拒絶する男
2021.09.13PHOTOGRAPH and WOLFYESよりNOと言う方が難しい。本当にそうだろうか?昔から日本人はNOと言えない人種だと言われてきた。協調を求めるが故に他者からの誘いや提案を断れない、自己主張のない民族だということだ。島国で侵略される危険性が少なく自国を守るために外国を拒絶する歴史がないとか、村社会で共存していくために意見の食い違いや言い争いを避けてきたとか、日本人にまつわる「断れない性格」についての理由は諸説あるが、何かにつけ「嫌われたくない」民族であることは間違いない。この忌まわしき傾向は日本人なら誰しも持っていて、気を抜くとすぐにその波に持っていかれてしまう。そして気づくと「やりたくないことはしない」よりも「やりたくないけど仕方ない」を選んでしまうのだ。しかし、NOと言うのはそんなに難しいことだろうか。
僕が仕事にしているグラフィックデザインという分野では、コンペティションという悪しき習慣がある。企業がキャンペーンや広告をどこかに発注する際に、数社をセレクトして企画や見積を出させて検討する、それが「コンペ」である。数年前までは僕も沢山のコンペに参加して、勝って仕事を得たり負けて悔しい思いをしたりしたものだ。競合に勝つためには勝つ理由が必要だ。仕事を始めた頃は企画やデザインが圧倒的に優れた方がコンペで勝てると思っていた。やがて経験を重ね、広告代理店の営業が「今回はウチでやることに決まってますから安心してデザインを考えてください。」と教えてくれたり、企業の担当者からほとんどのコンペはやる前から採用する会社を決めているという衝撃の事実を聞いたり、起用するタレントや広告媒体のコスパや極限まで身を削った破格値の見積など、本編である企画やデザイン以外の要因で採用されるケースが多く、広告代理店やスタッフと一生懸命議論したり徹夜して制作したりするのが馬鹿馬鹿しくなってしまった。コンペで採用された本当の理由を知る人間は一握りで、コンペに負けた参加者のほとんどか不採用の明確な理由を知らされず「何がいけなかったんだろう…」という無力感の中疲弊していくのだ。コンペに勝つためには、各社から勝つための企画と見積が用意される。それらは受注側が企業から受注するためのエサであって、親身になって企業のメリットを考えたプランではないことも多い。企画の提案はなしで見積だけのコンペというのもあるが、そもそも企画やデザインが同じものではないので、料金を比較するだけの見積競合などまったくもって意味がない。ビジネス、社会貢献、自身のマインド、どれをとってもコンペにはメリットがないと気づき、いまではいかなる条件であろうとコンペはお断りしている。大きい案件でも、新規顧客の案件でも、コンペだとわかった時点ですべて断っている。コンペに参加することで、無自覚に同業種で首を締めあっているという側面もある。コンペなどクソくらえだ。コンペで勝って仕事を得てきたことも少なくないが、この悪しき習慣は早めに断ち切った方がいい。
30歳前後でフリーランスになって法人をつくった。独立して何が一番良かったかと言えば、それは仕事を断れることだ。予算や条件が合わない案件は断ったし、アダルトと宗教関係も断ったし、プロジェクトの途中で仕事を降りたこともあった。依頼を断らない、関わった仕事を投げ出さない、そういう主義の人からすれば「正義」とは呼べないだろう。もちろん、気が進まなくてもしてきたこともあるし、何でもかんでも断りまくって収入がなくなって妻を路頭に迷わすわけにもいかない。しかし、誰に何と言われようが本当にやりたくないことからは、それなりにパワーを使ってでも拒絶しなければならないのだ。
断り方にも誠意が必要だ。どんなに相手が横柄だったとしても、相手の存在自体を愚弄するような断り方をしてはいけない。人を否定せず状況を否定して、相手にも納得してもらえるような断り方をするのが大人というもんだ。今の若い人はキッパリと断れる人が多いが断り方については驚くほど「雑」だと聞く。仕事もセックスも断り方も「雑」なのはよろしくない。万が一相手がヤクザやDVといった厄介な輩だったら、断り方を雑にしてしまうと思わぬ不幸が待っているのだ。年齢を問わず会社をクビになりたくないとか彼氏に嫌われたくないとかで、主義じゃない状況をズルズルと引きずっている人は相当多いんじゃないかなと思う。誰も言わないから自分が言う、みんなやめないけど自分だけやめる、そういう人はいつの時代でも少数だ。マイノリティな自分を喜べるのは一部の変態で、ほとんどの人は周りと一緒という状況が好きなのだ。上司の命令、友達の誘い、両親の提案を断ったから関係が悪化するというのは実は勘違いで、そもそも自分の代わりなどいくらでもいるし、断って変な空気が流れるのは断り方に問題がある。大体、ちゃんとした理由があってそれを丁寧に伝えても壊れてしまう関係なんぞに大した価値はない。
こういう写真は撮りたくない、そういう言ってみればくだらない拘りがあって、撮りたくない写真を無意識に避けている気がする。ユルっとしてフワっとして女子ウケしそうなカワイイ写真は撮りたくない。爽やかで無味無臭な写真も撮りたくない。今どきだね、と言われるような写真は撮りたくない。撮りたくない写真への思いの裏側には、撮りたいものへの願望が存在していると思う。僕の場合は、ゴリっとして(昔の)男性的な写真が撮りたい、いい香りや危険な匂いがプンプン漂う写真が撮りたい、何年経っても古くも新しくもない写真が撮りたい、といった具合だ。写真で誰をどうしたい、という社会的な目的を明確に持っていないので、今のところ自分がいいと思える写真を撮ることがゴールになっている。そこには自分なりのささやかな主義が存在する。例え大多数がゆるふわカワイイ爽やか彩度キンキンという写真を撮っていたとしても、何年経っても他人の評価がついてこなくても、人に迷惑をかけないなら自分の主義は貫いた方がいい。なぜなら、そのささやかでくだらない拘りこそが、自身のアイデンティティだからだ。
嫌われたくないないから断れない、という傾向は子供や平社員だけでなく会社や日本のトップまでもそういう雰囲気が漂っているので本当に困ったものだ。子供は決して「仕事だから仕方ない」という父親やママ友の誘いを断れないママの言うことを信用してはいけない。主義や主張を持たない大人に囲まれて生きていたら、子供は将来自主性を持った大人にはなれないだろう。力を持たない子供と力を持たない大人は、幸福感も充実感も安心感も環境に100%依存する。環境に主義がなく、自分にすら主義がなかったら、つまりそれはすべてにおいて「何でもいいしどーでもいい」ということだ。それでも、悲観する必要はない。違和感に気づいたら全力で拒絶し、そこから逃げ出せはいいのだ。
このページの撮影機材
SONY
α7S(ILCE-7S)
CANON
100mm F3.5 Ⅱ
Voigtlander
SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Ⅲ
MINOLTA
M-Rokkor 40mm F2
Hawks Factory
Adapter
-
写真集「BLUE heels」
¥1,100 -
写真集「Nostalgia」
¥1,100 -
写真集「植物美術館」
¥1,100 -
写真集「花美 1」
¥1,100 -
写真集「花美 2」
¥1,100 -
写真集「花美 3」
¥1,100
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lens
- LEICA Summicron 50mm F2 1st Collapsible
- Thypoch Eureka 50mm F2
- MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8
- MINOLTA M-Rokkor 40mm F2
- MINOLTA MD Rokkor 50mm F1.4
- Voigtlander SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Ⅲ
- Voigtlander COLOR-SKOPAR Vintage Line 21mm F3.5
- Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ MC
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 SC
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 E-mount
- Voigtlander NOKTON Classic 40mm F1.4 SC
- Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC
- Voigtlander APO-SKOPAR 90mm F2.8
- PENTAX Super Takumar 50mm F1.4
- PENTAX Super Takumar 55mm F1.8
- PENTAX SMC Takumar 200mm F4
- Nikon Nikkor-H Auto 50mm f2
- Nikon Ai Micro-Nikkor 55mm f/2.8S
- CANON 50mm F1.8 Ⅱ
- CANON 100mm F3.5 Ⅱ
- ZEISS Planar T*2/50 ZM
- GIZMON Wtulens 17mm F16
- OLYMPUS M.ZUIKO 12mm F2.0
- OLYMPUS M.ZUIKO 25mm F1.8
- OLYMPUS M.ZUIKO 40-150mm F4.0-5.6R
- LUMIX G VARIO 100-300mm F4.0-5.6 Ⅱ
- All Photograph