Super Takumar 50mm F1.4
2023.11.06PHOTOGRAPH and WOLFどうも最近愚痴っぽくなっている。テレビを見ては「どのチャンネルも終わってんな」とか「NHKはもう世の中に必要ないね」とか「日本のドラマが韓国ドラマよりも面白くないのは俳優というより制作のレベルが低すぎるんだな」とか「政府の考える政策は小学生でもわかるくらいクソだな」とか、まぁ本当に自分でも見苦しいと思うほどに愚痴がこぼれる。自分のことに忙しくて世の中のことにあまり目を向けてこなかった人生だが、ザッと見渡してみると納得のいかないものが膨大にあるのが世の中である。受験で力を使い果たしてしまう学生と同じく、選挙に当選することが主な仕事になっている政治のシステム。刑務所の受刑者に税金が使われているのはおかしい。仕事を与えるのではなく税金をばらまくだけの生活保護はおかしい。熊や鹿が殺されると狂ったように反応する動物愛護団体が今日のランチに牛肉を美味しそうに食べるのはおかしい。戦争を止めようとする国がないのはおかしい。値上げしないのが美徳と考えて経営を圧迫させる風潮がおかしい。そもそも宗教はおかしい。とにかく言い出したらキリがない。
カメラについても色々と疑問がある。ミラーレスカメラがいまだにペンタプリズム時代のデザインを踏襲しているのはおかしい。距離計が連動しない最短70cm以下のレンズを出しているくせにM型ライカがEVFを内蔵しないのはおかしい。各メーカーでアホみたいに似たような名前をカメラにつけるのはおかしい。これも言い出したらキリがないが、何となく「大人の事情」と呼ばれる実現力のなさが垣間見せて何だか物悲しい。だが、そうやってブツクサ言い続ける日々はあまりよろしくない。犯罪や天気の情報を垂れ流してるだけのニュースばかり見ていないで写真撮りの楽しい毎日に没頭しよう。というわけで、ここからはレンズの話である。
スーパータクマー 50mm F1.4は少し前から気になっていたレンズだ。55mm F1.8と違って解放が滲まずに使える。とは言えオールドレンズなので、開放がまともに使えるのは光が穏やかな室内や日影に限られてしまうが、55mm F1.8と比べるとややしっかり者といった描写をするようだ。横浜駅をフラフラしていたら8,000円で売っているのを見つけてしまい、試してみることに。タクマーレンズは魅力的な写りをするレンズだが、製品数が多かったのかそこら中で売っているし、驚くほど安い。こんなに安くていいの?という安さだ。写真をこれから楽しみたいという初心者や学生は、中古のフルサイズミラーレスとマウントアダプター、そしてタクマーの50mmを買うべきである。マウントアダプターは最近買った「SHOTEN マウントアダプター M42-LM R50」がデザイン的にとてもよろしい。レンズが230g、アダプターが94gで合計324g。ライカのズミルックスが337gなので似たような重さだ。
このレンズはトリウムが使われているアトムレンズと言われる後期型レンズで、僕が手に入れた個体もやや黄変している。放射能については気になるところだが、調べてみると歯医者でレントゲンを1回撮った場合の値とファインダーを17時間見続けた場合の値が同じようなので、それほど神経質になる値でないことがわかる。黄色に寄った色味が好きなのでレンズの黄変も気にならない。そもそもレンズの色味なんか大して気にしていない。タクマーの描写はあっさりしていて動画のS-Logに似ている。強いコントラストが欲しければ現像で調整すればいいし、コントラストの低さを活かしたいと思えばそういう現像をすればいい。ライカMマウントとM42マウントではフォーカスの回転が反対方向なため、Mマウントで慣れた左手が一瞬戸惑うことになるが、それはそれで脳の切り替えになってよし。そんなことより、こんなに魅力的なレンズをたった8,000円で楽しめるなんて、いい時代になったもんだ。収差と戯れたり、リアリティを追い込んだり、60年も前のレンズを使って写真を撮るのは趣が深い。
スーパータクマー 50mm F1.4で撮るモノクロ写真もなかなか気持ちいい。モノクロ写真は色を廃した極端なエフェクトだ。カラーの世界から逃げ出して色のない世界を再構築していると、心の中もシンプルになっていくような気がする。撮り手にとってモノクロ写真の面白さはその難しさにあると思う。考えずにぼーっと撮っていたら「カラーでいいんじゃない?」というモノクロ写真の残骸の山を積み上げることになる。カラーをモノクロに変換しました、という写真にはしたくない。これぞモノトーン!と言える美しいモノクロ写真を連発したい。それが結構難しいのだ。色がないから色を気にしなくていい。そのかわりに自身が浮き彫りにされる厳しい世界である。服は着なくていいですよ、でも全裸で歩きなさいね。そう言われても裸体に自信のある人ばかりではないのが世の中である。
愛犬を失ってしばらくぼんやり過ごしていたが、思ったより早く写欲が戻ってきた。月日が過ぎても悲しいには悲しいが、いつまでもメソメソしているわけにはいかないのだ。次はどんな写真を撮ってみようかな、オーバーぎみに撮って現像で締めてみようか、もっと濃厚な写真が撮りたいな、ピントの甘い表現を追いかけてみるか、そんな写欲にゴールはない。いい写真がほとんど撮れなくてガックリしたり、最高の1枚が撮れてニヤニヤしたり。世の中のくだらないアレコレへの不満や愛犬を失った喪失感をかき消すように、写真を撮ることに没頭していく。僕にとって写真を撮ることは、欲望であり、楽しみであり、苛立ちや悲しみを緩和する最良の薬だ。
このページの撮影機材
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写真集「BLUE heels」
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写真集「Nostalgia」
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写真集「植物美術館」
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写真集「花美 1」
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写真集「花美 2」
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写真集「花美 3」
¥1,100
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