モノクロの世界と15mm
2020.12.11PHOTOGRAPH and WOLF前から気になっていたことがあった。それはモノクロ写真を撮ることだ。モノクロ写真を撮る、といっても特別な機材が必要になるわけではなく、デジタルカメラで撮ったカラーデータをモノクロに変換すればいいだけなので、いつでも好きな時に撮れるわけだけど、「モノクロ写真を撮るモード」にならないと決してうまく撮れないので、モノクロに対してなんとなく触れずにいた。しかし、まぁ、撮れるのに撮らずにいるのはもったいない。実にもったいない。ということで脳と感性をカラーからモノクロに切り替えて写真を撮りに行く。
色のある世界を、色のない写真に焼き付けることは難しい。色がないわけだから「いい色だねぇ」とか「色の響き合いがいいねぇ」とか「色のグラデーションがたまらないねぇ」とか、そういったカラー写真の魅力は一切なくなってしまう。カラーだとよくわかる物体も、モノクロだと何だかよくわからなくなってしまう被写体もある。目の前に魅力的な情景が広がっていたとしても、モノクロ写真にすると気の抜けたつまらない写真になってしまうこともあるのだ。ただし、その逆もある。カラーでは特別な個性を感じないものも、モノクロにすると感情をぐいぐい刺激する絵になる場合もある。そう、まさにモノクロマジックである。
28mmよりも広い広角レンズを1本欲しいと思っていた。変わり種レンズGIZMON Wtulens 17mmを使ってから、超広角のワイド感が僕の感性に合うと気づいてしまったからだ。(参照:写スンです GIZMON 17mm)GIZMON 17mmはよくも悪くも破綻を楽しむアイテムだった。情緒がありつつも、できればもう少ししっかり撮れる広角レンズが欲しい。ある程度のシャープさを期待するならオールドレンズではなく現行のレンズの方がいいのかもしれない。21mmあたりもいいが、どうせならもっとワイドにいってみるか。そんなことを考えてVoigtlander SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Ⅲにたどり着いた。スーパーワイドヘリアー15mmは型がⅠ〜Ⅲまであって、初代が最もコンパクトでⅢ型が最もサイズが大きく補正されたレンズだ。とは言え、実際手にとってみるとⅢ型も非常に小さい。いつかライカでも使うかもしれないと思いライカMマウントのものを買ったが、カメラはソニーしか使わず、より端正な絵がほしいなら最適化されたEマウントのものを使った方が賢明かもしれない。この超ワイドな画角でモノクロ写真を撮ったらどんな感じだろう?
2回、3回と15mmを持ち出してモノクロ写真を撮る。撮りながら何となく自分がニヤけていくのがわかる。これはぁ…。ヤバいかも…。モノクロという非現実的世界と15mmというこれまた非現実的な画角が、合う、合う、非常に合う。しかも、開放がとてもいい。全部開放で撮ることにしても悪くない。奥行きを感じるパース感とコントラストが気持ちいいのナンのって、コレやばくない?オレやばくない?あいつハゲてない?といった少々おかしなテンションになっていく自分をたしなめる。一般的にどうか?という解釈は別にして、モノクロと15mmはベストマッチなのかもしれない。いっそ15mmをモノクロ専用にしてしまうか、という意味不明な方針まで固めてしまいそうになる。
超広角マニュアルレンズのピント合わせは難しい。EVFを拡大してもピントの中心がわかりづらい。少しでも絞ったらなおのこと。ライカMマウント版をマウントアダプターを使ってα7Sにつけているせいか、ピントのあったポジションとレンズに刻まれた距離の指標が合っていない。ピントについてはEVFではなく、レンジファインダーの方が素早く合わせられるのかもしれない。F8に絞っても周辺部の減光がなくなるわけじゃない。何にしても端から端までくっきりはっきりの写真を素早く楽ちんに撮りたい、という人が選ぶレンズではないと思う。
ヘリアー15mmのおかげでモノクロ撮影を存分に楽しむことができそうだ。だが、やっぱりモノクロは難しい。何でもかんでもモノクロにすれば素敵な写真になるということではなさそうだ。これぞ!という写真を撮るためには、それなりに枚数を撮っていかないと、モノクロの世界が体に馴染んでいかない気がする。現像はどうか?というと、ホワイトバランスやものの色を気にすることもないし、多少高感度ノイズがあってもカラーほど気にならないし、カラー写真よりもモノクロ写真の方が肩の力を抜いて現像できそうだ。大した理由もなく、モノクロ写真を撮ることを遠ざけてきたけど、なかなか面白い世界に足を突っ込んでしまった。カラーに疲れたらモノクロを楽しんでみるのも悪くない。モノクロの世界がわかってくると、カラーも違ったものが撮れるようになるかもしれないし。
このページの撮影機材
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写真集「BLUE heels」
¥1,100 -
写真集「Nostalgia」
¥1,100 -
写真集「植物美術館」
¥1,100 -
写真集「花美 1」
¥1,100 -
写真集「花美 2」
¥1,100 -
写真集「花美 3」
¥1,100
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lens
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- Thypoch Eureka 50mm F2
- MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8
- MINOLTA M-Rokkor 40mm F2
- MINOLTA MD Rokkor 50mm F1.4
- Voigtlander SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Ⅲ
- Voigtlander COLOR-SKOPAR Vintage Line 21mm F3.5
- Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ MC
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 SC
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 E-mount
- Voigtlander NOKTON Classic 40mm F1.4 SC
- Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC
- Voigtlander APO-SKOPAR 90mm F2.8
- PENTAX Super Takumar 50mm F1.4
- PENTAX Super Takumar 55mm F1.8
- PENTAX SMC Takumar 200mm F4
- Nikon Nikkor-H Auto 50mm f2
- Nikon Ai Micro-Nikkor 55mm f/2.8S
- CANON 50mm F1.8 Ⅱ
- CANON 100mm F3.5 Ⅱ
- ZEISS Planar T*2/50 ZM
- GIZMON Wtulens 17mm F16
- OLYMPUS M.ZUIKO 12mm F2.0
- OLYMPUS M.ZUIKO 25mm F1.8
- OLYMPUS M.ZUIKO 40-150mm F4.0-5.6R
- LUMIX G VARIO 100-300mm F4.0-5.6 Ⅱ
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