M-Rokkor 28mmの底力

役に立たないレンズだな。そう思って放置していた40年前のオールドレンズM-Rokkor 28mm F2.8だが、フルサイズのカメラにつけてみたら驚くほどいいレンズだと気付かされた。開放での周辺減光、絞った時のディテールの再現力は、40年前のレンズと感じさせない素晴らしさがある。もちろん撮ったままの画像ではキレがないので、現像での調整が欠かせない。アナログ時代にフィルターやフィルムの種類、プリントの用紙や焼き具合を工夫するのと同じく、デジタルでも現像で整えることで写真はぐっと生きてくる。現像でどう調整するかは、ベースとなるレンズの描写が導いてくれる。

カメラ本体の性能もレンズのポテンシャルを引き上げてくれる。フィルムでは粒子という限界があったが、最近のデジタルカメラなら解像度がフィルムの粒子を遥かに上回り、鮮明で滑らかな像を刻むことができる。オールドレンズと呼ばれる古いレンズも、発売当初よりもずっといいコンディションで楽しむことができる。幸せな時代だ。

M-Rokkor 28mmをじっくり楽しみたかったので、他のレンズは持たずにα7R2にM-Rokkor 28mmをつけて外に出る。錆びたコンテナを開放で撮る。中央部だけがシャープで写真の4隅は柔らかく像が溶ける。周辺部の壊れ方はとても上品で、その落ち方は太陽との角度によって違いが感じられる。

横浜から東へ。新しい街「みなとみらい」とは対象的に、古い時代を感じる建物と出会う。錆びて古くなった、かつての現役たち。少し足を踏み入れれば、時代を遡ってタイムスリップしたような風景に遭遇する。

モダンなデジタルカメラに古いレンズをつけて、古い時代の片鱗を撮っていると、時折不思議な気持ちになる。新しいものが生まれて、新しかったものが古くなり、そして必要とされなくなっていく。必要とされなくなる、というのは悲しいことだ。優れているのに、時代に埋もれてしまうものは沢山あると思う。その一方で、新しい技術が、過去のいいものを蘇らせることがある。技術が足りなかったために「古いのも」で片付けられていたものが、技術の進化によって現役復帰できるようになる。それはとても素晴らしいことだ。α7R2とM-Rokkor 28mmは、まさにそういった関係にある。

「古いか新しいかなんて間抜けな者たちの言い草だった」長渕剛が30代のとき、そう歌っている。僕もそう思う。