少数派に優しい Nikon Zf
2024.02.25PHOTOGRAPH and WOLF昨年から気になっていたニコンのカメラ「Nikon Zf」は、在庫がほとんどなくて半年待ちだと言われていた。量販店のスタッフも「よく売れている」と話してくれて、注文してもしばらくは手元に届かないだろうと思った。今年になってどうやら製造が追いついてきたようで、年明けに注文してから約1ヶ月経って僕の元にやってきた。デザインは昔風なカメラという感じで新鮮味はないが、何せグリップが苦手な写真撮りにとって有り難いことこの上なし。フルサイズで見やすいファインダーがあってグリップがない。そんなカメラはいまのところ国産デジタルカメラで唯一じゃないかと思う。
ニコンがなぜZfのようなカメラをつくったのかいまいち真意はわからない。というか、やや疑問だ。なぜなら、ニコンの純正レンズは重いレンズが多くグリップを必要とするし、現行のマニュアルレンズは存在しない。だから「デザインがいいよね」と買ったニコンユーザーは重いレンズに耐えられるよう別売のグリップをつけ、物理ダイヤルを使わずにオートフォーカスレンズに最適な操作に変更してしまうだろう。あれ、あれ?Z8買った方がよかったかもね、という流れが待っているのである。その一方で、ライカMマウントのような小ぶりなレンズを好むマニュアルレンズ使いには、もってこいのボディだと思う。Zfは重さが気になるところだが、105gという驚異的な軽さのMINOLTA M-Rokkor 40mm F2と組み合わせれば、ひ弱なオジサンも安心して1日中スナップすることができる。ニコンのカメラをアダプターでソニーに変換、さらにライカMに変換してミノルタのレンズ、日本光学(旧ニコン)のフードをつけるという、何とも自分勝手なセッティングで撮影を楽しむ。
普段使っているLEICA M11には申し訳ないが、Nikon Zfでの撮影は「快適」そのものだ。ヘリコイド付きのアダプターを使って最短撮影距離を縮められる利点もあるが、見やすいファインダー、シャッターフィーリング、機械的な安定感が嬉しい相違点だ。デジタルニコンを使うのは初めてなので不可解な部分もある。オフィシャルでは語られていないが、液晶を反転させてシャッタータイプをメカニカルに設定すると、何故かシャッターを切ってもファインダーがブラックアウトしない。え?なぜ?どうしちゃったのよ?という感じだが、まったくブラックアウトしないのである。レンジファインダーはブラックアウトしないからいい、という話をよく聞くがZfはその点も及第する。仕様なのかバグなのかよくわからんが、ファームアップしてもその辺のところはそのままにしておいてほしい。α7Sを使っていた頃は露出をISOとシャッタースピードでコントロールしていた。M11を使いだしてからは、長時間露光しない限りISOのダイヤルは常にautoで、シャッタースピードのダイヤルは必要な条件があるときだけ任意の値に設定してその他はauto、露出のコントロールは主に露出補正を使うようになった。Zfでも操作は同じで、ISOはauto、シャッターダイヤルは適宜、頻繁に変えるのは露出補正のダイヤル、という使い方になりそうだ。Zfの露出補正ダイヤルはファインダーを見ながら回すのは難しいポジションにあるが、ファインダーを覗く前に補正するイメージが決まっていることの方が多いから問題ない。マニュアルレンズしか使わないので絞りをカメラで操作することはない。そんなわけで、M型ライカに外付けファインダーをつけて撮る僕のような写真撮りには、すんなりと体に馴染むカメラのようだ。もちろんマニュアルレンズ使いに最適化されたカメラではないから不満がまったくないわけではないが、マニュアルレンズしか使わないなんて世界のマーケットの中では確実に少数なので我慢するしかない。いやいや、映像を録るときはオートフォーカスレンズを使うでしょ?と言うかもしれないが、例え映像を録る仕事があっても僕はマニュアルレンズしか使わない。なぜなら楽しくないからだ。
朝昼晩とNikon Zfで撮ってみて、これでようやくソニーのカメラと決別できると思いα7R3を処分した。手に馴染まないグリップに別れ告げ、晴れやかな気分になる。毎年開催されているCP+の会場は近所なので、今年もサラッと立ち寄った。相変わらずソニー、キヤノン、ニコン、パナソニック、シグマといったカメラメーカーの展示が盛り上がっていたが、僕が見るのはコシナのブースだけ。しかも関心があるのはVMマウントの小ぶりなレンズだけだ。グリップがない方が実用的で嬉しいと思う、オートフォーカスの世界には興味なし。僕のような変なこだわりを持っているマイノリティーな写真撮りにとって、快適と思えるデジタルカメラは少ない。Nikon Zfは「よく売れた」と聞くが、実際のところ万人に受け入れられるカメラではなく、世界の片隅で少数派がほくそ笑む貴重なカメラだと思う。
このページの撮影機材
-
写真集「BLUE heels」
¥1,100 -
写真集「Nostalgia」
¥1,100 -
写真集「植物美術館」
¥1,100 -
写真集「花美 1」
¥1,100 -
写真集「花美 2」
¥1,100 -
写真集「花美 3」
¥1,100
column
- 2024.10.30レンジファインダーとの和解
- 2024.10.10黒潰れと白飛びの世界
- 2024.09.06モノクロ写真の追求
- 2024.07.23身軽なハンター Eureka 50mm
- 2024.06.28記録の写真
- 2024.06.01「P」「S」「A」モードの疑問
- 2024.05.11言葉にできない写真
- 2024.03.28強い者たちの正義
- 2024.02.25少数派に優しい Nikon Zf
- 2024.02.0135mm 凡庸者の可能性
- 2023.12.20それをする意味
- 2023.12.15テクノロジーと人の関係
- 2023.11.06Super Takumar 50mm F1.4
- 2023.09.03クソ野郎が撮る写真
- 2023.06.22花を撮る理由
- 2023.05.10写楽の日々
- 2023.03.21楽しい中望遠 APO-SKOPAR 90mm
- 2023.02.09太陽を撮る快楽
- 2023.01.13行ったり来たりの軌跡
- 2022.11.22タスクの向こうに幸福はない
- 2022.11.03LEICA M11の馬鹿ヤロウ
- 2022.09.20狙い通りに的を射る
- 2022.08.13LEICA M11と10本のレンズ
- 2022.07.08人知れず開催される「植物美術館」
- 2022.06.18日本人の遺伝子と「茶の道」
- 2022.06.07LEICA M11
- 2022.05.16写真の構図
- 2022.04.13NOKTON F1.5と50mmを巡る旅
- 2022.03.17脳とモラルのアップデート
- 2022.03.08海へ
- 2022.02.28世界の大きさと写真の世界
- 2022.01.29写真集をつくる
- 2021.12.31フィルム撮影の刺激
- 2021.11.29絞って撮るNokton Classic 35mm
- 2021.10.27時代遅れのロックンロール
- 2021.09.23雨モノクロ沈胴ズミクロン
- 2021.09.13拒絶する男
- 2021.08.22過去からのコンタクト
- 2021.07.26スポーツと音楽と写真
- 2021.07.19マイクロフォーサーズの魅力 2021
- 2021.06.24小さきもの
- 2021.05.26現実と絵画の間に
- 2021.05.11脳と体で撮る写真
- 2021.04.26理解不能なメッセージ
- 2021.04.03とっておく意味
- 2021.03.11モノクロで自由になる感性
- 2021.03.04もう恋なんてしない
- 2021.02.19ギリキリでスレスレへの挑戦
- 2021.02.09人間は動物よりも優れた生きものか?
- 2021.01.18写真の中のハーモニー
- 2020.12.24遠くへ
- 2020.12.11モノクロの世界と15mm
- 2020.11.06現像の愉しみ
- 2020.10.15ずっと使えそうなカメラ SONY α7S
- 2020.09.21写スンです GIZMON 17mm
- 2020.09.01矛盾ハンター
- 2020.07.29朽ちていくもの
- 2020.07.23花とペンズミ中毒
- 2020.07.15無駄に思えるプロセスは報われる
- 2020.06.24ズミタクマクロ
- 2020.06.19森へ
- 2020.05.25大人の夜の快楽
- 2020.05.04見直しと修正の日々
- 2020.04.13AM5:00の光と濃厚接触
- 2020.03.24何だってよくない人のPEN-F
- 2020.03.05濃紺への憧れ
- 2020.02.20NOKTON Classic 35mmとの再会
- 2020.02.15写真に写るのは事実か虚構か
- 2020.01.22流すか止めるか
- 2020.01.17ローコントラストの心情
- 2019.12.19後悔と懺悔の生きもの
- 2019.12.10飽きないものはない
- 2019.11.15小さな巨人 X100F
- 2019.10.24F8のキャパシティ
- 2019.10.05愛せる欠点とM-Rokkor40mm
- 2019.09.23植物採集の日々
- 2019.09.0263歳のキヤノン50mm
- 2019.08.22それは いい写真か悪い写真か
- 2019.08.14近くから遠くへ
- 2019.07.29雨を愛せる人になりたい
- 2019.07.081度しか味わえないその時間
- 2019.06.2465年前の古くないデザイン 1stズミクロン
- 2019.06.12街のデザインとスナップ写真
- 2019.05.15空の青 思い描く青空
- 2019.05.03近くに寄りたい欲求
- 2019.04.24変わらないフォーマット
- 2019.04.13常識と非常識の選択
- 2019.04.03ノーファインダーの快楽
- 2019.03.21ライカのデザイン
- 2019.02.26飽きないものの価値
- 2019.01.30NOKTON Classic 35mm
- 2019.01.17光と影のロジック
- 2019.01.01終わりに思う 始まりに思う
- 2018.12.17Takumarという名の友人
- 2018.12.06普通コンプレックス
- 2018.11.30季節を愛でる暮らし
- 2018.11.27失敗しない安全な道
- 2018.11.09終わりのない旅
- 2018.11.01M-Rokkor 28mmの底力
- 2018.10.19M-Rokkor 28mmの逆襲
- 2018.10.05焦点と非焦点
- 2018.09.26夜の撮影 α7R2 vs PEN-F
- 2018.09.18いま住んでいる場所が終の棲家になる
- 2018.09.10強烈な陽射しと夏のハラスメント
- 2018.08.30現役とリタイアの分岐点
- 2018.08.21過去との距離感
- 2018.07.10本来の姿とそこから見える景色
- 2018.06.16花の誘惑 無口な美人
- 2018.05.15欲望の建築とジェラシー
- 2018.04.14朝にしかないもの
- 2018.03.28過去の自分を裏切って何が悪い
- 2018.03.18夫婦とか家族とか
- 2018.03.01固定概念から自由になるための礎
- 2018.02.15ディテールを殺した写真
- 2018.02.07劣化することは悪いことだろうか?
- 2018.02.03マイクロフォーサーズの魅力
- 2017.12.27日本人は写真が好きな人種だと思う
lens
- LEICA Summicron 50mm F2 1st Collapsible
- Thypoch Eureka 50mm F2
- MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8
- MINOLTA M-Rokkor 40mm F2
- MINOLTA MD Rokkor 50mm F1.4
- Voigtlander SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Ⅲ
- Voigtlander COLOR-SKOPAR Vintage Line 21mm F3.5
- Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ MC
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 SC
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 E-mount
- Voigtlander NOKTON Classic 40mm F1.4 SC
- Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC
- Voigtlander APO-SKOPAR 90mm F2.8
- PENTAX Super Takumar 50mm F1.4
- PENTAX Super Takumar 55mm F1.8
- PENTAX SMC Takumar 200mm F4
- Nikon Nikkor-H Auto 50mm f2
- Nikon Ai Micro-Nikkor 55mm f/2.8S
- CANON 50mm F1.8 Ⅱ
- CANON 100mm F3.5 Ⅱ
- ZEISS Planar T*2/50 ZM
- GIZMON Wtulens 17mm F16
- OLYMPUS M.ZUIKO 12mm F2.0
- OLYMPUS M.ZUIKO 25mm F1.8
- OLYMPUS M.ZUIKO 40-150mm F4.0-5.6R
- LUMIX G VARIO 100-300mm F4.0-5.6 Ⅱ
- All Photograph