LEICA M11
2022.06.07PHOTOGRAPH and WOLF魅力的な女性は扱いにくい。そういうのは少々古い考え方なのかもしれないが「魅力のあるものは癖があって少々やっかいだ」ということでは昔も今も真実に近い。大体、魅力を持った人というのはよくわからない引力があって、こっちのペースをかき乱すものだ。それが若い女性でもオジサンでも子供でも結果は同じで、その魅力にやられてしまうと何かを我慢してでもそれを受け入れなければならない。自分を納得させるために受け入れなければならない理由をロジカルに言語化しようと試みるものの、結局のところ「だってアイツ可愛いからな…」と意味不明な言い訳が口からこぼれることになる。目に入れても痛くない幼い娘、尊敬できる上司、いつもいつも可愛い愛犬。我々はいつだって魅力あるものの奴隷になってしまうのだ。そして、M型ライカというカメラも「魅力あるもの」の1つだ。
自分のものとして使ったことのあるライカのM型カメラは、Leica M Typ240だ。色んなところに持ち歩いて最良の友になるだろうと楽しみにしていたが、独特な画質や扱いにくさ、高感度ノイズが出やすいといった機械的な不満に加え、自分の視力低下という身体的限界に打ちのめされて、短期間だけ使った後に別れを告げた。それが3年ほど前の話だ。その後、他のカメラでたくさん写真を撮るうちに何度も「手放さなければよかった」と後悔することになったが、低画素でテンポよく撮れるソニーα7S、植物の写真を撮るのに最適なオリンパスPEN-Fのコンビが心地よくて、写真を撮るのにまったく不都合は感じなかった。それでも、M型ライカには他のカメラにはない「デザイン(形状)」という魅力がある。絶妙なサイズ感、強制的なグリップを持たないシンプルさ、ボディーの湾曲が生み出すフィット感、余計なダイヤルやボタン類の少なさ。写真について、きれいに撮る以上の達観した考え方ができたら、再びM型ライカを手元に置きたい、そう考えていた。
昨年から情報が小出しに流出され、待ちに待ったLeica M11は発売日に注文して一旦手元に来ていたが、ファームウェアの不具合で手持ちのレンズが使えず返品せざるを得なかった。高い買いものなので不安と憂鬱にさいなまれたが、ファームウェアも更新されたことだし、いずれ買うなら早い方がいいだろうと開き直ってシルバーボディを購入した。はじめは軽量化されたブラックにしようと考えていたが、ライカストアで持ってみたら「あれ?なんか違う…」と感じてしまった。カメラなんて軽ければ軽い方がいい。M型ライカは形状が素晴らしいんだけどもっと軽くならんかね、そうつぶやいていた自分が恥ずかしい。重さ、レンズをつけた状態のバランス。それは結構重要だったんだと思い知る。世間では黒いカメラの方が人気のようだが、僕はシルバーの方が機械らしくて好きだ。プラスチックではなく本物の金属でつくられたシルバーのデジタルカメラなんて、他メーカーで見つけることはできない。重くて硬い金属の塊。映画「スナッチ」で「銃はでかい方がいい。弾が出なくても、いざとなりゃコレで殴ればいい。」というセリフを思い出す。シルバーボディはマジで硬いしずっしり重い。死の危険が迫ったいざという時には、ライカで殴ればいい。
M型ライカはルックスがシンプルでとてもいい感じだが、唯一不満があるとすれば赤いロゴだ。赤い色、ロゴのデザインはいいとして、なぜこの部分だけチープな材質なのか理解できない。ブランドの象徴となる部分なのでもっと神経を使ってもよさそうなのだが、超ストイックなカメラのデザインを超チープなロゴバッチが台無しにしている。上にも後ろにも「LEICA」の刻印があるし、そもそもブランドがわかりやすい特徴のあるデザインなので、正面の赤いロゴはいらねぇんじゃねえの?と思ってしまうが、四の五の言っても仕方がない。気に入らなければ丸くカットしたカッティングシートをペタっと貼れば万事解決である。
新しい外付けEVF「ビゾフレックス2」は品薄状態が続いていて、いつ手元に届くのかわからない。当分の間は28〜50mmのレンズをつけてレンジファインダーで撮影することになる。背面液晶は晴天の屋外では見づらいし、僕のように老眼が加速しているジイジイが液晶画面でピントを確認するのは諦めた方がいい。気のせいかもしれないが、MよりもM11の方がレンジファインダーのピント合わせが安定しているように感じる。3年経って目は確実に悪くなったので、まぁ気のせいだ。順光ならシャッタースピードは「オート」でかまわないが、逆光や暗所で思い通りの露出を得たい場合は工夫が必要だ。スポット測光、露出補正など、どうやるかは人によると思う。僕のようにEVFで確認しながらマニュアルで露出を設定して撮ることが染み付いている輩は、1ショット試し撮りをしてそれを基準にマニュアルで露出を設定するのがわかりやすい。アナログ時代のカメラマンが、本番を撮る前にポラロイドで撮るのとやっていることは似ている。その状況でイメージ通りの露出が決まってしまえば、撮った直後に液晶で確認する手間も省ける。レンジファインダーのメリットを挙げることはできるが、フォーカスの歴史としては目測時代の後、一眼レフ時代の前という昔のメカニズムであることは間違いないので、総合的にEVFより劣っているのは否めない。こんなことを言うとライカを愛する人たちから一斉に石を投げられそうだが、現代においてM型ライカの最大のメリットはレンジファインダーではない。よく言われる速射性についても最新のミラーレスとオートフォーカスの方が優れている気がする。快適なEVFが手元にあれば、きっと8割以上のショットはEVFを使うことになる。じゃあ何なのよ?どうしてそんなに高いカメラを買う必要があるのよ?アタシのどこがいけないのよ?と問い詰められれば、そりゃあオマエ手に馴染む形とルックスがいいからだよ、と応えることになる。
Leica M11は、前機種M10と比べて嬉しいスペックがある。機械式と電子式を切り替えられるハイブリッドな最速1/16000の電子シャッター。最大6000万画素でサイズを選択できるRAW。ようやくまともになったチルトする新しい外付けEVFに対応。低感度ISO64を備えたセンサー。もちろん、ライカやコシナのMレンズを最大限発揮できるカメラであることは言うまでもない。だが、精細な画像を描写し利便性の高いカメラは他にも沢山ある。もしかしたら電子的な性能を考えればM型ライカを選ぶ必要はないかもしれない。じゃあ、なぜ? M型ライカ? やっぱりどう考えても「形状を含むデザイン」だ。コーナーが楕円形で抜群に手に馴染む。グリップがないから手の位置を強制しない。背面の凹凸が少ないからストラップでぶら下げて長く撮り歩いても服に干渉しない。こういうことは、すべてアナログな要素だ。レトロなファインダーに焦点が当てられることが多いが、道具である以上「形状」はかなり重要な要素だと思う。新しくなってもレトロを引きずった少々扱いにくLeica M11。それでも、数あるフルサイズのデジタルカメラ中で、M型ライカのようなデザインに優れたカメラは稀有な存在だと思う。
このページの撮影機材
LEICA M11
Voigtlander
NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC
MINOLTA
M-Rokkor 28mm F2.8
-
写真集「BLUE heels」
¥1,100 -
写真集「Nostalgia」
¥1,100 -
写真集「植物美術館」
¥1,100 -
写真集「花美 1」
¥1,100 -
写真集「花美 2」
¥1,100 -
写真集「花美 3」
¥1,100
column
- 2024.10.30レンジファインダーとの和解
- 2024.10.10黒潰れと白飛びの世界
- 2024.09.06モノクロ写真の追求
- 2024.07.23身軽なハンター Eureka 50mm
- 2024.06.28記録の写真
- 2024.06.01「P」「S」「A」モードの疑問
- 2024.05.11言葉にできない写真
- 2024.03.28強い者たちの正義
- 2024.02.25少数派に優しい Nikon Zf
- 2024.02.0135mm 凡庸者の可能性
- 2023.12.20それをする意味
- 2023.12.15テクノロジーと人の関係
- 2023.11.06Super Takumar 50mm F1.4
- 2023.09.03クソ野郎が撮る写真
- 2023.06.22花を撮る理由
- 2023.05.10写楽の日々
- 2023.03.21楽しい中望遠 APO-SKOPAR 90mm
- 2023.02.09太陽を撮る快楽
- 2023.01.13行ったり来たりの軌跡
- 2022.11.22タスクの向こうに幸福はない
- 2022.11.03LEICA M11の馬鹿ヤロウ
- 2022.09.20狙い通りに的を射る
- 2022.08.13LEICA M11と10本のレンズ
- 2022.07.08人知れず開催される「植物美術館」
- 2022.06.18日本人の遺伝子と「茶の道」
- 2022.06.07LEICA M11
- 2022.05.16写真の構図
- 2022.04.13NOKTON F1.5と50mmを巡る旅
- 2022.03.17脳とモラルのアップデート
- 2022.03.08海へ
- 2022.02.28世界の大きさと写真の世界
- 2022.01.29写真集をつくる
- 2021.12.31フィルム撮影の刺激
- 2021.11.29絞って撮るNokton Classic 35mm
- 2021.10.27時代遅れのロックンロール
- 2021.09.23雨モノクロ沈胴ズミクロン
- 2021.09.13拒絶する男
- 2021.08.22過去からのコンタクト
- 2021.07.26スポーツと音楽と写真
- 2021.07.19マイクロフォーサーズの魅力 2021
- 2021.06.24小さきもの
- 2021.05.26現実と絵画の間に
- 2021.05.11脳と体で撮る写真
- 2021.04.26理解不能なメッセージ
- 2021.04.03とっておく意味
- 2021.03.11モノクロで自由になる感性
- 2021.03.04もう恋なんてしない
- 2021.02.19ギリキリでスレスレへの挑戦
- 2021.02.09人間は動物よりも優れた生きものか?
- 2021.01.18写真の中のハーモニー
- 2020.12.24遠くへ
- 2020.12.11モノクロの世界と15mm
- 2020.11.06現像の愉しみ
- 2020.10.15ずっと使えそうなカメラ SONY α7S
- 2020.09.21写スンです GIZMON 17mm
- 2020.09.01矛盾ハンター
- 2020.07.29朽ちていくもの
- 2020.07.23花とペンズミ中毒
- 2020.07.15無駄に思えるプロセスは報われる
- 2020.06.24ズミタクマクロ
- 2020.06.19森へ
- 2020.05.25大人の夜の快楽
- 2020.05.04見直しと修正の日々
- 2020.04.13AM5:00の光と濃厚接触
- 2020.03.24何だってよくない人のPEN-F
- 2020.03.05濃紺への憧れ
- 2020.02.20NOKTON Classic 35mmとの再会
- 2020.02.15写真に写るのは事実か虚構か
- 2020.01.22流すか止めるか
- 2020.01.17ローコントラストの心情
- 2019.12.19後悔と懺悔の生きもの
- 2019.12.10飽きないものはない
- 2019.11.15小さな巨人 X100F
- 2019.10.24F8のキャパシティ
- 2019.10.05愛せる欠点とM-Rokkor40mm
- 2019.09.23植物採集の日々
- 2019.09.0263歳のキヤノン50mm
- 2019.08.22それは いい写真か悪い写真か
- 2019.08.14近くから遠くへ
- 2019.07.29雨を愛せる人になりたい
- 2019.07.081度しか味わえないその時間
- 2019.06.2465年前の古くないデザイン 1stズミクロン
- 2019.06.12街のデザインとスナップ写真
- 2019.05.15空の青 思い描く青空
- 2019.05.03近くに寄りたい欲求
- 2019.04.24変わらないフォーマット
- 2019.04.13常識と非常識の選択
- 2019.04.03ノーファインダーの快楽
- 2019.03.21ライカのデザイン
- 2019.02.26飽きないものの価値
- 2019.01.30NOKTON Classic 35mm
- 2019.01.17光と影のロジック
- 2019.01.01終わりに思う 始まりに思う
- 2018.12.17Takumarという名の友人
- 2018.12.06普通コンプレックス
- 2018.11.30季節を愛でる暮らし
- 2018.11.27失敗しない安全な道
- 2018.11.09終わりのない旅
- 2018.11.01M-Rokkor 28mmの底力
- 2018.10.19M-Rokkor 28mmの逆襲
- 2018.10.05焦点と非焦点
- 2018.09.26夜の撮影 α7R2 vs PEN-F
- 2018.09.18いま住んでいる場所が終の棲家になる
- 2018.09.10強烈な陽射しと夏のハラスメント
- 2018.08.30現役とリタイアの分岐点
- 2018.08.21過去との距離感
- 2018.07.10本来の姿とそこから見える景色
- 2018.06.16花の誘惑 無口な美人
- 2018.05.15欲望の建築とジェラシー
- 2018.04.14朝にしかないもの
- 2018.03.28過去の自分を裏切って何が悪い
- 2018.03.18夫婦とか家族とか
- 2018.03.01固定概念から自由になるための礎
- 2018.02.15ディテールを殺した写真
- 2018.02.07劣化することは悪いことだろうか?
- 2018.02.03マイクロフォーサーズの魅力
- 2017.12.27日本人は写真が好きな人種だと思う
lens
- LEICA Summicron 50mm F2 1st Collapsible
- Thypoch Eureka 50mm F2
- MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8
- MINOLTA M-Rokkor 40mm F2
- MINOLTA MD Rokkor 50mm F1.4
- Voigtlander SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Ⅲ
- Voigtlander COLOR-SKOPAR Vintage Line 21mm F3.5
- Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ MC
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 SC
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 E-mount
- Voigtlander NOKTON Classic 40mm F1.4 SC
- Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC
- Voigtlander APO-SKOPAR 90mm F2.8
- PENTAX Super Takumar 50mm F1.4
- PENTAX Super Takumar 55mm F1.8
- PENTAX SMC Takumar 200mm F4
- Nikon Nikkor-H Auto 50mm f2
- Nikon Ai Micro-Nikkor 55mm f/2.8S
- CANON 50mm F1.8 Ⅱ
- CANON 100mm F3.5 Ⅱ
- ZEISS Planar T*2/50 ZM
- GIZMON Wtulens 17mm F16
- OLYMPUS M.ZUIKO 12mm F2.0
- OLYMPUS M.ZUIKO 25mm F1.8
- OLYMPUS M.ZUIKO 40-150mm F4.0-5.6R
- LUMIX G VARIO 100-300mm F4.0-5.6 Ⅱ
- All Photograph