「P」「S」「A」モードの疑問
2024.06.01PHOTOGRAPH and WOLF世の中には不思議なことが沢山ある。コレって何でここにあるの?とか、コレって本当に必要なの?とか、様々な疑問がそこら中にあるのが世の中である。例えば、ほとんどのカメラについている「P」と「S」と「A」の撮影モードもその1つで、なぜこれが当たり前のようにカメラについているのか理解できない。職業カメラマンやハイアマチュアが使う高額なカメラで、目立つ位置に堂々と「P」と「S」と「A」モードの切り替えが配置されていると残念な気持ちになるのは僕だけだろうか。はっきり言ってこれらのモードは必要ない。
露出やボケを自分でコントロールしない人が使うのが「P」モードだ。スマホのように何も考えずにパシャっと撮る初心者のための撮影モードと言われている。絞りとシャッタースピードの組み合わせをカメラが判断するので、その組み合わせを選ぶだけでいい。だが絞り値を自分で選びだしたら「A」モードと機能が重複する。だから初心者であっても「P」モードは必要ない。カメラメーカーが初心者に配慮するなら、とにかく自分では何も設定しないで撮れる「AUTO」を用意すべきだ。
「S」はシャッタースピードを優先して撮影するモードだ。シャッタースピードを速くして速く動くものをブラさずに撮影したい場合や、逆にシャッタースピードを遅くして幻想的な写真を撮る場合に使うモードらしい。シャッタースピードを自分で設定し、カメラが自動的に絞り値を決定する。シャッタースピードは自分で設定したい、組み合わせる絞り値は何でもいい、というモードだ。ん??絞り値は何でもいい?そんなヤツいるのか?被写界深度なんて何でもいい、そんな写真撮りなんてどこを探せばいるのだろうか?最近ではセンサーの高感度耐性が向上してきたので、ISOは高すぎなければ何でもいいという考え方はあるかもしれないが、絞り値をカメラ任せにするのはあり得ない。
「A」は自分で絞り値を設定して、カメラがシャッタースピードを自動で決定するモード。おそらく最も多くの人が使うモードじゃないかなと思う。明るい屋外で写真を撮る場合に、僕もシャッタースピードをAUTO(自動)にすることが多い。「絞り優先モード」と言うと何となく絞りについてのモードのような気になってしまうが、実際には絞りをどうするか?ということではなく「シャッタースピードをAUTOにする」というモードなのだ。つまりシャッタースピードの話である。だから本来はシャッタースピードを決定するパートで「AUTO」の選択があるべきだ。シャッタースピードのダイヤルや画面上の選択肢に「AUTO」があれば、「Aモード」といった撮影モードは不要である。
シャッタースピードは何だっていい、という場面は多い。だが本当に何だっていいかと言えばそうではなくて、実際には手ブレや被写体ブレが起こらないスピードなら「何だっていい」ということになる。人を撮るなら「1/125以下だったら何でもいい」、風のある日の屋外で花を撮るなら「1/1000以下だったら何でもいい」といった具合だ。シャッタースピードをAUTOにした場合には、露出補正ダイヤルが活躍する。適正値よりも明るくしたい、暗くしたいといった場合に露出補正ダイヤルで調整する。「M(マニュアル)モード」で撮影するなら自分でシャッタースピードを制御するので露出補正ダイヤルは必要ない。ミラーレスのEVFで露出は確認できるから「M」モードの方が手っ取り早いと考える人も多い。
何だかんだと沢山写真を撮っていると、ぼかしたい、ぼかしたくない、止めたい、流したい、明るくしたい、暗くしたいとマニュアル志向になってくる。誰でもボチッとすれば撮れるスマートフォンでさえ、擬似的であってもボケ(絞り)を重視したものになっているのが現状だ。いったい誰のだめに「P」と「S」と「A」のモードがあるのか理解に苦しむ。これらのモードがカメラに登場したのは露出計がカメラに内蔵されたフィルム時代のことで、その慣習をいまだに意味もなく引きずっているようにも思える。適正露出さえ得られれば、被写界深度なんか何でもいいというレベルの頃の慣習である。
最近使っているNikon Zfにも、残念なことに「P」と「S」と「A」のモードがある。親切に初心者向けの「AUTO」モードまであったりするが、27万円もするこの重たいカメラを「AUTO」モードで使う人なんて、1人でもいるのだろうか?評価の高いレトロなシャッタースピードダイヤルは、ファインダーを覗くことなく瞬時に設定を変えられる便利なダイヤルだが、このダイヤルにはシャッタースピードをAUTOにする機能がない。シャッタースピードをAUTOにするためには、撮影モードを「A」に切り替えないといけない。ISOダイヤルも同様でAUTOにする機能がない。ISOをAUTOにするためには、ダイヤルではなくメニュー画面から設定しないといけない。せっかく物理ダイヤルがあるのに、そこで完結しない仕様なのだ。シャッタースピードをAUTOにしたり任意にしたりする際には、いまのところ撮影モードの「M」と「A」を切り替えるという使い方で対応しているが、Nikon Zfのようなカメラの場合は補正ダイヤルを使わずに、ISOとシャッタースピードのダイヤルを使って自分で露出を設定した方がイライラしないで済むのかもしれない。ライカをモノマネしたFUJIFILMのProシリーズ、Eシリーズのシャッタースピードダイヤルは「AUTO」に設定できるのでとても使いやすい。というか、それが当然なのでは?と思うのは僕だけだろうか。長時間露光しない限りISOを都度設定する必要はないので、個人的にはISOダイヤルがなくても一向に構わない。
半日以上カメラをぶら下げて歩いていると、カメラの重さが結構堪える。いまでは中古品が定価の倍額以上になってしまったFUJIFILM X-E4を、試しにレンタルして使ってみたら予想以上に快適だった。小さくて軽いくせに、1/32000のシャッタースピードが出せることも実に頼もしい。評判のいいフィルムシュミレーションは僕には必要ないが、わりと絞り気味に撮って現像ではあえてフィルムのように粒子を入れて画質を落としてみるのもいいかもしれない。そしてコンパクトさと同様にありがたいのは、「AUTO」を含むシャッターダイヤルである。
FUJIFILMのカメラは写真撮りにとってはなかなかいいカメラだし、FUJIFILMがいつかフルサイズのカメラをつくってくれるんじゃないかと期待しているのは僕だけじゃないだろう。FUJIFILM全体の業績は好調に見えるがカメラの売上は5%ほどで、最近のやや迷走しているようにも思える動向を見ていると、今後どうなっていくのか予想がつかない。デジタルカメラが20年くらい使える耐久性があるなら気にする必要はないが、いつかは調子が悪くなって買い替えないといけない消耗品なので、自分に合ったカメラとメーカーを選ぶのは悩ましいところだ。
「P」と「S」と「A」のモードについて、脳みそが現役を退いた年寄りならまだしも、頭の回転の速い若い人なら必ず疑問に思うはずだ。だが、カメラメーカーにいる100人に1人の優秀な若者が「コレってマジ必要ないっスよね」と上司に進言しても、その貴重な意思は黙殺されるだろう。なぜなら、40代50代60代のオジオバにとって慣習を変えることは「億劫」でしかないからだ。いいでしょ今のままで、という弱すぎる動機がまかり通って世の中の「?」は継続していく。そういう風潮を眺めていると、政治も経済もうまくいかないことの理由に「年寄りがいつまでも決定権を持っている」というのがある、そう思えてならない。「初心者に配慮した」とか「誰でも簡単に」という理由でこのモードがあり続けているなら、それも間違っている気がする。「誰でも簡単に」ということならスマホやアクションカメラの方が向いているし、デジタルカメラで絞りやシャッタースピードを自分でコントロールすることは、決して「難しい」ことではない。例えば初めてピアノを触って1曲弾けるようになることと比べたら、遥かに「簡単」なことなのだ。
カメラについての素朴な疑問は尽きない。現在世にあるカメラはどれも一長一短で、何かしら我慢をしながら使い続けなければならない。写真用カメラのフォーマットで必要以上に映像機能を追いかけて写真が撮りにくいカメラにしてほしくないし、パソコンでできることをカメラに詰め込んだ結果、中途半端で完成度の低いカメラを発売して欲しくない。今はもう必要のない機能はとっとと排除して欲しい。と、まぁ、とりとめもなくブツクサ言いたくなるのである。
このページの撮影機材
Nikon Zf
LEICA
Summicron 50mm F2.0 Collapsible
Voigtlander
SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Ⅲ
Voigtlander
ULTRON Vintage Line 35mm F2 Aspherical
PENTAX
Super Takumar 50mm F1.4
FUJIFILM
X-E4
-
写真集「BLUE heels」
¥1,100 -
写真集「Nostalgia」
¥1,100 -
写真集「植物美術館」
¥1,100 -
写真集「花美 1」
¥1,100 -
写真集「花美 2」
¥1,100 -
写真集「花美 3」
¥1,100
column
- 2024.10.30レンジファインダーとの和解
- 2024.10.10黒潰れと白飛びの世界
- 2024.09.06モノクロ写真の追求
- 2024.07.23身軽なハンター Eureka 50mm
- 2024.06.28記録の写真
- 2024.06.01「P」「S」「A」モードの疑問
- 2024.05.11言葉にできない写真
- 2024.03.28強い者たちの正義
- 2024.02.25少数派に優しい Nikon Zf
- 2024.02.0135mm 凡庸者の可能性
- 2023.12.20それをする意味
- 2023.12.15テクノロジーと人の関係
- 2023.11.06Super Takumar 50mm F1.4
- 2023.09.03クソ野郎が撮る写真
- 2023.06.22花を撮る理由
- 2023.05.10写楽の日々
- 2023.03.21楽しい中望遠 APO-SKOPAR 90mm
- 2023.02.09太陽を撮る快楽
- 2023.01.13行ったり来たりの軌跡
- 2022.11.22タスクの向こうに幸福はない
- 2022.11.03LEICA M11の馬鹿ヤロウ
- 2022.09.20狙い通りに的を射る
- 2022.08.13LEICA M11と10本のレンズ
- 2022.07.08人知れず開催される「植物美術館」
- 2022.06.18日本人の遺伝子と「茶の道」
- 2022.06.07LEICA M11
- 2022.05.16写真の構図
- 2022.04.13NOKTON F1.5と50mmを巡る旅
- 2022.03.17脳とモラルのアップデート
- 2022.03.08海へ
- 2022.02.28世界の大きさと写真の世界
- 2022.01.29写真集をつくる
- 2021.12.31フィルム撮影の刺激
- 2021.11.29絞って撮るNokton Classic 35mm
- 2021.10.27時代遅れのロックンロール
- 2021.09.23雨モノクロ沈胴ズミクロン
- 2021.09.13拒絶する男
- 2021.08.22過去からのコンタクト
- 2021.07.26スポーツと音楽と写真
- 2021.07.19マイクロフォーサーズの魅力 2021
- 2021.06.24小さきもの
- 2021.05.26現実と絵画の間に
- 2021.05.11脳と体で撮る写真
- 2021.04.26理解不能なメッセージ
- 2021.04.03とっておく意味
- 2021.03.11モノクロで自由になる感性
- 2021.03.04もう恋なんてしない
- 2021.02.19ギリキリでスレスレへの挑戦
- 2021.02.09人間は動物よりも優れた生きものか?
- 2021.01.18写真の中のハーモニー
- 2020.12.24遠くへ
- 2020.12.11モノクロの世界と15mm
- 2020.11.06現像の愉しみ
- 2020.10.15ずっと使えそうなカメラ SONY α7S
- 2020.09.21写スンです GIZMON 17mm
- 2020.09.01矛盾ハンター
- 2020.07.29朽ちていくもの
- 2020.07.23花とペンズミ中毒
- 2020.07.15無駄に思えるプロセスは報われる
- 2020.06.24ズミタクマクロ
- 2020.06.19森へ
- 2020.05.25大人の夜の快楽
- 2020.05.04見直しと修正の日々
- 2020.04.13AM5:00の光と濃厚接触
- 2020.03.24何だってよくない人のPEN-F
- 2020.03.05濃紺への憧れ
- 2020.02.20NOKTON Classic 35mmとの再会
- 2020.02.15写真に写るのは事実か虚構か
- 2020.01.22流すか止めるか
- 2020.01.17ローコントラストの心情
- 2019.12.19後悔と懺悔の生きもの
- 2019.12.10飽きないものはない
- 2019.11.15小さな巨人 X100F
- 2019.10.24F8のキャパシティ
- 2019.10.05愛せる欠点とM-Rokkor40mm
- 2019.09.23植物採集の日々
- 2019.09.0263歳のキヤノン50mm
- 2019.08.22それは いい写真か悪い写真か
- 2019.08.14近くから遠くへ
- 2019.07.29雨を愛せる人になりたい
- 2019.07.081度しか味わえないその時間
- 2019.06.2465年前の古くないデザイン 1stズミクロン
- 2019.06.12街のデザインとスナップ写真
- 2019.05.15空の青 思い描く青空
- 2019.05.03近くに寄りたい欲求
- 2019.04.24変わらないフォーマット
- 2019.04.13常識と非常識の選択
- 2019.04.03ノーファインダーの快楽
- 2019.03.21ライカのデザイン
- 2019.02.26飽きないものの価値
- 2019.01.30NOKTON Classic 35mm
- 2019.01.17光と影のロジック
- 2019.01.01終わりに思う 始まりに思う
- 2018.12.17Takumarという名の友人
- 2018.12.06普通コンプレックス
- 2018.11.30季節を愛でる暮らし
- 2018.11.27失敗しない安全な道
- 2018.11.09終わりのない旅
- 2018.11.01M-Rokkor 28mmの底力
- 2018.10.19M-Rokkor 28mmの逆襲
- 2018.10.05焦点と非焦点
- 2018.09.26夜の撮影 α7R2 vs PEN-F
- 2018.09.18いま住んでいる場所が終の棲家になる
- 2018.09.10強烈な陽射しと夏のハラスメント
- 2018.08.30現役とリタイアの分岐点
- 2018.08.21過去との距離感
- 2018.07.10本来の姿とそこから見える景色
- 2018.06.16花の誘惑 無口な美人
- 2018.05.15欲望の建築とジェラシー
- 2018.04.14朝にしかないもの
- 2018.03.28過去の自分を裏切って何が悪い
- 2018.03.18夫婦とか家族とか
- 2018.03.01固定概念から自由になるための礎
- 2018.02.15ディテールを殺した写真
- 2018.02.07劣化することは悪いことだろうか?
- 2018.02.03マイクロフォーサーズの魅力
- 2017.12.27日本人は写真が好きな人種だと思う
lens
- LEICA Summicron 50mm F2 1st Collapsible
- Thypoch Eureka 50mm F2
- MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8
- MINOLTA M-Rokkor 40mm F2
- MINOLTA MD Rokkor 50mm F1.4
- Voigtlander SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Ⅲ
- Voigtlander COLOR-SKOPAR Vintage Line 21mm F3.5
- Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ MC
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 SC
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 E-mount
- Voigtlander NOKTON Classic 40mm F1.4 SC
- Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC
- Voigtlander APO-SKOPAR 90mm F2.8
- PENTAX Super Takumar 50mm F1.4
- PENTAX Super Takumar 55mm F1.8
- PENTAX SMC Takumar 200mm F4
- Nikon Nikkor-H Auto 50mm f2
- Nikon Ai Micro-Nikkor 55mm f/2.8S
- CANON 50mm F1.8 Ⅱ
- CANON 100mm F3.5 Ⅱ
- ZEISS Planar T*2/50 ZM
- GIZMON Wtulens 17mm F16
- OLYMPUS M.ZUIKO 12mm F2.0
- OLYMPUS M.ZUIKO 25mm F1.8
- OLYMPUS M.ZUIKO 40-150mm F4.0-5.6R
- LUMIX G VARIO 100-300mm F4.0-5.6 Ⅱ
- All Photograph