのかの取捨選択を迫られる。写ったもの撮った人の存在が、より強く浮き彫りにされるのがモノクロ写真の特徴と言えるだろう。

お気に入りの50mmレンズをカメラにセットしてモノクロ写真を撮る。Thypoch Eureka 50mm F2PENTAX Super Takumar 50mm F1.4はどちらも個性があって性格の違う50mmだが、モノクロで撮ろうと思ったときに手が伸びるレンズだ。

スーパータクマーとエウレカ 重さの比較

スーパータクマーは安いくせにこれ1本で死ぬまで楽しめそうな実に魅力的な描写をするオールドレンズで、もっと頻繁に使いたいところだが、レンズ自体はコンパクトなのにマウントアダプターのお陰でちょっと重くちょっと長いレンズになってしまうのが難点だ。その点、エウレカは小さくて軽い。僕のアダプターを使ってα7CIIにつける場合、エウレカが174g、タクマーが375gで軽さだけならエウレカの圧勝である。ただしフィルターの溝がなく最短撮影距離が長いので、マクロレベルで撮りたい場合は昔使われていたライカの変換アダプターとクローズアップレンズを先端につけることになる。

エウレカ50mm

α7CIIとエウレカ50mm

スーパータクマーは柔らかい表現もシャープでストイックな表現も、どちらも対応できる万能レンズだ。収差があり逆光に弱くオールドレンズらしいレンズではあるが、絞った描写は現行レンズに匹敵するほど精緻な写りをする。コーティングが違うのかトリウムが使われているからか、55mmのタクマーよりもしっかりとした描写をする。

Super Takumar 50mm F1.4で撮影した写真02

SONY α7CII / PENTAX Super Takumar 50mm F1.4

Super Takumar 50mm F1.4で撮影した写真03

SONY α7CII / PENTAX Super Takumar 50mm F1.4

Super Takumar 50mm F1.4で撮影した写真04

LEICA M11 / PENTAX Super Takumar 50mm F1.4

Super Takumar 50mm F1.4で撮影した写真05

LEICA M11 / PENTAX Super Takumar 50mm F1.4

Super Takumar 50mm F1.4で撮影した写真06

LEICA M11 / PENTAX Super Takumar 50mm F1.4

Super Takumar 50mm F1.4で撮影した写真07

SONY α7CII / PENTAX Super Takumar 50mm F1.4

対してエウレカの方は、割と最近発売されたモダンなレンズだ。クラシカルな見た目と裏腹に、逆光にも強く安定感のある描写をしてくれる。少しだけオールドな味もあり、飽きずに撮ることができる。しかし何と言ってもその軽さが素晴らしい。スタイリングも気に入っているし、軽いことで使用頻度が高くなる。

Thypoch Eureka 50mm F2で撮影した写真01

SONY α7CII / Thypoch Eureka 50mm F2

Thypoch Eureka 50mm F2で撮影した写真02

SONY α7CII / Thypoch Eureka 50mm F2

Thypoch Eureka 50mm F2で撮影した写真03

SONY α7CII / Thypoch Eureka 50mm F2

Thypoch Eureka 50mm F2で撮影した写真04

SONY α7CII / Thypoch Eureka 50mm F2

Thypoch Eureka 50mm F2で撮影した写真05

SONY α7CII / Thypoch Eureka 50mm F2

モノクロ写真は、絵画で言えば水墨画だ。あるいは鉛筆で描くデッサンだ。昔のように諸事情で色表現が難しかった時代と違って、現代において色のない表現をするのは結構勇気のいることだと思う。撮り手の感性や美学や力量が丸裸になるモノクロ写真。いいものを持っている人のモノクロ表現は鑑賞者の心を射抜くが、何も持っていない人のモノクロ写真は悲しいくらいゴミくずになってしまう。モノクロ写真は、音楽のライブで言えばギター1本で歌を歌うようなものだ。バックバンドやパフォーマーが歌を盛り上げてくれるわけでもなく、ミスったらすぐにバレてしまう。森山直太朗のように素晴らしい歌声と感性を持っていたら永遠に聴いていたいと思えるライブになるが、個性もなく魅力もない歌手の弾き語りは聞くに堪えない。そういうことである。しかし、弾き語りライブのメリットはたくさんある。バックバンドの1人1人にギャラを払わなくていいしスケジュール調整の必要もない、つまり効率がいいのだ。騒がしいバンド音楽と違って、歌の歌詞がしっかり届くし強く記憶に残る。素晴らしい歌が美しい声とシンプルな音響で大きな会場に響き渡ったら、複雑で大音量のビックバンドの音楽では多分勝てない。多くのアーティストがミュージシャンを編成したりギャラ払ったりして苦労している中、秦基博や竹原ピストルがひょこっとギター1本持ってきて歌を心に残していくなんて「ずるいなぁコイツら」と思うものの、それが真実である。一線を超えたものに昇華することができれば、モノクロ写真も効率的に心に残る表現にできそうな気がする。

Super Takumar 50mm F1.4で撮影した写真08

SONY α7CII / PENTAX Super Takumar 50mm F1.4

Thypoch Eureka 50mm F2で撮影した写真07

SONY α7CII / Thypoch Eureka 50mm F2

Thypoch Eureka 50mm F2で撮影した写真08

SONY α7CII / Thypoch Eureka 50mm F2

Thypoch Eureka 50mm F2で撮影した写真09

SONY α7CII / Thypoch Eureka 50mm F2

Thypoch Eureka 50mm F2で撮影した写真10

LEICA M11 / Thypoch Eureka 50mm F2

Thypoch Eureka 50mm F2で撮影した写真11

SONY α7CII / Thypoch Eureka 50mm F2

Thypoch Eureka 50mm F2で撮影した写真12

SONY α7CII / Thypoch Eureka 50mm F2

モノクロ写真を新しいか古いかで語れば、間違いなく「古い」方だ。その一方で色合いのトレンドに左右されない分、それが今年撮影されたものなのか10年前に撮影されたものなのか、わかりにくいという特性がある。写したものに時代を反映した要素がなければ、いつ撮影されたのか容易にわからない。もちろん、昔の写真は鮮明でないとかノイズが多いとかそういうディテールの違いはあるが、今は逆に画質を悪くしてアナログ的な風合いを出すのがトレンドなので、ディテールだけでは判別できないことも多い。そういう意味では、カラーよりもモノクロの方が「時代を超える」と言えるのかもしれない。

音楽の弾き語りと同じように、モノクロ写真の良さをノスタルジーや非現実の要素だけで片付けてしまうのはもったいない。突き詰めていけば、かなり面白い。それがモノクロ写真だ。

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