花を撮る理由
2023.06.22PHOTOGRAPH and WOLF歳をとると花が好きになると言われるが、そこには何か理屈があるのだろうか。我々お歳をめした年配軍団の中には、花なんか一切視界に入らんぞという都会的な年寄りだって沢山いると思うが、歳をとってから植物や天候が目に入るようになるという現象はよくあることらしい。仕事に忙殺され子育てに疲弊し日々のタスクに追われて変な汗を流しながら長年を過ごし定年が近くなってようやく人生が落ち着いてきた頃に、今まで当たり前のようにあって着目しなかった何気ないものが「何だかよく思える」ようになる。中年から老人へ至るプロセスのよくある話である。目の前の様々なタスクや自分の未来を躍起になって追いかける日々に、金を払わなくてもその辺にある自然を見て「何だかいいねぇ」なんて余裕などあるわけがない。夢や目標という自分でつくった囲いの中でもがき続け、気持ちのいい汗や気持ちの悪い汗をだらだらと流して人は形成されていく。やがてあらゆるものを犠牲にして邁進するほど自分人生が大したものではないことに気づき、肩の力が抜けたところでいままで気にも留めなかったものを感じ取れるようになる。避けてきた食べものを美味しく感じられるようになったり、夕焼けを見ながら歩くことが好きになったり、隣にいる妻が思いのほか美人に見えたり。そういう年寄り的変化は年寄りじみてきたと悲観することではなく、むしろ「いやぁ、俺もようやくそういうステージまできたのか。」と、これまでの道のりを慰労しつつ歓迎すべきことだろう。
このページを見てくれている写真フェチの怪しい皆さんは、幾度となく花の写真を撮ってきたことだろう。薔薇を撮ったり、紫陽花を撮ったり、名前も知らない花を撮ったり。僕もさんざん撮ってきた。正直に言うとそこまで花が好きなわけじゃない。「何か撮るもんないかな〜」とぷらぷら歩いていると、まるでミツバチのように吸い寄せられてしまう、それが花なのだ。
絶景を探すのは難しい、いい感じの花を探すのは割りと簡単だ、そういうわけである。美しいものを自分の好きなように撮りたいと思ったとき、花はお手軽な被写体なのだ。例えば、自分好みのモデルをオーディションしてロケ地かスタジオを押さえてモデルのご機嫌を伺いながら何とか数カットいいのが撮れたけど金は結構払ったね、というのと比べると格段にコスパがいいのがその辺にある「花」なのだ。花屋で買って室内で撮ってもいいが、何となく屋外でふにゃっふにゃ撮るのが好きなので基本的に外にある花を撮る。植えられていたり、自生していたり。白や黒の紙を背景にして撮ったり空抜けにしたりと、撮り手が工夫すれば自然光だけでも結構いい感じに撮れる。
もう5年前も前になるが、花撮るのっていいよねというネタを書いている。(花の誘惑 無口な美人)当時はマイクロフォーサーズのPEN-Fを使っていてPEN-Fは今でも使っているが、最近はフィルムカメラのPEN-Fが手元にあってこれで花を撮るのも悪くない。35mmフィルムの半分を使うハーフサイズカメラで、それをデジタル化すると粒子が荒いのなんの、ディテールが写らないのなんのって、まぁその写んなさ加減がこのカメラの長所と言えるだろう。ゆるい画質は、鮮明でないために想像力をちょっと刺激する。
花もいいけど蕾もいいよね、葉っぱだって味があるよね、という具合に植物のディテールを撮ることになる。ムネもいいけどオシリもいいよね、というショーもない話と同じで、植物の細かな部分を写真に収める行為は楽しく終わりのない旅である。花を撮るのに一番いいカメラとレンズの組み合わせは何だろうと試行錯誤してきた。小さな部分を撮るなら近くまで寄れるレンズでセンサーサイズは小さいほうがいいだろうとか、雨が降っているときは低ノイズのフルサイズがいいだろうとか、色々試してきたが、50mm前後の標準的な焦点距離のレンズをアダプターやクローズアップレンズで寄れる状態にしてカメラは気に入ってれば何でもいい、という結論に至った。撮りたい写真の種類にもよるが、事実の再現性に命をかけている写真撮りでないならカメラやレンズは気に入ってさえいれば何でもいい。
LEICA M11で花を撮るのも楽しい。M型ライカでハーフマクロ?合わないんじゃない?そう言われそうだが、ビゾフレックス2という90度にチルトするファインダーを使うと植物のハーフマクロはとても快適なのだ。ただしM型ライカはグリップがないので、僕のように左手に背景紙を持ちながら右手にライカを持ってピントの合う一瞬を狙うのは結構しんどい。ストラップで右手を固定するなど多少工夫しないと腱鞘炎になってしまいそうなので注意が必要だ。僕のような人間はライカ至上主義の方々からは「レンジファインダーを使いたまえ不届き者め!」と罵られそうだが、レンジファインダーでマクロを撮ることはできないし、大雑把にしかコントロールできないレンジファインダーだと撮影に集中できないのだ。ただ困ったことにこのビゾフレックス2はM11と同様にデリケートな機材で、過去1年間で2回も不具合が出て交換している。もう少し丈夫につくってもらえたら有り難いが、日本製ではないので割り切って付き合うしかない。
ピントを浅くしたり深くしたり。造形を丁寧に描いたり、抽象的に表現したり。花を写真に収めるのは楽しい。たくさん撮って表現が枯渇したと思ったとしても、もっと違う切り取り方があるに違いない。目の前の30cmから3メートルほどの小さな世界に集中して写真を撮っていると、解決できなくて心に沈殿している煩わしい物事が、ゆるやかに静かに溶けていくのを感じる。
このページの撮影機材
LEICA M11
SONY
α7S(ILCE-7S)
SONY
α7R3(ILCE-7RM3)
OLYMPUS
PEN-F
OLYMPUS
PEN-F(Film)
LEICA
Summicron 50mm F2.0 Collapsible
Voigtlander
NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC
Voigtlander
APO-SKOPAR 90mm F2.8
PENTAX
Super Takumar 55mm F1.8
MINOLTA
M-Rokkor 40mm F2
MINOLTA
MD Rokkor 50mm F1.4
-
写真集「BLUE heels」
¥1,100 -
写真集「Nostalgia」
¥1,100 -
写真集「植物美術館」
¥1,100 -
写真集「花美 1」
¥1,100 -
写真集「花美 2」
¥1,100 -
写真集「花美 3」
¥1,100
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lens
- LEICA Summicron 50mm F2 1st Collapsible
- Thypoch Eureka 50mm F2
- MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8
- MINOLTA M-Rokkor 40mm F2
- MINOLTA MD Rokkor 50mm F1.4
- Voigtlander SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Ⅲ
- Voigtlander COLOR-SKOPAR Vintage Line 21mm F3.5
- Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ MC
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 SC
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 E-mount
- Voigtlander NOKTON Classic 40mm F1.4 SC
- Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC
- Voigtlander APO-SKOPAR 90mm F2.8
- PENTAX Super Takumar 50mm F1.4
- PENTAX Super Takumar 55mm F1.8
- PENTAX SMC Takumar 200mm F4
- Nikon Nikkor-H Auto 50mm f2
- Nikon Ai Micro-Nikkor 55mm f/2.8S
- CANON 50mm F1.8 Ⅱ
- CANON 100mm F3.5 Ⅱ
- ZEISS Planar T*2/50 ZM
- GIZMON Wtulens 17mm F16
- OLYMPUS M.ZUIKO 12mm F2.0
- OLYMPUS M.ZUIKO 25mm F1.8
- OLYMPUS M.ZUIKO 40-150mm F4.0-5.6R
- LUMIX G VARIO 100-300mm F4.0-5.6 Ⅱ
- All Photograph