LEICA M11

2022.06.07PHOTOGRAPH and WOLF

LEICA M11で撮影した写真01

LEICA M11 / MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8

魅力的な女性は扱いにくい。そういうのは少々古い考え方なのかもしれないが「魅力のあるものは癖があって少々やっかいだ」ということでは昔も今も真実に近い。大体、魅力を持った人というのはよくわからない引力があって、こっちのペースをかき乱すものだ。それが若い女性でもオジサンでも子供でも結果は同じで、その魅力にやられてしまうと何かを我慢してでもそれを受け入れなければならない。自分を納得させるために受け入れなければならない理由をロジカルに言語化しようと試みるものの、結局のところ「だってアイツ可愛いからな…」と意味不明な言い訳が口からこぼれることになる。目に入れても痛くない幼い娘、尊敬できる上司、いつもいつも可愛い愛犬。我々はいつだって魅力あるものの奴隷になってしまうのだ。そして、M型ライカというカメラも「魅力あるもの」の1つだ。

LEICA M11で撮影した写真02

LEICA M11 / MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8

自分のものとして使ったことのあるライカのM型カメラは、Leica M Typ240だ。色んなところに持ち歩いて最良の友になるだろうと楽しみにしていたが、独特な画質や扱いにくさ、高感度ノイズが出やすいといった機械的な不満に加え、自分の視力低下という身体的限界に打ちのめされて、短期間だけ使った後に別れを告げた。それが3年ほど前の話だ。その後、他のカメラでたくさん写真を撮るうちに何度も「手放さなければよかった」と後悔することになったが、低画素でテンポよく撮れるソニーα7S、植物の写真を撮るのに最適なオリンパスPEN-Fのコンビが心地よくて、写真を撮るのにまったく不都合は感じなかった。それでも、M型ライカには他のカメラにはない「デザイン(形状)」という魅力がある。絶妙なサイズ感、強制的なグリップを持たないシンプルさ、ボディーの湾曲が生み出すフィット感、余計なダイヤルやボタン類の少なさ。写真について、きれいに撮る以上の達観した考え方ができたら、再びM型ライカを手元に置きたい、そう考えていた。

昨年から情報が小出しに流出され、待ちに待ったLeica M11は発売日に注文して一旦手元に来ていたが、ファームウェアの不具合で手持ちのレンズが使えず返品せざるを得なかった。高い買いものなので不安と憂鬱にさいなまれたが、ファームウェアも更新されたことだし、いずれ買うなら早い方がいいだろうと開き直ってシルバーボディを購入した。はじめは軽量化されたブラックにしようと考えていたが、ライカストアで持ってみたら「あれ?なんか違う…」と感じてしまった。カメラなんて軽ければ軽い方がいい。M型ライカは形状が素晴らしいんだけどもっと軽くならんかね、そうつぶやいていた自分が恥ずかしい。重さ、レンズをつけた状態のバランス。それは結構重要だったんだと思い知る。世間では黒いカメラの方が人気のようだが、僕はシルバーの方が機械らしくて好きだ。プラスチックではなく本物の金属でつくられたシルバーのデジタルカメラなんて、他メーカーで見つけることはできない。重くて硬い金属の塊。映画「スナッチ」で「銃はでかい方がいい。弾が出なくても、いざとなりゃコレで殴ればいい。」というセリフを思い出す。シルバーボディはマジで硬いしずっしり重い。死の危険が迫ったいざという時には、ライカで殴ればいい。

LEICA M11の写真03

LEICA M11の写真04

M型ライカはルックスがシンプルでとてもいい感じだが、唯一不満があるとすれば赤いロゴだ。赤い色、ロゴのデザインはいいとして、なぜこの部分だけチープな材質なのか理解できない。ブランドの象徴となる部分なのでもっと神経を使ってもよさそうなのだが、超ストイックなカメラのデザインを超チープなロゴバッチが台無しにしている。上にも後ろにも「LEICA」の刻印があるし、そもそもブランドがわかりやすい特徴のあるデザインなので、正面の赤いロゴはいらねぇんじゃねえの?と思ってしまうが、四の五の言っても仕方がない。気に入らなければ丸くカットしたカッティングシートをペタっと貼れば万事解決である。

LEICA M11で撮影した写真05

LEICA M11 / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

LEICA M11で撮影した写真06

LEICA M11 / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

新しい外付けEVF「ビゾフレックス2」は品薄状態が続いていて、いつ手元に届くのかわからない。当分の間は28〜50mmのレンズをつけてレンジファインダーで撮影することになる。背面液晶は晴天の屋外では見づらいし、僕のように老眼が加速しているジイジイが液晶画面でピントを確認するのは諦めた方がいい。気のせいかもしれないが、MよりもM11の方がレンジファインダーのピント合わせが安定しているように感じる。3年経って目は確実に悪くなったので、まぁ気のせいだ。順光ならシャッタースピードは「オート」でかまわないが、逆光や暗所で思い通りの露出を得たい場合は工夫が必要だ。スポット測光、露出補正など、どうやるかは人によると思う。僕のようにEVFで確認しながらマニュアルで露出を設定して撮ることが染み付いている輩は、1ショット試し撮りをしてそれを基準にマニュアルで露出を設定するのがわかりやすい。アナログ時代のカメラマンが、本番を撮る前にポラロイドで撮るのとやっていることは似ている。その状況でイメージ通りの露出が決まってしまえば、撮った直後に液晶で確認する手間も省ける。レンジファインダーのメリットを挙げることはできるが、フォーカスの歴史としては目測時代の後、一眼レフ時代の前という昔のメカニズムであることは間違いないので、総合的にEVFより劣っているのは否めない。こんなことを言うとライカを愛する人たちから一斉に石を投げられそうだが、現代においてM型ライカの最大のメリットはレンジファインダーではない。よく言われる速射性についても最新のミラーレスとオートフォーカスの方が優れている気がする。快適なEVFが手元にあれば、きっと8割以上のショットはEVFを使うことになる。じゃあ何なのよ?どうしてそんなに高いカメラを買う必要があるのよ?アタシのどこがいけないのよ?と問い詰められれば、そりゃあオマエ手に馴染む形とルックスがいいからだよ、と応えることになる。

LEICA M11で撮影した写真07

LEICA M11 / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

LEICA M11で撮影した写真08

LEICA M11 / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

Leica M11は、前機種M10と比べて嬉しいスペックがある。機械式と電子式を切り替えられるハイブリッドな最速1/16000の電子シャッター。最大6000万画素でサイズを選択できるRAW。ようやくまともになったチルトする新しい外付けEVFに対応。低感度ISO64を備えたセンサー。もちろん、ライカやコシナのMレンズを最大限発揮できるカメラであることは言うまでもない。だが、精細な画像を描写し利便性の高いカメラは他にも沢山ある。もしかしたら電子的な性能を考えればM型ライカを選ぶ必要はないかもしれない。じゃあ、なぜ? M型ライカ? やっぱりどう考えても「形状を含むデザイン」だ。コーナーが楕円形で抜群に手に馴染む。グリップがないから手の位置を強制しない。背面の凹凸が少ないからストラップでぶら下げて長く撮り歩いても服に干渉しない。こういうことは、すべてアナログな要素だ。レトロなファインダーに焦点が当てられることが多いが、道具である以上「形状」はかなり重要な要素だと思う。新しくなってもレトロを引きずった少々扱いにくLeica M11。それでも、数あるフルサイズのデジタルカメラ中で、M型ライカのようなデザインに優れたカメラは稀有な存在だと思う。

写真集販売PHOTOBOOK WOLF