新しい道を探したら 過去に通った道だった
2025.06.11PHOTOGRAPH and WOLF知らない街を歩いていたら、同じ場所に戻ってきてしまった。そういうことはよくある話だ。新しい発見を求めて巡り歩く内に、気づくとスタート地点に逆戻りしている。車でも徒歩でも、地図を見ずに直感で移動すると陥るよくある現象である。数分後の「あれ?さっき通った道だよね」や、数年後の「あれ?前に食べたことあるよね」も、デジャヴというより我々の知能と記憶力の低さを露見させる。賢さが有り余って耳から流れ出しているような賢人ならそういう現象は皆無かもしれないが、多くの凡人は行ったり来たりの反復行動で人生が構成されているのである。
フィルム撮影、フォビオンセンサー、CCDセンサーなど、写真撮りなら誰しも1度は気になるワードがある。僕も例にもれず、CCDセンサーで撮る写真の質感が気になっていた。デジタルでCMOSセンサーが当たり前の現在では、そうでない機材の風合いがどうも気になってしまうのだ。いい雰囲気の写真にしたいとか、人と違ったテイストにしたいとか、どっちにしろないものねだり的なチープな欲求である。しかし、実際どうなんだよ?とネットを巡り歩いても大した写真が転がっていないので、まぁそんなもんだよね、と情報を追いかけるのをやめてしまうのだ。そういう不毛なサイクルを時々繰り返してきた。先月、原宿で「GR Anthology」という作品展があって写真界の巨匠たちの写真作品を観てきた。16名の作家によるリコーのコンデジ「GR」を使った写真作品が並び、上田義彦さんの林檎を撮った作品が群を抜いて素晴らしかった。上田さんの写真は三脚を立てて絶妙なライティングがされていて、皮肉なことに最も「GRで撮った感」の希薄な写真だった。なんだ、やっぱりそういうことか。改めて写真表現の真実を実感してしまったわけだが、ギャラリーにGRの実機も置いてあってそれらを触っているうちに、いつも持ち歩けるコンデジもいいねという気持ちになった。だが人気のGRは、なかなか買えない。そこで、どうせならCCDセンサーのGRを試すかとメルカリで買ったら、フォーカス機能が壊れていた。次に運良くアマゾンで新品のPanasonic LUMIX LX3を見つけて購入。2008年発売、何とも懐かしい佇まいのコンデジである。
CCDセンサーのカメラと言えば、ライカのM9以前、あるいはニコンかペンタックスあたり、他はセンサーの小さなコンデジが多い。コンデジ?そんなカメラで撮るならスマホでよくない?そう考えるオジサンは多いと思うが、実は自分も同じである。しかし、いざ撮って現像してみるとコレがなかなかよろしい。よろしいどころか、結構いいのだ。LUMIX LX3は1/1.63型の超ミニミニCCDセンサーで、ズーム域の広角側では焦点距離5.1mmなので「ボケ」とは無縁のカメラだ。逆光耐性とか高感度耐性とか、そういうものも一旦忘れた方がいい。僕が嫌うファインダーなしのコンデジで、シャッターボタンを半押ししたところでピントが合っているのかどうかすらわからない。晴天の屋外では写真の細部に何が写っているのかも正直わからない。だから、撮った瞬間に「おおっ いいのが撮れたね」という感覚には決してなれないが、現像してみると「なんだよ 悪くないね」となるのである。
CCDセンサーといったって、rawで撮らないと味気ない写真にしかならない。少しアンダーぎみに撮っておいて、raw現像では高すぎる彩度を少し落としてやる。意外だったのは、いままで使ってきたCMOSのデータよりも扱いやすいと感じたこと。例えば、暗く落ちたシャドー部を目一杯上げても不自然さが少ない。バランスを崩して印象的な色合いを表現する場合でも、しっかりついてきてくれる。現在では使われていない過去のセンサーなので、少々手こずるかなと思っていたが、現像作業では仕上がりのイメージまでたどり着くスピードが結構速かった。
まさか自分が昔のコンデジを使って写真を撮りだすとは思わなかった。センサーはフルサイズ、レンズはもちろんマニュアルレンズ。そういう自分の拘りが、脳内で溶け出す音がする。液晶で細かいことは確認できないので、サングラスをかけたまま子供のおもちゃのような安っぽいコンデジで写真を撮る。当然だが目は疲れない。脳もそんなに疲れない。
スマホが登場する前、コンデジを使って写真を撮る人は多かった。そう言えば昔使っていたな、そう思ってgoogleフォトに保存してある昔の写真を確認してみたら、17年前に前機種のLX2を使っていたことが判明した。なんと、巡り巡って17年前の機材に戻ってしまったわけである。当時はもちろんraw現像なんかしない。改めてその当時の写真を見ると、シャッタースピードなどまったく気にせず撮っているので、感心するほどブレブレ写真のオンパレードだ。いい感じの写真を撮ろう、というよりは記録的な意味合いでシャッターを切っていた時代だ。当たり前だが、その頃の写真を見ても「うーん いいねぇ」とはならない。その頃と今では考え方がまるで違うし、世界の捉え方も違うのだ。
気の向くままに写真を撮ってきたが、もう少し写真を肉厚なものにしたいと思っている。深く、重く、という方向だ。そういう願望とCCDセンサーは、相性がいいように思う。
同じ小説を読んだとしても、若い頃と今では受け取り方が違う。今更ながらに聴くビートルズが以前とは違って耳に響くように、同じ道に引き返したとしても景色は違って見えるのかもしれない。
このページの撮影機材
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lens
- LEICA Summicron 50mm F2 1st Collapsible
- Thypoch Eureka 50mm F2
- MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8
- MINOLTA M-Rokkor 40mm F2
- MINOLTA MD Rokkor 50mm F1.4
- Voigtlander SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Ⅲ
- Voigtlander COLOR-SKOPAR Vintage Line 21mm F3.5
- Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ MC
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 SC
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 E-mount
- Voigtlander NOKTON Classic 40mm F1.4 SC
- Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC
- Voigtlander APO-SKOPAR 90mm F2.8
- PENTAX Super Takumar 50mm F1.4
- PENTAX Super Takumar 55mm F1.8
- PENTAX SMC Takumar 200mm F4
- Nikon Nikkor-H Auto 50mm f2
- Nikon Ai Micro-Nikkor 55mm f/2.8S
- Nikon Ai Nikkor 200mm F4
- CANON 50mm F1.8 Ⅱ
- CANON 100mm F3.5 Ⅱ
- ZEISS Planar T*2/50 ZM
- GIZMON Wtulens 17mm F16
- OLYMPUS M.ZUIKO 12mm F2.0
- OLYMPUS M.ZUIKO 25mm F1.8
- OLYMPUS M.ZUIKO 40-150mm F4.0-5.6R
- LUMIX G VARIO 100-300mm F4.0-5.6 Ⅱ
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