日本人の遺伝子と「茶の道」
2022.06.18PHOTOGRAPH and WOLF新型コロナという暴風雨にかき乱され、この2年間で様々なものが浮き彫りになった。ビジネスの脆さ、家族との繋がり、必要なものと不要なもの、人間関係、自分の生き方。それらの問題点は、世界的感染症によって生まれたのではなく、もともとそこにあって露見しただけだ。臭いものにはフタをしろ、という感じで見て見ぬフリをしてきたものもある。あるいは、気づきもしなかったということもあるだろう。いずれにしろ、目の前に具体的な像を描いて現れなければ、僕らはハッキリと認知することはできない。膨大な数の人間を殺し今もなお強制力のある新型コロナによって、いままで明確に感じることのなかった様々なものを知ることになる。感染症の流行で浮き彫りになったものの1つが、世界と日本の違いだ。つまり、我々日本人は世界の人々と明らかに「違う」ということである。
一時期の日本では、行政が国民の行動を規制していないのに感染者数の増加を抑えることができた。言うまでもなくそれは国民の自主的な自粛が要因となっている。世界では「ミステリーだ」とか「不可思議な現象だ」とかそんな感じで報道され、日本はやっぱり不思議な国だというイメージをより一層強めたことだろう。恨まれてもいいから強い政策を打ち出そう、そういう立派な政治家がいないのは嘆かわしいことだが、自主的に共生できる能力を持っていることは誇らしいことだと思う。最近ハマっている韓国ドラマを観ていると、韓国人と日本人の共通点がちょいちょいあって面白い。韓国の人は否定するかもしれないが、多方面で追い抜かれる前の日本の影響が如実に感じられる。当たり前だが同じアジア人として容姿も似ている。だが、やっぱり明らかな「違い」がある。主にそれは精神構造だ。
例えば、我々日本人には「その辺にゴミを捨てたら他の人に申し訳ない」といったマインドがある。会社や家族の健康が保たれるなら自分は我慢しよう、封を開けるための切り口があると使う人が喜ぶな、とかそういうことは多くの人が持っている精神構造だ。似たようなマインドを持った国がないわけではないが、新型コロナという非常時によって日本という国が世界の国と明らかに違うことを実感できた。何ていうか、完全に「違う」のである。日本は平和な国だから危機感が足りない、という言われ方をするが、もしかして危機に対する考え方は世界の国よりも優れているのかもしれない。細やかなものを捉えられることや共生する能力に長けているといった長所の反面、大局が見れないことや主張が少ない短所を持っている。他国と比較して劣っているように思える部分。そういう負の部分が嫌で仕方がなかったが、歳とったせいか光と影はセットなのだから無理に遺伝子に逆らわずに生まれ持ったアイデンティティを受け入れた方が健全なのかもしれないな、そう思えるようになってきた。「健全なのかも…」とつい口に出てしまうところが、これもまさに日本人の証だ。
写真家久保田光一は日本の聖地と呼ばれる場所を巡って写真を撮る写真家だ。小澤征良さんの詩とコラボレーションした写真集「聖地へ」がその代表作で、作品は全作モノクロ写真で綴られている。久保田氏は商業カメラマンをベースとしていて、僕はデザイナーとしてタレントや商品の写真撮影を何度もお願いしたことがあるし、写真に狂いだしてからは仕事よりもプライベートで面倒をみてもらっている。久保田氏の写真は「重くて柔らかい」写真だ。決して軽くはない。海外の写真家のようなスピード感や派手さはないが、一瞬を切り取った写真であっても、前からそこにあってこれからもずっとそこに居続けるような、しっとりとした魅力を持っている。そして、実に、誠実だ。紹介するのは、久保田氏の新作写真集「茶の道」である。
久保田氏は茶道家もやっていて、写真集「茶の道」は茶会の場面を切り取った作品集だ。カラーとモノクロ写真で編集されたこの写真集を、僕のネットショップ「PHOTOBOOK WOLF」でも販売させてもらうことにした。
場所を整え、ホストがゲストをもてなし、お茶をたてる、お茶の集い。茶会は厳かで経験のない人には敷居の高いものに思えるが、日本人のマインドを体現しているとも言える。だが、この写真集は茶道の解説本ではない。お茶に興味がある人や携わる人のためにつくられた写真集でもない。では、何が作品に写っているのかと言えば、やはりそれは僕が稚拙な形容詞をつけるよりも実際に手にとって各々に感じていただきたい。「そうそう、日本人ってこういうこと。」日本人の遺伝子に響く不思議な写真集である。
このページの撮影機材
LEICA M11
Voigtlander
NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC
MINOLTA
M-Rokkor 28mm F2.8
-
写真集「BLUE heels」
¥1,100 -
写真集「Nostalgia」
¥1,100 -
写真集「植物美術館」
¥1,100 -
写真集「花美 1」
¥1,100 -
写真集「花美 2」
¥1,100 -
写真集「花美 3」
¥1,100
column
- 2024.10.30レンジファインダーとの和解
- 2024.10.10黒潰れと白飛びの世界
- 2024.09.06モノクロ写真の追求
- 2024.07.23身軽なハンター Eureka 50mm
- 2024.06.28記録の写真
- 2024.06.01「P」「S」「A」モードの疑問
- 2024.05.11言葉にできない写真
- 2024.03.28強い者たちの正義
- 2024.02.25少数派に優しい Nikon Zf
- 2024.02.0135mm 凡庸者の可能性
- 2023.12.20それをする意味
- 2023.12.15テクノロジーと人の関係
- 2023.11.06Super Takumar 50mm F1.4
- 2023.09.03クソ野郎が撮る写真
- 2023.06.22花を撮る理由
- 2023.05.10写楽の日々
- 2023.03.21楽しい中望遠 APO-SKOPAR 90mm
- 2023.02.09太陽を撮る快楽
- 2023.01.13行ったり来たりの軌跡
- 2022.11.22タスクの向こうに幸福はない
- 2022.11.03LEICA M11の馬鹿ヤロウ
- 2022.09.20狙い通りに的を射る
- 2022.08.13LEICA M11と10本のレンズ
- 2022.07.08人知れず開催される「植物美術館」
- 2022.06.18日本人の遺伝子と「茶の道」
- 2022.06.07LEICA M11
- 2022.05.16写真の構図
- 2022.04.13NOKTON F1.5と50mmを巡る旅
- 2022.03.17脳とモラルのアップデート
- 2022.03.08海へ
- 2022.02.28世界の大きさと写真の世界
- 2022.01.29写真集をつくる
- 2021.12.31フィルム撮影の刺激
- 2021.11.29絞って撮るNokton Classic 35mm
- 2021.10.27時代遅れのロックンロール
- 2021.09.23雨モノクロ沈胴ズミクロン
- 2021.09.13拒絶する男
- 2021.08.22過去からのコンタクト
- 2021.07.26スポーツと音楽と写真
- 2021.07.19マイクロフォーサーズの魅力 2021
- 2021.06.24小さきもの
- 2021.05.26現実と絵画の間に
- 2021.05.11脳と体で撮る写真
- 2021.04.26理解不能なメッセージ
- 2021.04.03とっておく意味
- 2021.03.11モノクロで自由になる感性
- 2021.03.04もう恋なんてしない
- 2021.02.19ギリキリでスレスレへの挑戦
- 2021.02.09人間は動物よりも優れた生きものか?
- 2021.01.18写真の中のハーモニー
- 2020.12.24遠くへ
- 2020.12.11モノクロの世界と15mm
- 2020.11.06現像の愉しみ
- 2020.10.15ずっと使えそうなカメラ SONY α7S
- 2020.09.21写スンです GIZMON 17mm
- 2020.09.01矛盾ハンター
- 2020.07.29朽ちていくもの
- 2020.07.23花とペンズミ中毒
- 2020.07.15無駄に思えるプロセスは報われる
- 2020.06.24ズミタクマクロ
- 2020.06.19森へ
- 2020.05.25大人の夜の快楽
- 2020.05.04見直しと修正の日々
- 2020.04.13AM5:00の光と濃厚接触
- 2020.03.24何だってよくない人のPEN-F
- 2020.03.05濃紺への憧れ
- 2020.02.20NOKTON Classic 35mmとの再会
- 2020.02.15写真に写るのは事実か虚構か
- 2020.01.22流すか止めるか
- 2020.01.17ローコントラストの心情
- 2019.12.19後悔と懺悔の生きもの
- 2019.12.10飽きないものはない
- 2019.11.15小さな巨人 X100F
- 2019.10.24F8のキャパシティ
- 2019.10.05愛せる欠点とM-Rokkor40mm
- 2019.09.23植物採集の日々
- 2019.09.0263歳のキヤノン50mm
- 2019.08.22それは いい写真か悪い写真か
- 2019.08.14近くから遠くへ
- 2019.07.29雨を愛せる人になりたい
- 2019.07.081度しか味わえないその時間
- 2019.06.2465年前の古くないデザイン 1stズミクロン
- 2019.06.12街のデザインとスナップ写真
- 2019.05.15空の青 思い描く青空
- 2019.05.03近くに寄りたい欲求
- 2019.04.24変わらないフォーマット
- 2019.04.13常識と非常識の選択
- 2019.04.03ノーファインダーの快楽
- 2019.03.21ライカのデザイン
- 2019.02.26飽きないものの価値
- 2019.01.30NOKTON Classic 35mm
- 2019.01.17光と影のロジック
- 2019.01.01終わりに思う 始まりに思う
- 2018.12.17Takumarという名の友人
- 2018.12.06普通コンプレックス
- 2018.11.30季節を愛でる暮らし
- 2018.11.27失敗しない安全な道
- 2018.11.09終わりのない旅
- 2018.11.01M-Rokkor 28mmの底力
- 2018.10.19M-Rokkor 28mmの逆襲
- 2018.10.05焦点と非焦点
- 2018.09.26夜の撮影 α7R2 vs PEN-F
- 2018.09.18いま住んでいる場所が終の棲家になる
- 2018.09.10強烈な陽射しと夏のハラスメント
- 2018.08.30現役とリタイアの分岐点
- 2018.08.21過去との距離感
- 2018.07.10本来の姿とそこから見える景色
- 2018.06.16花の誘惑 無口な美人
- 2018.05.15欲望の建築とジェラシー
- 2018.04.14朝にしかないもの
- 2018.03.28過去の自分を裏切って何が悪い
- 2018.03.18夫婦とか家族とか
- 2018.03.01固定概念から自由になるための礎
- 2018.02.15ディテールを殺した写真
- 2018.02.07劣化することは悪いことだろうか?
- 2018.02.03マイクロフォーサーズの魅力
- 2017.12.27日本人は写真が好きな人種だと思う
lens
- LEICA Summicron 50mm F2 1st Collapsible
- Thypoch Eureka 50mm F2
- MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8
- MINOLTA M-Rokkor 40mm F2
- MINOLTA MD Rokkor 50mm F1.4
- Voigtlander SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Ⅲ
- Voigtlander COLOR-SKOPAR Vintage Line 21mm F3.5
- Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ MC
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 SC
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 E-mount
- Voigtlander NOKTON Classic 40mm F1.4 SC
- Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC
- Voigtlander APO-SKOPAR 90mm F2.8
- PENTAX Super Takumar 50mm F1.4
- PENTAX Super Takumar 55mm F1.8
- PENTAX SMC Takumar 200mm F4
- Nikon Nikkor-H Auto 50mm f2
- Nikon Ai Micro-Nikkor 55mm f/2.8S
- CANON 50mm F1.8 Ⅱ
- CANON 100mm F3.5 Ⅱ
- ZEISS Planar T*2/50 ZM
- GIZMON Wtulens 17mm F16
- OLYMPUS M.ZUIKO 12mm F2.0
- OLYMPUS M.ZUIKO 25mm F1.8
- OLYMPUS M.ZUIKO 40-150mm F4.0-5.6R
- LUMIX G VARIO 100-300mm F4.0-5.6 Ⅱ
- All Photograph