現役とリタイアの分岐点
2018.08.30PHOTOGRAPH and WOLFマニュアルレンズにハマってしまったおかげで、オートフォーカスレンズにまったく興味がなくなってしまった。オートフォーカスレンズのほとんどは絞りを操作するリングがついていない。絞りを設定するのはカメラの液晶で操作することになる。これがどうにも味気ない。そしてピント合わせ。シャッターボタンを半押しして瞬時にピントが合い、片手でも写真が撮れるし、それはそれは便利なのだが、ピントを合わせるという行為が楽しめない。
オートフォーカスレンズもマニュアルに切り替えれば、手動でピントを合わせることができる。一方マニュアルレンズでは、どこをどう操作しても気合を入れても泣き叫んでも絶対にオートフォーカスはできない。実はこの「できない」というのがとても重要なポイントだ。何でも簡単にできるようになった現代において「できない」ということは貴重な資産だと思う。「できない」ことの素晴らしさを知らない大人は、本当の大人とは呼べない。
オートフォーカスのレンズと比べてマニュアルレンズはそれほど多くない。好みを言い出すとさらに選択肢は少なくなる。気に入ったものを何度も繰り返し使いたい性格なので、これこそと思えるものを見つけるまでに時間がかかる。うーん、うーん、とWEBを彷徨いながら日々唸る。フランジバックの短いα7R2で使うのだから、いっそ古いレンズでも使ってみようか、と前から気になっていたPENTAX Super Takumar 55mm F1.8をamazonで購入した。
PENTAXのオールドレンズSuper Takumar 55mm F1.8は、初期、前期、後期と発売時期によって仕様が異なっていて、後期はアトムレンズと呼ばれる放射能を含むレンズを使っているため、前期のものを探して購入した。(約7,000円)1963年に生産されたM42マウントのこのレンズは、小型かつ軽量でとってもいいのだが、α7R2で使うためにマウントアダプターをつけるとやや長めのシルエットになってしまう。本当は長いレンズは好きじゃない。それでも55年前のレンズで撮るという趣に誘われて積極的に写真を撮ってみる。
オールドレンズというと周辺光量落ち、像が流れる、二重ボケ、フレアやフリンジといったモダンレンズにはない欠点がある。スーパータクマーも例にもれずそういうレンズのようだ。ただ、実際に撮ってみると決してディテールやモダンな色を再現できないレンズではないことがわかる。このレンズで撮ると何となくオールドでノスタルジックな色調に現像したくなってしまうが、色やコントラストをモダンな雰囲気で撮ることも充分できそうだ。安く買えるレンズなので、はっきり言って期待半分だった。予想を裏切る嬉しい結果で7,000円で買ったけれど、7万円の価値はあると思うほど。あまりにも気に入ってしまったので、道具を買って分解掃除をしてヘリコイドグリスを塗り直した。レンズを分解して磨いていると職人気分が味わえてちょっと楽しい。
55mmに満足してから望遠も欲しくなってPENTAX SMC Takumar 200mm F4を買う。こちらも約7,000円。このレンズにマウントアダプターと専用フードをつけるとシルエットはかなり長い、そしてちょっと重い。まぁ、それでも、フルサイズ望遠単焦点の同じスペックのものと比べたら可愛いもんだ。望遠レンズのマニュアルフォーカスはピント合わせが難しい。開放ではなく少し絞って撮ると安定した画質が得られる。こちらも55mmと同様、かなりポテンシャルが高く7,000円で買ったことを忘れてしまうほど。
スポーツ選手でもサラリーマンでも、いつかは現役を退いてリタイアする。体力の低下、技能の低下、老化…。理由は色々あるがリタイアとはつまり「使われなくなる」ことだ。現行のものか、過去のものか。それ自体の価値は、世の中が求めるニーズによって決まってしまう。価値を維持することができれば、生涯現役というのもありえるし、価値が維持できなければ残念ながらサヨナラということになる。変わらない実力があったとしても、ニーズが変わってしまうことでリタイアしてしまったものもある。金にならないビジネスはほとんどの場合、やめてしまうからだ。しかし、全盛期と比べて極端にニーズが少なくなったとしても、それがゼロにならない限り現役でいられるはずだ。
Super Takumar(スーパータクマー)というちょっとダサい名前のレンズは、製造が古く、オートフォーカスではなく、評価は決して高くなく、希少価値も低い。だから中古カメラ店で安く売られているレンズだ。とっくの昔に生産を終了したレンズなので、リタイア組ということになる。ルックスもそれほど悪くないし、こんなにいいレンズなのに実にもったいない。もし仮に、このマニュアルレンズが大量に売れなかったとしても、看板を降ろさず細々と生産を続けていたら、きっとこのレンズは現行レンズとして数万円で売ることができると思う。
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