アナログを求める心理

2026.06.02PHOTOGRAPH and WOLF

FUJIFILM X-E4 / MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8

先月開催された大阪の本町での写真展示では、このサイトを見てくれている人たちが写真を見に来てくれて嬉しかった。その中には外国の人もいて、たまたま仕事で来日したタイミングで来てくれたらしい。写真好きに国境なし。非言語表現である写真の魅力を再確認した。写真を買ってくれた人の中にモノクロフィルムで写真を撮って自身で現像しているという人がいて、こりゃまた強者が現れたなと感心する。フィルム撮影で使っているというOLYMPUS 35 SPという何とも愛らしいデザインのフィルムカメラを見せてもらい「俺も欲しい!」と思わずヨダレを垂らしたのは言うまでもない。デジタルではないカメラ、フィルムで撮影された写真には今もなお見逃せない魅力がある。なぜ人はアナログの質感を求めるのだろうか。

FUJIFILM X-E4 / TTArtisan 23mm F1.4 C

もうずいぶん昔の話になるが、デザインの仕事にパソコンを使うのがすっかり当たり前になった時代に、アナログの味をデジタル原稿の中に取り込むことに夢中になっていた時期があった。手書きの文字やイラストをスキャンしてベクトルデータに変換したり、紙のテクスチャを写真に撮ってデザインの素材として使ったり。とにかく少しでもアナログ的な要素を入れ込むことで、広告のクオリティが上がると思っていた。ある意味それは短絡的とも言える考え方だが、実際にパソコンだけで組み立てたデザインよりもアナログの要素を加えるだけでデザインは魅力的になった。多くのトップデザイナー達がポスターやCMにアナログの要素を入れ込んで、魅力的なデザインを展開していた。そういう傾向というか趣向は、今でも残っていると思う。

写真に限らず、アナログの魅力はそこら中にある。例えば音楽のレコード盤。CDやmp3の音源と比べて、レコードで聴く音楽は音の粒がしっかりしていて臨場感がある。大きなボリュームで聴けば、まるで同じ部屋にプレイヤーがいて演奏しているかのような再現性がある。残念ながらそういう環境で音楽を聴く経験はほとんどないが、20代の頃、会社の先輩の狭い部屋で聴いたレコードとアンプとスピーカーが吐き出す肉厚なサウンドが今でも耳に残っている。カーティス・メイフィールドとかファットバックとか、ゴリゴリのブラック・ミュージックだ。

FUJIFILM X-E4 / TTArtisan 23mm F1.4 C

FUJIFILM X-E4 / TTArtisan 23mm F1.4 C

写真の現像で、心のどこかで常にアナログの雰囲気を求めている気がする。デジタルカメラで撮影した写真を、階調を狭くしたり色を編集したり彩度を低くしたりノイズを入れたりと、アレやコレやと試行錯誤を重ねている。夢中になってモニターの前の写真と格闘していると、どこを目指していたのか何がゴールなのかわけがわからなくなってしまうので注意が必要だ。客観性が欠如していると迷子になる。しかし、主観的かつ直感的の方が楽しい。その辺のバランスを保てるかどうかで、デジタル現像という行為を楽しめるかどうかが決まる。

写真はよくも悪くもその時の自分が反映されている。心持ちもそうだし、写真に対する考えも少しずつ変わっていく。現像のトーンもそうだ。そりゃあ、長く撮ってれば変わってくるよね。変わらない方がおかしいよね。お前、ずいぶん変わったよなって悲しそうな顔して言わないでね。それが人生というものである。そして、どう変わってきたのかを時折振り返ってみるのも大切だ。

FUJIFILM X-E4 / Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ

FUJIFILM X-E4 / Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ

久しぶりに自分の撮ってきた写真を見返してみる。あれ?あんまり変わってないねとか、結構よくなってきたねとか、逆に退化してんじゃ…とか、そういうのが混沌としてそこにあるのが過去というものである。興味深いのは、フィルムで撮った写真のトーンが自分の中では「理想形に近い」と思えたことだ。デジタル現像で試行錯誤を重ねて苦労してるだけに、安直に「やっぱそうだよね」とは言えないのが本音だ。えー?やっぱりフィルムなの?いやいやデジタルの方が遥かに撮りやすいでしょ?と2人の天使が頭の周りを旋回し始める。正直、他人にはわからない微妙な差なのかもしれないが、Nikon F2やOLYMPUS PEN-Fで一時期少しだけ撮った写真が「こっちの方がよくない?」と語りかけてくるのだ。

Nikon F2 / Nikkor-H Auto 50mm f2

Nikon F2 / Nikkor-H Auto 50mm f2

Nikon F2 / Nikkor-H Auto 50mm f2

Nikon F2 / Nikkor-H Auto 50mm f2

「フィルムで撮った写真」のイメージは、おそらく人によって異なる。再現性の高さと写真の汎用性が求められる職業カメラマンがスタジオでライティングして商品撮影をした場合、フィルムとデジタルの違いはそこまでない。趣味人が撮る写真の場合は、露出やピントが甘くても街の写真屋さんの機械で強引に補正されてプリントで出てくるアレがフィルムで撮った写真のイメージだろう。粒子が荒かったり、色が転んでいたり、そういうものを多くの人がイメージしているに違いない。作家が作品として仕上げる写真の場合、「フィルムで」ということよりもプリントでどう仕上げるかに重点が置かれていたに違いない。作風は作家によって三者三様なので、当たり前だが「フィルムで撮った写真」のイメージは1つに限定されない。だから「フィルムで撮った写真はやっぱりいいねぇ」と誰かが言ったところで、すべての人が同じイメージを持ってそう言っているわけではないのだ。

フィルムをスキャンしても、プリントをスキャンしても、僕のようにフィルムを再度撮影してデジタル現像しても、結局デジタル化するなら意味がないように思えるが、どう処理してもどこかしらアナログの風味が残る。それは光がフィルムに焼き付いて、写真が物質化していることに起因している気がする。それならデジタルカメラで撮った写真でも一旦プリントしてからもう一度撮影してみたらどうだ?ということをついつい考えてしまうが、確かに試してみる価値はありそうだ。ただ単に風合いを求めるなら、やり方は色々あるはずだ。

SONY α7CII / MINOLTA M-Rokkor 40mm F2

FUJIFILM X-E4 / Thypoch Eureka 50mm F2

FUJIFILM X-E4 / Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ

FUJIFILM X-E4 / Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ

SONY α7CII / Thypoch Eureka 50mm F2

昔へのノスタルジーとか、ないものねだりとか、アナログの風合いを求める心理について色々な見方があると思うが、それだけではないような気がしている。欠点がある方が魅力的に見えるとか、スマホで撮った写真みたいなのはつまらないとか、そういうのもあるだろう。色合いとか描写のクセとかバランスとか、細かく分析していけば近い状態を再現することは可能だが、100%一致は難しい。そこが面白いところでもあり歯がゆいところでもある。デジタル化していままで空間を占領していた数々の「物」が不要になり、合理的かつ快適な世の中になった今でも、相変わらず物質が放つ魅力から解放されない我々人間である。

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