NOKTON F1.5と50mmを巡る旅

2022.04.13PHOTOGRAPH and WOLF

50mmという焦点距離は多くの人が好きな画角だと思う。気づけば僕もにも5本の50mmレンズが手元にある。沈胴式のライカズミクロン、55mmのスーパータクマーとニコン、ミノルタMDロッコールと最近加わったノクトンビンテージラインだ。沈胴ズミクロンとタクマーはオールドレンズの定番と言えるレンズで、持っている人も多いのではないだろうか。この2つはコントラストが低く、フレアも出やすい。ミノルタはある意味しっかりした頼れる描写、ニコンはさらに頼れる印象だ。頼れると言ったってそれなりに古いレンズなので、現代的なレンズよりも有機的な崩れがあって面白い。それぞれにマウントが異なり、各レンズに対応したアダプターを使ってカメラに取り付ける。小さくて描写のいいライカMマウントのレンズを好きで使っているが、M型ライカを使うつもりがないなら、一眼レフ用のレンズを使った方が理にかなっているのかもしれない。先日M11で試写して改めて「MレンズはM型ライカで使うのが一番いい」という事実を痛感した。当たり前と言えばそうだが、フランジバッグが短くレンズから急角度で入ってくる光にセンセーが対応しているためか、M型ライカで撮った写真は周辺部分が流れず「しっかり」しているのだ。M型ライカは値段が高くて少々不便なカメラだが、Mレンズが好きなら1台は必ず持っていた方が良さそうだ。発売したばかりのM11が製品として落ち着いてきたら、3年ぶりにM型ライカに戻ろうと考えている。

Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II は2020年に発売されたコシナのレンズだ。中古の状態を気にせず買えるコシナのレンズは、マニュアルレンズ好きの写真撮りにとって実に有り難い存在だ。同じコシナのアポランター、ライカの現行ズミクロン、この辺のレンズで散々迷ってノクトンに決めた。50mmは35mmと同じく汎用性の高い標準レンズだ。だからこそ、描写の「幅」に期待したい。ノクトン50mmF1.5はいい塩梅に応えてくれる、そう思った。スタイリングは人気のある真鍮やシルバーではなく、α7Sに合う理由でブラックにした。ペンタプリズムの形を踏襲した一眼レフスタイルのカメラには、どう考えてもシルバーのレンズは似合わないと思っている。もちろん、MレンズはM型ライカとの組み合わせの方がベストなのは言うまでもない。

SONY α7S / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

SONY α7S / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

SONY α7S / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

絞りを開いたり絞ったり、近くを撮ったり遠景を撮ったり。レンズの癖を確認しつつ、道具を手に馴染ませる。レンジファインダー用のレンズは、最短から無限遠までヘリコイドの回転が少なくて済むのでピント合わせの機動性がいい。このレンズだと約90度で最短から無限遠を行き来できる。70cmより近づいて撮りたいときはヘリコイド付アダプター、接写リング、クローズアップレンズを組み合わて撮影する。マクロ撮影のオペレーションは少々面倒だが、そもそもマニュアルレンズ自体が面倒な代物なのだ。面倒なことよりも楽しさが上回れば、少々の手間は気にならなくなる。そしてどういうわけかマニュアルレンズばかり使っていると、オートフォーカスのレンズには「戻れなくなってしまう」のだ。

SONY α7S / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

SONY α7S / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

SONY α7S / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

SONY α7S / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

SONY α7S / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

SONY α7S / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

SONY α7S / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

手を触れれば崩れてしまいそうな開放近くの危うい感じ、絞りを絞ったときの安定感。ノクトン50mmF1.5はどことなくノクトンクラシック35mmとニュアンスが似ていると思った。開放の描写はかなりファジーで、そこは好みが分かれるところだろう。1つ絞ったF2の描写はとてもいい。ノクトンクラシック35mmでは人を撮るとき以外は大抵絞って撮影するが、このレンズの場合は遠景をF2で撮るのも悪くない気がする。開放近くでも絞った場合でも、撮影して感じたのは「繊細」という印象だ。

SONY α7S / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

SONY α7S / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

SONY α7S / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

SONY α7S / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

SONY α7S / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

50mmレンズは奥深い。ノクトン50mmF1.5はなかなかいいキャラクターのレンズだが、良くも悪くも「これ一択」とは思えない。他の4本も充分に魅力的なレンズだが、ノクトンクラシック35mm、Mロッコール28mm、カラースコパー21mm、スーパーワイドヘリアー15mmのように「この焦点距離はこのレンズで決まり」という風にも思えない。50mmレンズについては選択肢が多いこともあるし、こちらの思い入れが少々過剰で「色々試してみたい欲」が途切れないのかもしれない。50mmと35mm、いわゆる標準レンズと呼ばれるレンズに関しては、同じような思いを抱いている人も多いのではないか。欲を言えばスタイリングは沈胴ズミクロンで、描写性能が現行のズミクロンだったら…、なんてことを願ってもそれは無理な話で、あーでもないこーでもないと頭の中でブツブツ言いながら50mmを巡る旅はまだまだ続いていくのである。

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