LEICA M11と10本のレンズ

2022.08.13PHOTOGRAPH and WOLF

LEICA M11と10本のレンズ

高いカメラと高いレンズで写真を撮れば素晴らしい写真が撮れるというのは大きな誤解だ。10万円のカメラも100万円のカメラもどんなカメラであっても所詮カメラであって、カメラが写真を撮るのではなく写真は人の脳ミソで撮るものなのだ。とは言え、道具として少しでもいいものを使った方がいいのは当たり前のことで、初心者だからって安価な機材で勉強する必要などまったくない。学生だって金を気にする必要がなければ、目が飛び出るほどの高額な機材をバカスカ買いまくってその中から自分に合うものを見つけた方がいい。いつかはライカを…。と思っているオジサンはローンを組んですぐにライカを買った方がいい。高額なM型ライカでも月3万払いで3年経てばあっという間に払い終わるし、10年先も同じように生きているとは限らないからだ。ジジイだけでなく未来が未知なのは若い人も同じで、若い頃にやっときゃよかったとため息をつく情けない大人にならないためにも、手を伸ばせば手に入るものならトライしてみるべきだ。

オールドレンズの魅力にハマって何年か過ぎたが、どうやらオールドレンズというよりマニュアルレンズが好きだということに気づいた。古いレンズ特有の欠落した味わいも嫌いじゃないが、それよりもフォーカスを自分の手で操作する喜びの方がプライオリティが高い。マニュアルフォーカスはマニュアル露出と同じで、場合によっては撮影の幅を広げてくれるというメリットがある。カメラの電源を入れる前に絞りリングを回してF値を固定し、フォーカスを手と目で合わせて最後は露出とフレーミング。この流れが完全に体に染み付いてしまった。妻と出かけるときに使おうとオートフォーカスのX100Fを使ってみたこともあったが、写真を撮っている自分がまったく楽しくないことに気づき使わなくなってしまった。望遠レンズを使うとき以外は、もっぱらマニュアルフォーカスである。小ぶりなレンズが好みで手元にあるものはライカMマウントのレンズが多い。それ以外のレンズはアダプターを介してライカM11に取り付ける。新しくなったEVF(ビゾフレックス)は以前までのものと比べると「まとも」と言える代物で、レンジファインダー用のレンズでなくても快適に撮影ができる。EVFでピントを合わせるのが難しい広角レンズを使うときはレンジファインダーでピントを合わせ、それ以外はEVFを使う。僕がM11を使う理由は、チルトできるまともなEVFとMレンズの性能を充分に発揮できること、そして何よりデザイン(形状)にある。

LEICA M11で持っているレンズとの組み合わせを試してみる。僕が持っているマニュアルレンズは安い値段で手に入れたものが多い。ほとんどが10万円以下、7,000円とか1万円とかで買ったレンズもある。よくも悪くもブランド志向ではないので、バカ高いカメラにバカ安いレンズをつけてもまったく気にならない。マウントが違っていてもアダプターをつけてメーカーと規格を横断する。

MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8

LEICA M11とMINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8

M11で最初に使ったレンズがMロッコール28mmだ。M10でもM Typ240でもそうだと思うが、Mレンズを使うならM型ライカが最も適しているのを実感する。特に開放で使った場合には、アダプターを介して他のカメラに使った場合には四隅が著しく崩れてしまう。M型ライカなら周辺減光するものの四隅の破綻が少なくなる。もちろん、まったく像が乱れないわけではないが、落ち着いた描写になることは間違いない。ミノルタがライカと提携していた頃につくられた1981年のこのレンズは、仕事で使っても遜色ないほど現役で使える。

LEICA M11とMINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8で撮影した写真01

LEICA M11 / MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8

LEICA M11とMINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8で撮影した写真02

LEICA M11 / MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8

LEICA M11とMINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8で撮影した写真03

LEICA M11 / MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8

Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ MC

LEICA M11とVoigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ MC

開放近くのふわふわした描写で知られたノクトンクラシック35mm。マニュアルレンズの楽しさを教えてくれた愛すべきレンズだ。絞ったときのシャープな絵も好みで、M11で使うとぐぐっと締まりのある描写が手に入る。ソニーのカメラにアダプターを介して使う場合はアダプターのヘリコイドで20cmほどの近接撮影ができたが、M型ライカの場合最短撮影距離が70cmになるので近接撮影が難しくなるのが歯がゆいところだ。寄って撮りたい場合にはクローズアップレンズや接写アダプターを使わなければならない。

LEICA M11とVoigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ MCで撮影した写真01

LEICA M11 / Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ MC

LEICA M11とVoigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ MCで撮影した写真02

LEICA M11 / Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ MC

Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

LEICA M11とVoigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

ウルトロン ビンテージライン35mmは重さ170gの超コンパクトなレンズだ。フードをつけなければかなり小さい。ノクトンクラシックほど絞りによる描写の変化が少なく、ソニーで使ったときにはやや物足りない印象だったが、M11で使うとこれがメチャクチャいい。開放近くのガツンと落ちる周辺減光、絞ったときのパワフルでシャープな描写は素晴らしく、ファインダー越しに見える画像だけで「こんなに小さなレンズがこんなにいいのぅ?」とオカマ声を上げてしまうほどいい感じだ。35mmはノクトンクラシックが最高、そう思っていたがM11につけて順位が完全に入れ替わってしまった。M型ライカには小さなレンズがよく似合う。

LEICA M11とVoigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2で撮影した写真01

LEICA M11 / Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

LEICA M11とVoigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2で撮影した写真02

LEICA M11 / Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

LEICA M11とVoigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2で撮影した写真03

LEICA M11 / Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

Voigtlander COLOR-SKOPAR Vintage Line 21mm F3.5

LEICA M11とVoigtlander COLOR-SKOPAR Vintage Line 21mm F3.5

35mmと同じビンテージライン、こちらは広角の21mm。ワイドに撮りたいと思ったとき、28mmだと少し物足りない。18mm以下だと画面端の歪みが発生する。そういう意味では21mmは調度いい絶妙な画角とも言える。カラースコパー21mmF3.5の重さは180g、デザインもサイズ感も35mmとほぼ同じなので違うフードで識別しないとどっちだかわからなくなってしまう。描写についてはまったく文句なし。人工物を撮っても、自然を撮っても、期待に応えてくれるパワフルなレンズだと思う。フォクトレンダーのビンテージラインは、小さなレンズの宿命で収差が目立つ。だから、アダプターを介してα7Sで使うよりもM11で使う方が遥かにいいだろうと予想していたが、実際に使ってみると予想を上回った印象だ。

LEICA M11とVoigtlander COLOR-SKOPAR Vintage Line 21mm F3.5で撮影した写真01

LEICA M11 / Voigtlander COLOR-SKOPAR Vintage Line 21mm F3.5

LEICA M11とVoigtlander COLOR-SKOPAR Vintage Line 21mm F3.5で撮影した写真02

LEICA M11 / Voigtlander COLOR-SKOPAR Vintage Line 21mm F3.5

LEICA M11とVoigtlander COLOR-SKOPAR Vintage Line 21mm F3.5で撮影した写真03

LEICA M11 / Voigtlander COLOR-SKOPAR Vintage Line 21mm F3.5

CANON 100mm F3.5 Ⅱ

LEICA M11とCANON 100mm F3.5 Ⅱ

オールドキャノン100mmはマニュアルレンズで唯一持っている中望遠レンズだ。細く長いこのレンズをカメラにつけて、股間の近くにぶら下げていると少々卑猥なシルエットになってしまうが、撮ってみるとなかなかいい絵を出してくれる。背景をぼかすために中望遠レンズを使う、という撮り方をしないので大体絞って撮ることになる。元々中望遠を使うことが少ないので、今後もこのレンズの使用頻度は低いと思うが、決して悪くないレンズである。

LEICA M11とCANON 100mm F3.5 Ⅱで撮影した写真01

LEICA M11 / CANON 100mm F3.5 Ⅱ

LEICA M11とCANON 100mm F3.5 Ⅱで撮影した写真0

LEICA M11 / CANON 100mm F3.5 Ⅱ

LEICA Summicron 50mm F2 1st Collapsible

LEICA M11とLEICA Summicron 50mm F2 1st Collapsible

俗に言う「沈胴ズミクロン」は、唯一持っているライカのレンズだ。ライカのオールドレンズと言えばまずコレ、と言ってもいいほどの定番レンズではないだろうか。強めのフレアやフリンジでなかなか思い通りにならないジャジャ馬レンズではあるが、撮りたい雰囲気や光の角度がハマると何ともいい絵を出してくれる。こういう古いレンズの場合、収差と戯れるつもりで撮らないと楽しめない。レトロなデザインの割に意外と操作はしやすい。最短撮影距離が1メートルで、近くのものを撮るためにはクローズアップレンズをいちいちレンズの先端に取り付ける手間がある。そういった時間も楽しく感じだしたら、それはもうちょっとした変態の始まりだ。M11とのデザインマッチングはとてもよく、撮っていて最高に気持ちいいレンズだと思う。

LEICA M11とLEICA Summicron 50mm F2 1st Collapsibleで撮影した写真01

LEICA M11 / LEICA Summicron 50mm F2 1st Collapsible

LEICA M11とLEICA Summicron 50mm F2 1st Collapsibleで撮影した写真02

LEICA M11 / LEICA Summicron 50mm F2 1st Collapsible

LEICA M11とLEICA Summicron 50mm F2 1st Collapsibleで撮影した写真03

LEICA M11 / LEICA Summicron 50mm F2 1st Collapsible

LEICA M11とLEICA Summicron 50mm F2 1st Collapsibleで撮影した写真04

LEICA M11 / LEICA Summicron 50mm F2 1st Collapsible

PENTAX Super Takumar 55mm F1.8

LEICA M11とPENTAX Super Takumar 55mm F1.8

M42マウントのオールドレンズ、スーパータクマー55mm。マウントアダプターを使ってM11と組み合わせる。フレアなどの収差やコントラストの低さは沈胴ズミクロンと似ているが、スーパータクマーの方がやや扱いやすい。コントラストの低いレンズで撮って、現像でコントラストを上げるというのも悪くない。そこら中で1万円以下で買えるレンズにしては、描写の高さに驚かされる。いまは使用頻度が低いが、時々引っ張り出して使うと毎回「う〜ん、やっぱりいいねぇ」と思う。

LEICA M11とPENTAX Super Takumar 55mm F1.8で撮影した写真01

LEICA M11 / PENTAX Super Takumar 55mm F1.8

LEICA M11とPENTAX Super Takumar 55mm F1.8で撮影した写真02

LEICA M11 / PENTAX Super Takumar 55mm F1.8

LEICA M11とPENTAX Super Takumar 55mm F1.8で撮影した写真03

LEICA M11 / PENTAX Super Takumar 55mm F1.8

MINOLTA MD Rokkor 50mm F1.4

LEICA M11とMINOLTA MD Rokkor 50mm F1.4

沈胴ズミクロンやスーパータクマーと比べると格段に扱いやすく頼りになるロッコール50mmF1.4。フワッとしたのからバシッとしたものまで安心して撮れる一眼レフ用のレンズだ。発売は1977年でオールドレンズの中では比較的新しいものになる。「精度の高い高画質」を求めるなら、あまり古すぎないこの年代のレンズを選んだ方が賢明かもしれない。僕はこの秀逸なレンズを11,000円で手に入れている。

LEICA M11とMINOLTA MD Rokkor 50mm F1.4で撮影した写真01

LEICA M11 / MINOLTA MD Rokkor 50mm F1.4

LEICA M11とMINOLTA MD Rokkor 50mm F1.4で撮影した写真02

LEICA M11 / MINOLTA MD Rokkor 50mm F1.4

LEICA M11とMINOLTA MD Rokkor 50mm F1.4で撮影した写真03

LEICA M11 / MINOLTA MD Rokkor 50mm F1.4

Nikon Ai Micro-Nikkor 55mm f/2.8S

LEICA M11とNikon Ai Micro-Nikkor 55mm f/2.8S

植物の小さな世界を撮るために入手したレンズだが、マクロから遠景まで申し分ない描写が期待できるマイクロニッコール55mm。1981年から2020年まで恐ろしく長い間現役レンズとして売られていた伝説的レンズで、高画質だからと言って味気ないわけじゃないスーパーレンズだ。M11につけると若干ヘビーになるが、カメラもレンズもレトロデザインなので外観はとてもマッチする。

LEICA M11とNikon Ai Micro-Nikkor 55mm f/2.8Sで撮影した写真01

LEICA M11 / Nikon Ai Micro-Nikkor 55mm f/2.8S

LEICA M11とNikon Ai Micro-Nikkor 55mm f/2.8Sで撮影した写真02

LEICA M11 / Nikon Ai Micro-Nikkor 55mm f/2.8S

LEICA M11とNikon Ai Micro-Nikkor 55mm f/2.8Sで撮影した写真03

LEICA M11 / Nikon Ai Micro-Nikkor 55mm f/2.8S

Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

LEICA M11とVoigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

コンパクトな50mm、ノクトン ビンテージライン50mm。ライカMマウントのレンズでは、アポズミクロン、ズミルックス、コシナのアポランター、ノクトンのF1.2やF1あたりが人気で、このレンズはあまり話題に上がってこないようだ。しかし様々な理由からこのレンズはM11で使うベストレンズだとも思える。まず重さが198gととても軽い。全長が短いためレンジファインダーを使うときにもレンズの干渉が少ない。ピントリングは最短から無限遠までの回転角度が少ないので、ピント合わせがスムーズに対応できる。精緻な描写が期待できる一方で、開放近くではトーンをつけた画作りができる。壊してしまったとしてもオールドと違って新品がすぐに手に入る。α7Sと組み合わせて使ったときには「繊細」という印象だったが、M11と合わせると「繊細かつパワフル」という感じだ。手元の50mmから1本だけ選べと言われたら、迷わずこのレンズを選ぶだろう。

LEICA M11とVoigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MCで撮影した写真01

LEICA M11 / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

LEICA M11とVoigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MCで撮影した写真02

LEICA M11 / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

LEICA M11とVoigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MCで撮影した写真03

LEICA M11 / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

LEICA M11とVoigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MCで撮影した写真04

LEICA M11 / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

LEICA M11とVoigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MCで撮影した写真05

LEICA M11 / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

LEICA M11とVoigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MCで撮影した写真06

LEICA M11 / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

LEICA M11とVoigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MCで撮影した写真07

LEICA M11 / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

LEICA M11とVoigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MCで撮影した写真08

LEICA M11 / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

ライカM11は前機種よりも近代化されているものの、M型ライカ特有の厄介な部分を引きずっている。起動にかかる時間、LVのブラックアウト、ほとんどのレンズが画角の右下を隠してしまう不器用なレンジファインダー、LVを使っているとすぐに熱がこもるボディ。価格に性能が見合うかと聞かれても、何とも言えないのが正直なところだ。とは言え10本のレンズを試してみると、Mマウントのレンズはもちろんのこと他のマウントのレンズもM11はそのポテンシャルを1段引き上げてくれるような気がした。ひと言で語るのは難しいが、何はともあれパワフルなカメラなのは間違いない。だが、ライカだろうがソニーだろうがスマホだろうが、デジカメはデジカメであって写真の輝きを決定づけるものではない。ライカだからこういう写真とか、広角レンズだから風景だとか、そういうのは実にくだらない陳腐なセオリーだ。

そもそも写真にとって機材が関与する割合は10%未満だと思いたい。じゃあ、なぜそのカメラじゃないといけないのか、なぜそのレンズを選んだのか、それはやっぱり趣向性に依存すると思う。でかいカメラにでかいレンズをつけた方が撮影に熱が入る人もいれば、コンパクトな機材でパワフルな写真を撮るのが気持ちいい人もいる。お気に入りの服を着て女性を口説けばうまくいくような気がする。今日はお肌の調子がいいからすべてうまくいくような気がする。そういうまったく根拠のない先入観の力は侮れない。あらゆることが自分の気の持ちようで結果まで変わってしまうのは、どこにでもある事実だからだ。ライカM11はどんなレンズをつけても、撮影意欲を刺激してテンションを上げてくれる。

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