過去からのコンタクト
2021.08.22PHOTOGRAPH and WOLF何だよ?どういう意味なんだよ?という夢を見ることがある。先日見た夢は、何者かがあらゆる手をつくして僕のささやかな過去の過ちを暴露したり破滅させようとするサスペンスものだった。事件になるほどの犯罪は犯していない。だが、指を折って数えることのできないほど人を傷つけてきた憶えはある。つまり、心当たりがあるのだ。夢の中で裏で手を引いている真犯人の電話番号をつきとめ、番号をコールすると電話に出たのは半年ほど同棲したことのある昔の彼女だった。「25年以上経った今でも諦められなかった」と主張する彼女に、オタオタしながら何とか収めようと考えを巡らせているところで目が覚めた。こういう何だかよくわからない夢を見てしまうのは、アマゾンのプライムビデオで映画やドラマをやたらめったら観ている影響が否めない。変な夢を見たせいで、20代前半の淡い記憶が蘇った。しかしそれは、いくら思い出そうとしても明確な輪郭を持たない淡く頼りない記憶だった。
何でもかんでもすぐに忘れてしまう。若い頃から忘れっぽい、と言えば何となく言い訳として成立しそうだが、この性格的な忘れやすさにそのうちやって来る老化による痴呆が加わるといったいこの先どうなってしまうのか少々不安だ。食べた後に食べてないと激怒する老人にはなりたくない。映画は劇場、レンタル、サブスクでかなりの本数を観てきたので、タイトルどころか観たことすら憶えていないことも多い。これは面白そうだと思って観る映画の後半になって「あれ?観たことあるな」と気づく。観たことを忘れ。既に観た映画をはじめて観るかのごとく新鮮な気持ちで楽しめるのだから「2度美味しい」とも言えなくもないが、すぐに忘れてしまうというのもそれなりに厄介だ。コロナ渦で観る映画の本数も増えていく。最近は貧弱な自分の記憶に頼ることはやめて、観た映画のタイトルをメモしておくことにしている。
カメラをぶら下げて「いいな」と思ったものを写真に撮る。何年も繰り返し歩いている場所で写真を撮っていると、何度も何度も同じものを撮っていたことに気づく。あれ?前にも撮ったよな、と思うものの、数年前の感受性と大して変わらぬ今の感受性が「つべこべ言わずに撮っちゃえよ」と囁きかけてきてシャッターを切る。撮りたいと思ったら何度でも好きなだけ撮ればいいのだ。同じものを撮っても違うものが写る。使ったレンズが違う、光のコンディションが違う、そういうことを差し引いても違った写真になるのは、撮った本人が微妙に異なるからだ。経験や感性は考え方に反映されて、写真では特に現像に違いが出る。しばらく前に撮ったものと最近撮ったものを比べると、むむっ上手くなったんじゃない?ということもあるし、あれ?前の方がはるかにいいんじゃない?ということもある。そのどちらでもなく、何も変わんないね…という何ともビミョーな自己評価になることもある。ずっと撮り続けてるんだから、本当は自分の成長を感じたい。だが、大して変わってないね、というのも現実である。それで落胆する必要はない。変わらないことは決して悪いことではないからだ。
20代から30代の間、自分が持っていないものを躍起になって追いかけた時期があった。自分が変わっていくことが成長することだと思っていた頃だ。そういう時期に身につけたもの、得たものは大きい。キリスト教の聖書に「乾いている人は幸せだ。そういう人はいつか満たされるだろう。」という言葉がある。自分にないものを欲する心は、行動の原動力になる。持っていないものを求める貪欲な心がなくては、成長などありえない。ただ、死ぬまでずっと成長を求めて走り続ける人生は、はたして幸福だろうか?持っているものでは満たされない、それは寂しい人生ではないだろうか。
このサイトは写真好きの人やたまたま迷い込んでしまった人で予想以上に多くの人に見ていただいているようで、時折ファンレターのようなお問い合わせをいただく。ジジイの戯言と写真が誰かの役に立つことがあるなんて恐縮だし光栄だ。とは言え、このサイトは自分のためにも役立っている。目的の1つに「自分が撮った写真のアーカイブ」というのがあって、それは大いに役に立っている。僕のように記憶力ってどこで売ってるんですか?うへへへアッパラパーというノータリン人生を謳歌している人間にとって、すぐに忘れてしまう自身の軌跡をどこかにまとめておくことは重要なのだ。Flickrのような共有サイトで写真を整理することも考えたが、他人がつくったものは自分の都合のいいように整理できないので自分でつくることにした。数年前に撮った写真を公開したままにしておくなんて少々こっ恥ずかしい気持ちもあるが、撮った写真を人知れずハードディスクに蓄積するより外に出してしまった方が健康的だと考えたのだ。過去のアーカイブを時々見直すと思わぬ発見がある。SNSで人の写真を見ることは刺激になっていいが、自分の過去を改めて見ることも違った意味で刺激をくれる。前の方がすげえいいとか、ほとんど成長ないねとか、いずれにしろ過去の軌跡が語ってくるのだ。
このページの撮影機材
LEICA M(Typ240)
SONY
α7S(ILCE-7S)
CANON
100mm F3.5 Ⅱ
Voigtlander
NOKTON Classic 35mm F1.4 SC
MINOLTA
M-Rokkor 28mm F2.8
MINOLTA
M-Rokkor 40mm F2
Hawks Factory
Adapter
-
写真集「BLUE heels」
¥1,100 -
写真集「Nostalgia」
¥1,100 -
写真集「植物美術館」
¥1,100 -
写真集「花美 1」
¥1,100 -
写真集「花美 2」
¥1,100 -
写真集「花美 3」
¥1,100
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- 2019.05.03近くに寄りたい欲求
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- 2019.04.13常識と非常識の選択
- 2019.04.03ノーファインダーの快楽
- 2019.03.21ライカのデザイン
- 2019.02.26飽きないものの価値
- 2019.01.30NOKTON Classic 35mm
- 2019.01.17光と影のロジック
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- 2018.07.10本来の姿とそこから見える景色
- 2018.06.16花の誘惑 無口な美人
- 2018.05.15欲望の建築とジェラシー
- 2018.04.14朝にしかないもの
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- 2018.03.18夫婦とか家族とか
- 2018.03.01固定概念から自由になるための礎
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- 2018.02.07劣化することは悪いことだろうか?
- 2018.02.03マイクロフォーサーズの魅力
- 2017.12.27日本人は写真が好きな人種だと思う
lens
- LEICA Summicron 50mm F2 1st Collapsible
- Thypoch Eureka 50mm F2
- MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8
- MINOLTA M-Rokkor 40mm F2
- MINOLTA MD Rokkor 50mm F1.4
- Voigtlander SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Ⅲ
- Voigtlander COLOR-SKOPAR Vintage Line 21mm F3.5
- Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ MC
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 SC
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 E-mount
- Voigtlander NOKTON Classic 40mm F1.4 SC
- Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC
- Voigtlander APO-SKOPAR 90mm F2.8
- PENTAX Super Takumar 50mm F1.4
- PENTAX Super Takumar 55mm F1.8
- PENTAX SMC Takumar 200mm F4
- Nikon Nikkor-H Auto 50mm f2
- Nikon Ai Micro-Nikkor 55mm f/2.8S
- CANON 50mm F1.8 Ⅱ
- CANON 100mm F3.5 Ⅱ
- ZEISS Planar T*2/50 ZM
- GIZMON Wtulens 17mm F16
- OLYMPUS M.ZUIKO 12mm F2.0
- OLYMPUS M.ZUIKO 25mm F1.8
- OLYMPUS M.ZUIKO 40-150mm F4.0-5.6R
- LUMIX G VARIO 100-300mm F4.0-5.6 Ⅱ
- All Photograph