記録の写真

2024.06.28PHOTOGRAPH and WOLF

LEICA M11 / Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

写真は真実ではない。なぜなら撮り手によって脚色されるからだ。テレビや新聞や雑誌で報道される内容は、すべて真実だと疑わない時期があった。少年の頃の話だ。しかし大人になると、ネタ元は現実であっても世の中のあらゆるものが伝達するときに都合よく編集され、脚色され、操作されていることを知ることになる。今はインターネットによって大人の嘘が暴かれる時代だが、それと同時に嘘が簡単に拡散される時代とも言える。写真も昔は記録として割とフェアな存在だったが、編集、複製、創作が手軽にできるようになった現在の写真は、決して真実を語るものではない。

書店に行くことなどほとんどないが、近所の店にふらっと寄って立ち読みした。そこで見つけたのが橋本貴雄氏の写真集「風をこぐ」である。

橋本貴雄「風をこぐ」(amazon)

足の不自由な愛犬と風景を撮影した静的で素朴な作風の写真集だが、ネガで撮影しているのか僕好みのトーンで、独特の情緒と切なさに徐々に引き込まれ、愛犬が亡くなる前後のくだりでは涙を堪えるのに必死だった。つまり、胸を打ったのである。しかも、激しく。帰宅するのも待てずにスマホから即買し、翌日届いた写真集をじっくりと味わう。この写真集は、どちらかと言えばドキュメンタリー要素が強い。つまり記録である。

そもそも、記録的な写真にあまり関心がない。戦争や難民の様子を生々しく撮った写真とか、知られざる現実の世界とか、そんな感じの写真に感銘を受けたことはない。もちろん家族の写真を撮るときには、記録的な目的が強い。だが、1人で出かけるときに、何かを記録しようとカメラを持ち出すことはないし、そういう写真を撮りたいと思ったことがない。写真を撮る目的が「記録」ではなく「表現」だからだ。記録としての写真?つまらんのぅ!と、そういう偏見が確実にある。そんな人間だけに「風をこぐ」で心が動いたのは意外だった。昨年、15年一緒に暮らした犬が亡くなったことも影響している。「風をこぐ」は愛犬フウの一生を描き、命の最期を描いている。

たまたま見つけた写真集を見終わってから、昨年僕の前から消えてしまった愛犬のことをぼんやり考えた。いつも散歩させていた道を歩きながら、夏も冬も一緒に歩いた過去の時間に呼びかけてみる。一緒に歩いたこの場所はどんな風に見えていたんだろうかとか、この場所でよくオシッコをして水で流したなとか、そんなこと思いながらシャッターを撮る。

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

LEICA M11 / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

LEICA M11 / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

LEICA M11 / Voigtlander NOKTON Vintage Line 50mm F1.5 Aspherical II MC

LEICA M11 / Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

LEICA M11 / Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

LEICA M11 / Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

LEICA M11 / Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

LEICA M11 / Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

LEICA M11 / Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

LEICA M11 / Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2

愛犬が亡くなってからずっと、部屋の色々な場所に写真を飾っている。相当な量の写真を撮ってきたつもりだったが、今になって「全然足りない」と思う。過去に戻って撮り直すことなどできない。もっと撮っておけばよかったと後悔しても時は戻って来ない。記憶はどんどん色褪せていく。写真や映像が残っていて見ることができれば、曖昧な記憶が一気に鮮明になって嬉しい反面、いつまでも切ない思いを味わうことになるだろう。皮肉なことに写真や映像が残っていることで、悲しみが倍増するという現実もある。だが、ちょっとだけセンチな気持ちになったとしても、せめて写真の中だけでも愛しいものに再会したい、という気持ちの方が勝ってしまうのだ。だって人間だもの、とそういうわけである。

SONY α7S / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

写真集販売PHOTOBOOK WOLF