小さきもの
2021.06.24PHOTOGRAPH and WOLF小さいものが大きいものを動かす。そういう考え方や奇跡が好きだ。本来なら小さいものを動かせるのは同じく小さいもので、大きいものを動かすためには相応に大きな力が必要だ。しかし、世の中というのは不思議なもので、アリのように小さな生き物が体の何倍もの大きさの草を軽々と持ち上げてしまったり、柔らかい水滴が石のような堅いものに風穴をあけてしまったりするのだ。小さいものが大きいものを動かす、そういうストーリーが好きなのは、幼い頃に観た映画やアニメにすっかり洗脳されたからだ。ヒーローものは大抵、たった1人で大きな組織を倒したり、非力な男が世界を変えたりする話が多い。大人がつくったわかりやすい作り話を見続けて、弱きが強きを倒す的なストーリーを「かっこいい」と思ってしまうのだ。幼い頃の刷り込みは大人になってからも案外抜けない。大企業に就職して会社の看板でヌルっと仕事をするよりも、名もなきクリエイターとして世の中をちょっとだけ変える道を選んだ。小さいもので大きいことを…というのを無意識に求めるのは、体格の小さな日本人の中でも更に小さな体格で生まれたこともあるのかもしれない。小さいのにスゴイね、立派だね、そう言われたいだけなのかもしれない。
写真を熱心に撮りだして単焦点レンズに魅了され、小さなレンズがあることを知る。ライカマウント(オートフォーカスのLマウントではない)のレンズたちだ。オートフォーカスではなくマニュアルのM型カメラでは、レンズが大きいとレンジファインダーに干渉するため、レンズを小さめに設計したんだと思う。沈胴式の古いレンズをはじめ、ライカM/Lマウントの小ぶりなレンズたちを知ったときには少し感動した。ライカ純正のレンズは困ったことにとても高いが、コシナの現行製品や国産オールドレンズなら手に入れやすい価格で、気がつけばライカマウントを中心にレンズを揃えていた。一眼レフ用のレンズよりはるかに小さなライカマウントレンズ。小さいから画質はよくないんじゃないか?という心配は撮ってみてすぐに解消される。小さくていい絵を出してくれるなら言うことなし、である。
最近使いだしたライカMマウントのマニュアルレンズVoigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2 Asphericalも、非常にコンパクトで魅力的な写りをするレンズだ。同じフォクトレンダーの中でもよりコンパクトなこのレンズは、素早くフォーカスするときにはレバーを、じっくりフォーカスしたいときにはリングのギザギザを使えるという、マニュアルレンズ使いには嬉しい気の利いたレンズだ。レトロな純正フードを付けてもなかなかいいが、M型ライカで使うときにはレンジファインダーに干渉するのでフードはなくてもいいのかもしれない。僕のようにα7Sにアダプターを使ってつける場合にはフードがあった方がバランスがいい。とは言え、こういう小さいレンズはオートフォーカスを前提とした一眼レフ感の強いゴテゴテしたカメラには似合わない。レトロなルックスの小粋なレンズには、フイルムカメラのような平べったいデザインの方が合っている気がする。小気味よくファインダーを拡大できるEVFがついていて、なおかつデザインに優れたカメラがあればいいのだが、どこを見渡してもそういうカメラがないのが悩ましい。外見的なマッチングがいいのはもちろんM型ライカだが、内蔵EVFはもちろんついていない。レンズを製造しているコシナによると、レトロな外見に反して非球面レンズを使って収差を補正している現代的なレンズということだが、撮ってみると開放のF2でも少し絞ったF5.6でも周辺減光がある。僕にとって周辺減光はデメリットではなく歓迎すべき特徴だ。同じフォクトレンダーのNokton Classic 35mmのように絞りによる違いの幅が広いタイプではなく、周辺減光はあるものの四隅の像の流れは抑えられていてボケ味は割と「上品」である。面白いのはノクトンクラシック、使いやすいのはウルトロン、という印象。
今年Leica M10のPかDを買おうとしいて、ULTRON Vintage Lineが手元にあるのはその準備でもあった。M型ライカはM11発売の噂が出回っていて、rawデータのサイズを選べる仕様になるという魅力的な話があるので、購入を焦らず様子をみることにした。M型ライカについては、2種類表示されるブライトフレームをいい加減見直して、任意のフレームが1つだけ表示されるようになればみんなハッピーだ。外付けEVFもカラーリングや仕様が複数あって選べるとさらに有り難い。カメラやレンズは自分の都合のいいようにつくることができないのがもどかしいが、昔に比べたら中身は確実に進化してるので、不満ばっか言ってないでメーカーへの感謝も忘れてはいけない。M型ライカは、フルサイズセンサーのカメラの中では割と小さいカメラだ。
小さいカメラに小さいレンズを付けてふらふらと写真を撮り歩く。そんな小さな機材でいい写真なんか撮れるの?というトーシローの先入観を一瞬にして粉々に砕くような力強い写真が撮れると気持ちいい。切れ味のいい小型ナイフだけで、バッサ、バッサと、虎でも熊でも恐竜でも片っ端から倒しちゃうよ、そんな感じで写真を撮っていく。胸ポケットに入りそうな小さなレンズを使い、自分の目と手で合わせるマニュアルフォーカスをオートフォーカスよりも正確に決めて、中判カメラと疑うほどのクオリティで写真を撮れると最高だ。
昔と比べると日本人の体は大きくなったという。僕の身長が160cmで、それは戦争が終結した1945年頃の日本人男性の平均身長だ。父も母も背が低い。これでも遺伝子に逆らってよく健闘した方だ。最初に勤務した小さなデザイン事務所は僕より背の低い社長が切り盛りするところで、自分が大きいと錯覚する不思議な空間だった。しかし2番目に勤務したデザイン事務所では「なんでそんなに背が低いの?」と先輩によく笑われたものだ。コンプレックスは人を強くする。勤め人時代は自分の給料を上げるための努力を惜しまなかった。欧米化と栄養で日本人の背は伸びたわけだが、外を歩いていて背の低い僕でも圧迫感を感じないことも多い。まだまだ日本人は「小さい」ということなのか。同世代や若い人で僕より背の低い人を見かけるとついつい同情してしまう。小さい我々リトルヒューマンズは、物理的に何かと大変なのだ。ただ不思議に思うのは、戦後アメリカの奴隷になって大きいものに憧れ大きいものを目指してきた我々日本人だが、長年培ってきた性質なのか小さいものをいまだに好む傾向がある。「かわいい」という価値観がこれほどまでに浸透した理由も、そこら辺にヒントがありそうだ。
僕の「小さいレンズに反応してしまう性」はある程度確立されている。街へ出て知らない人を隠し撮りすることはほとんどないので、デカイカメラにデカイレンズを付けてその姿が目立ってしまってもなんの問題もないわけだが、場所をとって重たい機材を持っているとそれだけで疲れてしまう。登山に行くとき、なるべく荷物を少なく…と心がけるものの、最低限必要なものをバックパックに詰め込むと、それなりの重さになってしまう。この山道も手ぶらだったらさぞ気持ちいいだろうなぁ、そう何度も思った。重たい荷物を持って歩くことが目的なのか、写真を撮ることが目的なのか、答えは明白だ。
このページの撮影機材
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¥1,100 -
写真集「Nostalgia」
¥1,100 -
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¥1,100 -
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¥1,100 -
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lens
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- MINOLTA M-Rokkor 40mm F2
- MINOLTA MD Rokkor 50mm F1.4
- Voigtlander SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Ⅲ
- Voigtlander COLOR-SKOPAR Vintage Line 21mm F3.5
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- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ MC
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 SC
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 E-mount
- Voigtlander NOKTON Classic 40mm F1.4 SC
- Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC
- Voigtlander APO-SKOPAR 90mm F2.8
- PENTAX Super Takumar 50mm F1.4
- PENTAX Super Takumar 55mm F1.8
- PENTAX SMC Takumar 200mm F4
- Nikon Nikkor-H Auto 50mm f2
- Nikon Ai Micro-Nikkor 55mm f/2.8S
- CANON 50mm F1.8 Ⅱ
- CANON 100mm F3.5 Ⅱ
- ZEISS Planar T*2/50 ZM
- GIZMON Wtulens 17mm F16
- OLYMPUS M.ZUIKO 12mm F2.0
- OLYMPUS M.ZUIKO 25mm F1.8
- OLYMPUS M.ZUIKO 40-150mm F4.0-5.6R
- LUMIX G VARIO 100-300mm F4.0-5.6 Ⅱ
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