LEICA M11の馬鹿ヤロウ
2022.11.03PHOTOGRAPH and WOLF価格が飛び抜けて高いことでM型ライカが神格化されている。レンジファインダーが使える唯一の現行カメラであり、昔と変わらないスタイリングがただならぬ存在感を放っている。使ったことがない人は「いつかは俺も…」と心の中で嘆き叫び、持っている人は本当にこのカメラでよかったんだろうか?と自分に問いかける、それが現代におけるM型ライカだ。僕の手元にM11が届いてから5ヶ月ほど経ち、道具として理解が深まってきた。なぜライカを使うのか?どうしてM型なのか?同じライカ使いでも理由は様々だと思うが、ライカやマニュアルレンズのワードでこのWEBに辿り着いた人の余談として、Leica M11について少しだけほざいてみよう。そう、これはM11をディスる暴言である。
まず画質。前機種のM10を使ったことがないので絵づくりについてM10と比べることができないが、3年ほど前に使っていたM typ240と比べるとかなりノーマルな絵づくりになっている。ただし、ノイズは相変わらず出やすい。フルサイズセンサーで最新機種だからとノイズフリーを期待するとガッカリすることになる。シャドーを強調するところは他のM型ライカと同じでマッチョでストロングな絵づくりとも言えるが、トーンが均一でないために階調が狭く感じることもある。小ぶりなボディサイズでありながら6,000万画素という解像度は立派だが、写真の隅々まで均一に描写するような一般的で安定した高画質を望むカメラではない。
次に耐久性。M11は実にデリケートなデジタルカメラだ。防塵防滴ではないのはもちろんのこと、他のカメラと比べておそらく壊れやすい。丈夫なカメラと言われていたのはフィルム時代の話で、電子機器としての耐久性が求められるデジタルカメラ世界では話が違ってくる。発売開始直後は6ビットコードのないレンズとライブビューを併用すると電源が入らなくなるという不具合があった。アップデートされて解消されたものの、1枚目のデータが破損することがたまにある、電源が入らずバッテリーを抜き差しして撮ることがある、ライブビューが表示されないことがある、といった具合に最新のカメラとは思えないような不安定ぶりを恥ずかしげもなく披露してくれる。自分が使いやすいよう設定した設定が、どういうわけか勝手にリセットされてしまったこともある。ライブビューを使い続けるとあっという間に熱がこもる。剛健そうな見た目とは裏腹に内部のデジタル機構は非常にデリケートで、そのナイーブな内部の機嫌を損ねないよう、慎重に扱わなければならない。
そして何と言っても厄介なのがクセ者のレンジファインダーだ。レンズから見える像ではなくファインダーの中の二重像でピントを合わせて写真を撮るという、完全に時代遅れのこの機構はM型ライカの最も特徴的で愛される部分でもある。かなり昔の機構なのに思いのほかピントがしっかり合うのは大したものだが、過去の遺産であることは否めない。一眼ではなく二眼、左目で見て右目で撮るのと同じだから、ファインダーから見える世界と実際に撮れるものは結構違う。写真のフレーミングはファインダー内に自動的に表示されるブライトフレームを目安にするが、中望遠のフレームはファインダーに対して小さく広角の枠はほぼ見えないので、必然的に50mmか35mmのレンズしか使えなくなる。標準レンズを使ったとしても、少しでもサイズが大きいとレンズが干渉してフレームの右下部分が見えなくなる。右下にコレを入れて上の方にコレが見えるように…といった厳密なレイアウトをすることができないのだ。レンジファインダーといい関係を築くためには「実際にはこう写っているはずだ」という想像力と「細かいことは諦めましょう」という割り切りが必要になる。レンジファインダーの評価は、昔と今で評価のニュアンスが違うような気がする。昔はF2という絞りで撮ってもピントが合うという実用性が評価されたのかもしれないが、今の評価は趣味性に偏っている気がする。マニュアルの広角レンズでピントを合わせるときには大いに役立つファインダーだが、それ以外で高評価する理由が正直見つからない。
レンジファインダーを否定したらこのカメラを使う意味はないじゃないか?と言われそうだが、M11には高画質なEVF「ビゾフレックス2」を取り付けることができる。他で探してもチルトできるEVFは世の中にほぼないと言っても過言ではない。ファインダーの角度を変えることができるとローアングルや下から見上げる撮影が劇的に効率的になる。M型ライカのシンプルで美しいデザイン、そしてチルトできるEVFが使えることが、僕がM11を使う理由だ。しかし、このEVFも安直に優れているとは言い難い。最新であるにもかかわらず、しっかりと存在するブラックアウト。映像の追従性は8年前に発売されたα7Sよりも悪い。ファインダーを覗きながらカメラを振ると追従性の悪さで画面が歪みまくる。これだったら解像度を落としてフレームレートを上げてくれた方がよかったのに…。と思わずため息をつきたくなる。10万円もする外付けEVFだが電子機器としての性能を過度に期待してはいけない。前のモデルよりもシンプルになったものの、完成度の高いM型ライカに取り付けると「余計なものをつけている感」がどうしてもある。そこでヤスリで削って金属を露出させ、シルバーボディに馴染ませる。
M11からセンサーで測光する仕組みになったようで、電源を入れるとシャッター膜が開く音がする。レンジファインダーにブライトフレームが表示されるのはシャッター幕が開くのと同時だが、EVFが表示されるのは少しタイムラグがある。だから「起動は速い」とは言い難い。電源を落とした状態ではシャッター幕が閉じていて、レンズ交換時にホコリが入ることは少ないのかなと思っていたが、そんなことはない。静電気が発生しやすいのか何なのか、センサーダストが結構気になる。開放でしか撮らない人には無縁だが、絞って撮ってハードな現像をするとセンサーについた小さなホコリが写真にポツポツと現れることになる。クリーニングしてもらおうとライカに連絡すると、以前は当日でやってもらえたがコロナの影響もあって数日預かりになると言う。国内のカメラならキタムラあたりでクリーニングをしてもらえるが、ライカは非対応で受け付けてもらえなかった。仕方ないのでクリーニングキットをアマゾンで買って対処している。
Leica M11の最も如何ともし難いところは、高すぎる価格だ。買っておきながら大きなお世話だが、もうちょっと何とかならんかね?と正直思う。近所のコンビニに出かけたとき身につけている腕時計とアクセサリーで1,000万超えのセレブなら、120万のカメラなんて使い捨てのパンツくらいにしか思わないかもしれないが、僕のように平凡を愛し平凡に愛され犬を撫でているときに幸せを感じる小市民の場合、20年くらい使い倒さないと納得できない金額である。写真で稼ぐカメラマンにしても、昔のようにスタジオや機材やレンズが仕事を増やしてくれる時代ではないので、M11は仕事の道具としてかなりコスパの悪い機材だと言える。カメラ界のエルメスやシャネル、といったマーケティング戦略は結構だが、まぁ、とにかく、M11は高いカメラである。youtubeでライカは何故高いのか?という興味深い話を拝見したが、プロダクトの性能や品質うんぬんの前に、日本とドイツの仕事に対する考え方の違いが大きいのかもしれない。「安くていいものを」を実現するためにメーカーの様々な部署が徹夜して納期を切り詰めてつくられた製品か、ゆっくりまったり仕事して時間がかかっちゃったから価格を上げて帳尻合わせた製品か。成り立ちがまったく違うのだ。とんでもなく高いから、とんでもなくいい写真が撮れんの?と期待して鼻息を荒くして買うとしっぺ返しを食らうことになる。素人なのでいい加減なことしか言えないが、M11が日本のメーカーでつくられたカメラだったら、せいぜい30万くらいのカメラだ。
毎日のようにシャッターを切ってM型ライカを使ったことのある人なら、他のミラーレスカメラにはない不便さと厄介さを痛感し、手放しに最高のカメラだと言えないことを知っていると思う。魅力的だが、欠点が目立つ。まるでオールドレンズのようだ。そう言えば、その昔、僕の周りにはそういう人がたくさんいた。何だよそれ?勘弁してくれよ!そう思いながらもカッコイイと思える先輩たち。そもそも、魅力があって欠点のない人などいない。それと同じく、魅力があって欠点のないプロダクトなどあるだろうか?何だかんだ言いながら、Leica M11は今のところ僕にとってベストカメラだ。何だよそれ?勘弁してくれよ!そう呟きながらできるだけ長く付き合っていきたい。
このページの撮影機材
LEICA M11
LEICA
Summicron 50mm F2.0 Collapsible
Voigtlander
NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC
PENTAX
Super Takumar 55mm F1.8
MINOLTA
M-Rokkor 28mm F2.8
-
写真集「BLUE heels」
¥1,100 -
写真集「Nostalgia」
¥1,100 -
写真集「植物美術館」
¥1,100 -
写真集「花美 1」
¥1,100 -
写真集「花美 2」
¥1,100 -
写真集「花美 3」
¥1,100
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lens
- LEICA Summicron 50mm F2 1st Collapsible
- Thypoch Eureka 50mm F2
- MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8
- MINOLTA M-Rokkor 40mm F2
- MINOLTA MD Rokkor 50mm F1.4
- Voigtlander SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Ⅲ
- Voigtlander COLOR-SKOPAR Vintage Line 21mm F3.5
- Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ MC
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 SC
- Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 E-mount
- Voigtlander NOKTON Classic 40mm F1.4 SC
- Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC
- Voigtlander APO-SKOPAR 90mm F2.8
- PENTAX Super Takumar 50mm F1.4
- PENTAX Super Takumar 55mm F1.8
- PENTAX SMC Takumar 200mm F4
- Nikon Nikkor-H Auto 50mm f2
- Nikon Ai Micro-Nikkor 55mm f/2.8S
- CANON 50mm F1.8 Ⅱ
- CANON 100mm F3.5 Ⅱ
- ZEISS Planar T*2/50 ZM
- GIZMON Wtulens 17mm F16
- OLYMPUS M.ZUIKO 12mm F2.0
- OLYMPUS M.ZUIKO 25mm F1.8
- OLYMPUS M.ZUIKO 40-150mm F4.0-5.6R
- LUMIX G VARIO 100-300mm F4.0-5.6 Ⅱ
- All Photograph