レンジファインダーとの和解

2024.10.30PHOTOGRAPH and WOLF

LEICA M11 / Thypoch Eureka 50mm F2

LEICA M11を使いだして2年以上が過ぎた。何かとイチイチ厄介なカメラではあるが、僕が使ってきたカメラの中では今のところ最も自分に合っているカメラであることは間違いない。発売後に手に入れたものは初期不良として返品したり、エラーが頻発してメンテナンスに出したり、合わせて買ったビゾフレックスも何度か不具合があって交換したりと、とにかく「安定」とは程遠いカメラである。ファームウェアのアップデートでも致命的な不調が改善されることはなかったが、10月にリリースされたvar.2.1.3でようやく安定したカメラになってきた。とは言え、オン・オフを素早く往復するとフリーズするし、相変わらず起動は遅く、シャッターレスポンスもお世辞にもいいとは言えないので、すべての人が幸せになる機材とは言えないだろう。

LEICA M11 / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

LEICA M11 / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

人の話を聞いたりWEB上で言われている「個人の感想」をまとめると、M型ライカの評価はレンジファインダーで語られることが多い。レンジファインダーの評価はアナログ時代とデジタル時代では少し異なる。フィルムを使っていた一眼レフ前後の時代ではピント精度の高さが、EVFやオートフォースが主流の現在では撮影体験やイマジネーションの入口としての要素が評価につながっている。また、ブランドのもつ歴史や価格の高さから「いいもの」として認識されているある種の幻想も侮れない。色味や絵作りでライカが評価されることも多いが、それはデジタル現像の技術を持たない人の話である。賛否両論あるM型ライカではあるが、レンジファインダーというアナログ部分を持ちつつBluetoothやUSB-C充電も機能する稀有なデジタルカメラであり、その不可思議な存在が多くの人を魅了しているのは間違いない。

僕自身はレンジファインダーをそこまで評価している写真撮りではない。カメラの形状、つまりデザインを評価してM型ライカを使っているので、もしEVF版M型ライカがリリースされれば尻尾を振って飛びつくだろう。まぁ、でも、そういう未来はあまり期待できない。巷で噂されているハイブリッドEVFファインダーがもしM型ライカに搭載されたら、何だかんだと新たな不具合が生まれてエラーが頻発しそうだ。それはそれで困るのである。M11はとてもいいカメラであることは間違いないが、とにかく安定性が低くて僕をイライラさせた。1枚だけ撮ったいい感じの写真のデータが損傷していて現像できなかったり、フリーズしてシャッターチャンスを逃してしまったりと国産カメラではありえないケースの連続なのだ。プロでもアマでも道具としての必須条件は「頼りになる」ことだ。信頼を裏切らないこと。どんな状況下でもちゃんと撮れること。そういう当たり前のことを当たり前にやってくれさえすればいい。残念ながらデジタルライカは、そういうベーシックな品質がとても低い。M11の不安定さの原因は何なのか、SDカードなのか、レンズのプロファイル設定なのか。肌感覚ではあるがレンジファインダーではなく外付けEVFのビゾフレックスを使ったときに不安定になる気がしていて、最近はEVFを完全に使わなくなってしまった。レンジファインダーは近距離での視差があるし、撮った後にいちいち背面液晶で確認するという手間があるが、EVFを使ってフリーズやエラーを心配して撮影するよりマシだ。

LEICA M11 / Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

LEICA M11 / Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

レンジファインダーを積極的に使い出してから気づいたことがある。それは昼間にストロボを使う際に便利だということ。レンジファインダーには露出が反映されないので、ストロボが発光した瞬間を想定して露出をアンダーに設定するEVFよりもある意味使い勝手がいい。ストロボを固定せず手持ちで光が当たる位置を探りながら写真を撮る。右手にカメラ、左手にストロボというワイルドでやんちゃな撮影方法では、レンジファインダーが結構役に立つ。

LEICA M11 / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

LEICA M11 / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

LEICA M11 / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

LEICA M11 / Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

そしてEVFを凝視するスタイルより、レンジファインダーと背面液晶でピントをざっくり決めて撮る方が目が疲れない。EVFと違ってレンジファインダーは露出や色味やフレーミングを、正確にコントロールすることはできない。背面液晶も同じだ。ファインダーや液晶を凝視したところでザックリとしたことしか確認できないから、ファインダーをしっかり見るのをやめてしまうのである。細かいフレーミングは現像のときにやればいいや、露出も後で調整すりゃいいか、ちゃんと写ってるかどうかわからないから沢山撮っとくか、という感じにテキトーに撮っていたら目は疲れない。

実は商業カメラマン場合、フレーミングの能力が低くても大して問題にはならない。なぜならポスターやWEBで写真が使われる際には、デザイナーがトリミングして使うからだ。デザイナーにとって使いにくい写真はカメラマンがフレーミングをしっかり決め込んだ写真で、そういう写真だと様々な場面でレイアウトしにくい。だから撮影時には、広めに撮っておいてね、余白を多めに取っておいてね、とオーダーしておくのである。しかし、趣味の写真の場合では、商業写真のように何かに使われる「素材」ではないので、1枚の写真としてしっかりフレーミングして仕上げたい。フレーミングは自分らしく世界を「切り取る」重要な要素だ。その点で言うとレンジファインダーは立場が弱い。なぜなら正確なフレーミングができないからだ。レンジファインダーで撮った人の写真に「雑」なものが多いのもその辺に理由がある気がする。

LEICA M11 / Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

LEICA M11 / Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

LEICA M11 / Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

LEICA M11 / Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

LEICA M11 / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

LEICA M11 / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

LEICA M11 / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

いずれにせよ、レンジファインダーとうまく付き合うには、割り切りと達観した考え方が必要だ。ファインダーの中は撮影結果ではなく大まかなガイドに過ぎないので、頭の中のイメージで撮って液晶画面で確認するというプロセスになる。少し広めに撮っておいて細かなフレーミングはパソコンでする。失敗もあるので数多くシャッターを切る。という感じで割り切ってしまえば、ある意味EVFで撮影するよりも楽に撮れることになる。M型ライカとレンジファインダーを使うのは何だかわざわざ昔に逆戻りしているようで、それはデジタルが進化を続ける現代にわざわざ性能の低いオールドレンズを好んで使うのとよく似ている。視力が落ちて1度は断念したレンジファインダーだったが、バカみたいにたくさん写真を撮ってきて、こう撮ればああ、ああ撮ればこうというのが体に染み込んできた今日この頃、ようやくレンジファインダーという大雑把な機能に寛容になれるようになってきた。

LEICA M11 / Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

LEICA M11 / Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

カメラで写真を撮る人には、カメラが好きな人と写真を撮るのが好きな人がいるようだ。僕の場合、圧倒的に後者なので心のどこかでカメラは何でもいいと思ってはいるが、自分の気に入るカメラがほとんどない、というのが困った現実である。M型カメラのデザインは、ほぼパーフェクトだ。最低限の操作系、側面の丸み、サイズ、どれをとっても不満はない。つまり使い心地のいいデザインということだ。EVFよりもレンジファインダーの方が優れているとはお世辞にも言えないが、最近はレンジファインダーと仲良く過ごせるようになってきた。自分自身の体と脳が衰えて、いままで許せなかったものに寛容になってきたということだろうか。硬くて重そうな写真を撮るのが好みだったが、今は自作したミストフィルターを使ってノスタルジックな風合いのテイストに夢中になっている。良くも悪くも、人はそうやって変わっていくのである。

写真集販売PHOTOBOOK WOLF